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World — イタリア・トスカーナ/ボルゲリ

サッシカイア(テヌータ・サン・グイド)

Sassicaia / Tenuta San Guido / 1940年代植樹(初V1968年)
サッシカイアのボトル(ヴィンテージ)
サッシカイアのボトル(ヴィンテージ) / Photo: “Sassicaia” by Lucarelli, CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
どんな造り手?

サッシカイア(テヌータ・サン・グイド)は、「スーパータスカン」という潮流そのものを生んだ伝説の赤。ボルドーを愛した侯爵が1940年代にトスカーナ海岸でカベルネを植えた実験から生まれ、無名だったボルゲリをイタリア屈指の銘醸地に変えました。単一生産者が自身の名を冠する唯一のDOCを持ち、セパージュはカベルネ・ソーヴィニヨン85%+カベルネ・フラン15%です。

スーパータスカンを生んだ伝説

サッシカイアは、イタリアワインの歴史を変えた一本です。ボルドーを愛したマリオ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵が、1940年代にトスカーナ海岸のボルゲリでカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた——その個人的な実験が、すべての始まりでした。名は「石ころだらけの土地」を意味します。侯爵はこの石の多い痩せた丘がボルドーのグラーヴ地区に似ていると見抜いたのです。

苗木にまつわる有名な逸話にはひとつ訂正が要ります。長く「シャトー・ラフィット由来の苗木」と語られてきましたが、一族自身がこれを否定しており、実際はピサ近郊ミリアリーノのサルヴィアーティ公爵家の古い畑から譲り受けた苗木だったと伝えられています。伝説より少し地味な真相ですが、「よそのラベルではなく、自分の舌が信じた味を植えた」という話としては、むしろこちらの方が侯爵らしいかもしれません。

20年間の私蔵ワイン

最初のワインは戦時中の1940年代半ばに生まれましたが、1967年までの20年余り、サッシカイアは家族と友人のためだけの私蔵ワインでした。若いうちは硬く、タンニンの強いこのワインが瓶の中で見事に熟すことに気づいた侯爵は、甥のピエロ・アンティノーリらの説得を受け、ついに1968年ヴィンテージを世に問います(市場に出たのは1971年)。醸造を支えたのは、アンティノリの伝説的醸造家ジャコモ・タキス。これが絶賛を浴び、「スーパータスカン」という潮流そのものを生み出しました。

当時のイタリアの原産地呼称制度では、土着品種を使わないこのワインは最下級の「ヴィーノ・ダ・ターヴォラ(テーブルワイン)」を名乗るしかありませんでした。格付けは最下級、価格と評価はイタリア最高峰——この痛快なねじれが制度そのものを変えていく物語は、銘醸図鑑:ボルゲリで詳しく歩けます。同じ流れから、タキスとピエロ・アンティノーリの「ティニャネロ」(1971年〜)が、のちに侯爵の甥ロドヴィコ・アンティノーリのオルネッライアが生まれました。

イタリア唯一の格

1994年、サッシカイアは新設のボルゲリDOC内に「ボルゲリ・サッシカイアDOC」というサブゾーンを与えられ、2013年には独立したDOCに昇格しました。単一生産者が自身のワイン名を冠するDOCは、イタリアでサッシカイアただ一つ。テーブルワインから始まった革命は、ついに「自分だけの原産地呼称」という前例のない形で制度に迎え入れられたのです。

ワインの中身は一貫しています。セパージュはカベルネ・ソーヴィニヨン85%+カベルネ・フラン15%。標高およそ400mのカスティリオンチェッロをはじめとする自社畑のぶどうを、フレンチオークのバリック(新樽はおよそ3〜4割)で約24か月熟成させます。ボルゲリの同輩たちの豊満さに比べ、サッシカイアはしなやかで香り高く、どこか涼しげと評されるスタイル。1985年はロバート・パーカーがイタリアワインに初めて与えた100点となり、2015年はワイン・スペクテーター誌の2018年「トップ100」第1位に選ばれました——初ヴィンテージからちょうど50年の節目でした。長期熟成の楽しみは第29講 ヴィンテージと熟成完全編でどうぞ。

海と石ころのテロワール

ボルゲリはティレニア海を望む海岸の産地です。内陸のキャンティが標高で暑さをしのぐのに対し、ここでは海からの風が畑を冷まし、病気を遠ざけます。サッシカイアの畑は海辺の低地から標高約400mのカスティリオンチェッロまで階段状に広がり、名前の由来となった石だらけの水はけのよい土壌がカベルネに深い根を張らせる——「暑い土地なのに、ワインは涼しげ」というサッシカイアの個性は、この海と石の組み合わせから生まれます。1940年代には「海辺でまともな赤などできない」というのが常識で、だからこそボルゲリは無名のままだった。常識の裏側に銘醸地が眠っていた、という点でも痛快な話です。

