三陸の海街に生まれたワイナリー
スリーピークス(THREE PEAKS)は、岩手県大船渡市の造り手です。醸造所とショップがあるのは、東日本大震災のあと海沿いにつくられた復興市街地「キャッセン大船渡」の8街区。所在地は大船渡町字茶屋前99です。自らを「海街ワイナリー」と呼び、2022年の取材記事(Terroir.media)では、大船渡駅から歩いて約3分の場所と紹介されています。
運営は株式会社スリーピークスで、公式サイトの会社概要によれば2016年3月30日設立、代表取締役は及川武宏さんです。掲げる言葉は「三陸に100年続く新しい文化を創造する」。社名は、大船渡のある三陸に由来すると、2019〜2020年のクラウドファンディング(CAMPFIRE)で説明されていました。
及川武宏さんと、2013年からの歩み
CAMPFIREのプロジェクトページに載る及川さんのプロフィールをたどると、ワイナリーまでの道のりが見えてきます。及川さんは大船渡生まれ。高校を出て町を離れ、ワーキングホリデーで渡ったニュージーランドのぶどう畑で働いたことが、ワイナリーを思い立つきっかけになりました。2011年の震災のあとは、被災地の子どもを支える財団で働き、2014年1月に家族とともに大船渡へ戻っています。
活動の始まりは、日本ワイナリー協会の会員紹介などによれば2013年5月。同じページの年表では、2013年に隣の陸前高田市でりんご園を借りて栽培を引き継ぎ、2014年に大船渡市猪川町で土地を借りて、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランを約600本植えました。この畑が「猪川町ヴィンヤード」です。自社の醸造所ができるまでの2014〜2016年は、山梨県勝沼の親族が育てたぶどうを使い、委託醸造でワインを造っていたといいます。
そして2018年5月、キャッセン大船渡に醸造所が完成しました。翌2019年4月には、大船渡で育てたぶどうで造る初めての白ワイン『CHARDONNAY 2018』を発売し、完売しています。2019年12月からのクラウドファンディングでは、大船渡の耕作放棄地にぶどうを植える資金を募り、136人から125万2,000円が集まりました。
酒販店「物語酒店」の造り手紹介によれば、スリーピークスは両親と夫妻、幼い子ども3人の家族7人で営むワイナリーです。りんごのシリーズ『りんご屋まち子』の「まち子」は、りんご園を担う及川さんのお母さんの名前から取られています。
猪川町のぶどうと、米崎のりんご
ぶどうの柱は、猪川町のシャルドネとソーヴィニヨン・ブランです。2022年の記事によれば、2021年はぶどうの収穫が400〜500kgと過去最多になり、植えてから7〜8年目のソーヴィニヨン・ブランが初めて十分な量に達しました。ほかにメルロー、キャンベル・アーリー、ナイアガラも仕込んでいます。自社の畑だけでは量が足りないため、山形県など東北各地のぶどうも買い入れていると、記事や2026年の発表で説明されています。
りんごは、陸前高田市米崎の借りた園から。物語酒店の紹介では、米崎は三陸でいちばん古いりんごの産地とされ、園には樹齢60年を超える木もあるそうです。古い木は実が小さく数も減りますが、味が凝縮するとして、摘果や葉摘みを控えて育てています。ぶどうが実をつけるまでは、このりんごとジュースを売って事業を支えてきました。
手を加えすぎない造り
2022年の記事で語られている造りの方針は、ぶどうとりんごそのものの個性を生かし、手を加えすぎないこと。清澄剤やろ過助剤は使わず、補糖もしません。メルローはマロラクティック発酵を経てウッドチップとともに熟成させ、甘口に仕立てられることの多いナイアガラを辛口で造っています。泡ものは瓶内二次発酵です。
公式サイトは、農家から預かった果実でワインやシードル、ジュースを造る委託製造も事業の柱に挙げ、実績としてミシュランガイド掲載店やG7広島サミットでの採用を記しています。醸造の計算に使うiPhone・iPad向けアプリ「TANK YOU」(買い切り1,500円)を自社で出しているのも、小さな造り手としては珍しい取り組みです。
『海街ワイン』『REGALO』『りんご屋まち子』
公式サイトに並ぶシリーズは3つです。
- 海街ワイン── パウチ入りのワイン。2026年7月24日に新しいパッケージで発売され、190mlでシャルドネ(白)とメルロー(赤)の2種、希望小売価格は税抜800円。三陸の海の青をまとったデザインで、旅先や列車の中、アウトドアに持ち出す一本として打ち出しています。
- REGALO・CARTAなど── 瓶のワイン。大船渡のぶどうで造るワインもこのシリーズです。2022年の記事では『REGALO 2021 ナイアガラ 白』(辛口)や『REGALO キャンベル ロゼ』が紹介されていました。仙台国税局の製造者一覧では『大船渡シャルドネ』が代表銘柄に挙がっています。
- りんご屋まち子── りんごジュース、シードル、アップルワイン。公式サイトでは乾杯向けのドライシードルを看板にしています。
2026年の発表によれば、JR東日本のクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」やミシュランガイド掲載店でも扱われています。シードルやアップルワインの位置づけは第91講 シードルとフルーツワイン完全編で整理しています。
訪ねる前に、開店日を確かめる
醸造所にはショップがあります。仙台国税局の製造者一覧(令和7年11月1日現在)では酒蔵見学は要予約、売店あり。日本ワイナリー協会の会員紹介には有料試飲ありと書かれています。
ショップの開店日と時間は、公式オンラインショップの予定表と公式SNSで告知されます。旅行サイトなどに載る営業日・時間は資料によって食い違っているので、出かける前に最新の予定を確かめてください。公式サイトによれば、電話は畑に出ていてつながらないことがあり、問い合わせフォームの利用を勧めています。
BRT大船渡駅から歩ける街なかなので、試飲をするなら鉄道とBRTで訪ねるのが気楽です。岩手の産地の全体像は産地:岩手と第80講 岩手完全編、東北の造り手は第90講 東北完全編にまとめています。訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問完全編へ。

