ボルゲリの至宝
オルネッライアは、1981年にトスカーナ・ボルゲリで、ロドヴィコ・アンティノーリ(アンティノリ家分家)が開いたスーパータスカンの代表格です。名は敷地に生えるマンナトネリコの木「オルニエッロ」に由来すると説明されます。ティレニア海を望む北マレンマの地で、ボルドー品種による豊潤でエレガントな赤を生み、地中海の陽光を映した凝縮感とエレガンスの両立を身上とします。初ヴィンテージは1985年。醸造を担ったのはハンガリー出身の醸造家ティボール・ガルで、1991年からはボルドーの著名醸造コンサルタント、ミシェル・ロランも助言に加わりました。
叔父マリオ・インチーザ侯爵のサッシカイアが「ボルゲリでもボルドー品種が偉大になれる」ことを証明した土地に、その血縁が満を持して開いた本格エステート——オルネッライアは生まれながらに、ボルゲリの第二章を担う存在でした。
双子の至宝、マッセート
オルネッライアのもう一つの顔が、メルロー単一の「マッセート」です。敷地の中でも青灰色の粘土(ブルークレイ)に覆われた約7haの丘だけは、砂と石の多いボルゲリでは異質な土壌で、ここに植えられたメルローが驚くべき凝縮を見せました。1986年に単独で瓶詰めされて以来、その濃密でビロードのような質感から「イタリアのペトリュス」と称され、2001年ヴィンテージは米ワイン・スペクテーター誌の100点満点を獲得。2019年には丘の中腹に専用ワイナリーが完成し、現在は醸造チームも施設も分けた独立したエステートとして運営されています。
世界一への階段
オルネッライアの名を決定的にしたのは、1998年ヴィンテージです。米ワイン・スペクテーター誌の2001年「トップ100」で第1位(ワイン・オブ・ザ・イヤー)に選ばれ、スーパータスカンが世界の頂点と同じ土俵で戦えることを示しました。
同じ頃、蔵の所有権は大きく動きます。カリフォルニアのロバート・モンダヴィが1999年から段階的に株式を取得し、2002年にいったん完全所有。同年からフィレンツェの名門フレスコバルディ(700年の歴史を持つ貴族の家系)との折半経営に移り、モンダヴィ社の経営が揺らいだ後の2005年、フレスコバルディが完全所有しました。新旧両大陸の名門の手を経て、結局トスカーナの古い家に帰ってきた——という所有の物語も、このワインの厚みの一部です。
醸造家のリレーも豪華です。初代ティボール・ガルのあと、トマ・デュルーが2001年から指揮を執り(2004年にボルドーのシャトー・パルメの総支配人へ転出)、続くアクセル・ハインツが2005年から18年にわたって現在の様式を築きました(2023年にマルゴー2級シャトー・ラスコンブのCEOへ)。現在はボルドーで約17年の経験を積んだマルコ・バルシメッリが、オルネッライアとマッセート双方の生産を率いています。ボルゲリとボルドーを行き来する人材の流れそのものが、この蔵の立ち位置を物語ります。
畑とスタイル
畑はボルゲリの丘に約100ha。メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを軸に、カベルネ・フランとプティ・ヴェルドが脇を固めるボルドーブレンドで、新樽およそ7割のバリックで約18か月熟成させます(途中でブレンドしてから樽に戻す二段構え)。サッシカイアの「しなやかで涼しげ」に対し、オルネッライアは豊潤で肉付きがよく、それでいて上品と評される様式。同じ丘の二大巨頭を飲み比べると、ボルゲリという土地の幅が見えてきます。熟成のポテンシャルも高く、第29講 ヴィンテージと熟成完全編の格好の教材です。
アートと結んだ蔵
2006年ヴィンテージからは「ヴェンデミア・ダルティスタ」という試みを続けています。毎年、その年の作柄の個性を一語で表し、現代アーティスト(初回はルイジ・オンターニ)がその言葉を主題に特別ラベルと作品を制作。署名入りの大型ボトル111本はチャリティオークションにかけられ、収益は美術関連の財団に寄付されます。ワインをその年だけの「作品」として世に送る——ムートンのアートラベルとはまた違う、イタリアらしい祝祭的な仕掛けです。
手の届くところから
本体は4万〜5万円台、マッセートは14万円前後〜の別格ですが、入口は豊富です。エントリーのレ・ヴォルテ(トスカーナIGT、3,500〜5,500円前後)は、この蔵の陽気な豊潤さを日常価格で。セカンドのレ・セッレ・ヌオーヴェ(初ヴィンテージ1997年、1万円台前半)まで進むと本体に通じる骨格が現れます。白のポッジョ・アッレ・ガッツェや、2013年に初ヴィンテージを出したソーヴィニヨン・ブラン主体のオルネッライア・ビアンコもあり、赤だけの蔵ではありません(価格はいずれも2026年8月時点の目安)。イタリアワインの奥行きは第7講 イタリア完全編で、ボルゲリ革命の全体像は銘醸図鑑:ボルゲリで。先駆のサッシカイア、革命を起こしたアンティノリとあわせて、トスカーナの物語を味わってください。