馬と森とワインの家

テヌータ・サン・グイドは、ワインだけの家ではありません。マリオ侯爵は名伯楽フェデリコ・テジオとともにドルメッロ・オルジャータ牧場を営み、そこから出た名馬リボーは凱旋門賞を1955・56年に連覇、生涯16戦無敗の伝説を残しました。牧場はいまも敷地内で続き、糸杉並木のかたわらに調教場があります。敷地内の湿地は早くから野生動物の保護区として守られてきました。現在は二代目ニコロが名誉会長として見守り、三代目のプリシラ・インチーザ・デッラ・ロケッタが家族の顔を務めています。

手の届くところから

本体は別格の価格ですが、入口は用意されています。レ・ディフェーゼ(カベルネ70%+サンジョヴェーゼ30%、4千〜5千円前後)なら、この家の端正な赤を気軽に。グイダルベルト(カベルネ60%+メルロー40%、7千〜9千円前後)まで進めば、サッシカイアに通じるしなやかさがはっきり見えてきます。その物語の全体像は第7講 イタリア完全編銘醸図鑑:ボルゲリで。隣人オルネッライアと飲み比べれば、同じ丘の二つの美学が立体的に見えてきます。

よくある質問

サッシカイアとは?
トスカーナ海岸のボルゲリで造られる、ボルドー品種(カベルネ・ソーヴィニヨン85%+カベルネ・フラン15%)の赤ワインです。「スーパータスカン」という潮流そのものを生んだ伝説のワインとして知られ、テヌータ・サン・グイドが生産しています。フレンチオークの小樽で約24か月熟成させる、しなやかで長熟型の赤です。
なぜ「伝説」なの?
ボルドーを愛したマリオ・インチーザ侯爵が1940年代に個人的な実験として植えたカベルネが原点です。1967年までは家族と友人だけの私蔵ワインでしたが、1968年ヴィンテージを世に問うと絶賛され、無名だったボルゲリをイタリア屈指の銘醸地へと変えました。当時のイタリアの格付けでは最下級の「ヴィーノ・ダ・ターヴォラ(テーブルワイン)」を名乗るしかなかったのに、価格と評価はイタリア最高峰——この痛快な逆転劇が「スーパータスカン」の物語の始まりです。
「単独生産者DOC」とは?
サッシカイアは「ボルゲリ・サッシカイアDOC」という、単一の生産者が自身のワイン名を冠した唯一のDOC(原産地呼称)を持ちます。1994年ヴィンテージからボルゲリDOCのサブゾーンとして認められ、2013年には独立したDOCに昇格しました。イタリアでこれはサッシカイアだけの特別な格です。
名前の由来は?
イタリア語のsassi(石)に由来し、「石ころだらけの土地」を意味します。マリオ侯爵は、この石の多い痩せた土壌がボルドーのグラーヴ地区に似ていると見抜き、あえてそこにカベルネを植えました。なお「苗木はシャトー・ラフィット由来」という有名な逸話は一族自身が否定しており、実際はピサ近郊のサルヴィアーティ公爵家の畑から譲り受けた苗木だったと伝えられています。
評価はどれくらい高いの?
1985年ヴィンテージは、ロバート・パーカーがイタリアワインとして初めて100点満点を付けた一本です。さらに2015年ヴィンテージは、米ワイン・スペクテーター誌の「トップ100」で2018年の第1位(ワイン・オブ・ザ・イヤー)に選ばれました。くしくも初ヴィンテージ1968年から50周年の年でした。
いくらで買えますか?
2026年8月時点の目安で、サッシカイア本体は現行ヴィンテージが3.5万〜4.5万円前後(店により2万円台半ばから)。姉妹ワインのグイダルベルトは7千〜9千円前後、レ・ディフェーゼは4千〜5千円前後で、同じ家の仕事をぐっと手頃に体験できます。ヴィンテージや為替で大きく変動します。
グイダルベルトとレ・ディフェーゼは何が違う?
グイダルベルト(初ヴィンテージ2000年)はカベルネ・ソーヴィニヨン60%+メルロー40%で、サッシカイアより早くから楽しめる設計。蔵は「セカンドではなく独立した一つのワイン」と位置づけています。レ・ディフェーゼ(初ヴィンテージ2002年)はカベルネ70%+サンジョヴェーゼ30%で、トスカーナらしさとカベルネの骨格を一本で味わえる入門編です。
競走馬とも関係があるって本当?
本当です。マリオ侯爵は名伯楽フェデリコ・テジオとともにドルメッロ・オルジャータ牧場を営み、そこから出た名馬リボーは凱旋門賞を1955・56年に連覇、生涯16戦無敗の伝説を残しました。牧場はいまもテヌータ・サン・グイドで続いており、二代目ニコロは「サッシカイアはワイン界のリボーだ」と語ったと伝えられます。

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最終更新: 2026-08-25 / 監修: Vinotier編集部