大迫・亀ケ森の、りんご農家とぶどう農家
亀ヶ森醸造所は、岩手県のほぼ真ん中、花巻市大迫町(おおはさままち)の亀ケ森地区にある小さな醸造所です。所在地は大迫町亀ケ森19-7-1。運営は合同会社亀ヶ森醸造所で、名前はそのまま地区の名前から取られています。
公式サイトの紹介は短く、ここで暮らすりんご農家とぶどう農家のふたりが立ち上げた醸造所だと書かれています。2021年に造り手を訪ねたTerroir.mediaの記事によれば、ふたりはりんご農家の高橋英則さんと、ぶどう農家の大和田博さん。高橋さんは親の代からりんごを育ててきた亀ケ森の農家で、大和田さんは岩手大学農学部を出て別の仕事に就いたのち、亀ケ森でぶどう農家になりました。ふたりが出会ったのは、花巻市農業公社が取り持つ畑の手伝いだったそうです。2024年のクラウドファンディング(READYFOR)では、大和田さんが代表として名前を出しています。
同じ記事によれば、会社を設けたのは2015年。この年の7月から民家を醸造所に改装し、2016年に醸造免許を取って最初の仕込みをしました。改装の多くは自分たちの手で、安く手に入れた中古の資材を使って進めたといいます。
大迫は、岩手のワインの歴史の中心にある町です。早池峰山の南のふもとに広がる盆地で、雨が比較的少なく、朝晩の寒暖差が大きい。この風土を生かして、1962年に町と農協の出資で始まったエーデルワインが、60年以上ワインを造ってきました。亀ヶ森醸造所は、その同じ町で、農家ふたりが自分たちの果実を自分たちで醸すために始めた造り手です。産地の全体像は産地:岩手と第80講 岩手完全編でまとめています。
原料の9割以上を、自分たちの畑から
公式サイトは、原料のりんごとぶどうの9割以上を自分たちで栽培し、残りは近所の農家から分けてもらっていると説明しています。畑では除草剤を使わず、化学肥料もできるだけ避け、肥料を入れない畑もあるとのことです。
Terroir.mediaの記事によれば、ぶどう畑の多くは、もとからあった畑を借りたものです。斜面の向きや傾きの違う区画が、あちこちに散らばっています。植わっているのは、キャンベル・アーリー、ナイアガラ、ヒムロット、ポートランド、アーリースチューベンなど、もとは生食用として育てられてきた品種が中心。大和田さんが自分で植えたのが、山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせたヤマ・ソーヴィニヨンです。すべて棚仕立てで育てています。公式サイトの商品一覧には、ほかにメルロー、マスカット・ベーリーA、紅伊豆のワインも並びます。
りんごは、ふじ、つがる、ジョナゴールド、王林、シナノゴールドなど。りんご畑には、牛や豚の堆肥、もみ殻、刈った草、落ち葉、りんごの搾りかすを1年ほど寝かせた自家製の堆肥を入れていると紹介されています。
補糖・補酸なし、果実だけで造る
造りについて、公式サイトの言葉ははっきりしています。ワインにもシードルにも、果実のほかは何も加えない。補糖も補酸もしません。2021年の記事によれば、ワインはろ過をせず、発酵の温度も積極的には管理していません。シードルもろ過せず、炭酸ガスを加えずに瓶の中で二次発酵させて泡をつくっています。
商品一覧からも、その姿勢が読み取れます。ヤマ・ソーヴィニヨンとメルローには「天然酵母」とあり、ヤマ・ソーヴィニヨンは亜硫酸を加えていないと書かれています。ヒムロットは果皮ごと醸し、黄色く少し濁った辛口の白に。遅く摘んだぶどうを混ぜた『わっぱかワイン』はオレンジワインとして載っています。造りの考え方は自然派ワインの項目も参考になります。
『岩手ブレンド』と一升瓶の『わんだ』
公式サイトに並ぶ銘柄のうち、とくに名前を覚えておきたいのが次の数本です(価格は公式サイトの税抜表示、ヴィンテージは掲載時のもの)。
- 岩手ブレンド(微発泡の赤・750ml・1,800円)── 岩手で育つキャンベル・アーリーとナイアガラのブレンド。ナイアガラの甘い香りがありながら辛口。2024年から王冠栓。ふるさと納税の紹介では、2018年に花巻で開かれたワインツーリズムをきっかけに商品にしたとされています。仙台国税局の製造者一覧でも代表銘柄に挙がっています。
- わんだ(赤・1800ml・2,000円)── キャンベル・アーリー100%。いちごのような香り。名前は醸造所の屋号から。
- 白わんだ(白・1800ml・2,000円)── 青いうちに摘んだ紅伊豆の酸を、ナイアガラの甘い香りが和らげる白。
- ヒムロット(白・750ml・2,000円〈2025〉)── 果皮ごと醸した辛口。
- 亀ヶ森ヌーヴォー(赤・750ml・2,000円)── アーリースチューベンの新酒。2025年は12月12日発売、アルコール11.6%。
- シードルミックス(500ml・700円)── 何種類ものりんごを混ぜた辛口のシードル。年ごとに味わいが変わります。
アルコール度数は8〜11%前後のものが多く、500mlと750mlのほか一升瓶、2021年の記事によれば20リットルの箱まで、容量の選び方が幅広いのもこの造り手らしいところです。2021年の記事の時点で、シードルとワインを合わせて40種類以上を造っていたと紹介されています。シードルの楽しみ方は第91講 シードルとフルーツワイン完全編へ。
訪ねる前に、まず電話を
醸造所でも販売していますが、公式サイトによれば営業時間・定休日は決まっていません。訪ねるときは、前もって電話などで連絡を入れてください。仙台国税局の製造者一覧(令和7年11月1日現在)でも、酒蔵見学は要予約、売店ありとされています。試飲の扱いは公式サイトに書かれていないので、連絡のときに確かめるのが確実です。
畑仕事の季節には、町の外の市にも出ています。2026年は、盛岡の材木町よ市(4月4日〜11月28日の毎週土曜)と、5月から毎月第1日曜の雫石軽トラ市に出店すると公式サイトで告知していました。岩手県内と東京などの酒販店・飲食店の取扱先も、公式サイトに一覧があります。
古民家の宿「友月庵」に泊まる
醸造所は、同じ亀ケ森地区で古民家の宿「友月庵(ゆうげつあん)」も営んでいます。2024年にクラウドファンディングで改修資金を募った築100年を超える家で、宿の公式サイトによれば1日1組限定。チェックインは16:00、チェックアウトは10:00です。食事は出ないので、食材を持ち込んでキッチンで料理します。キッチンには醸造所のワイン、シードル、ぶどうジュースが置かれ、飲んだぶんをチェックアウトのときに精算する仕組みです。宿の「神楽の間」では、地元の神楽の公演も開かれています。
宿の案内では、JR東北本線の石鳥谷駅から車で約15分、新花巻駅と花巻空港から車で約20分、東北道の花巻ICから約25分。大迫の町なかにはエーデルワインの直売所もあるので、ふたつの醸造所を合わせて訪ねる計画も立てやすい土地です。試飲をするなら、運転しない人を決めるか、宿に泊まる前提で動きましょう。訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問完全編に、東北のほかの産地は第90講 東北完全編にまとめています。


