1966年、52歳の出発
ロバート・モンダヴィは1913年6月18日、ミネソタ州ヴァージニアに生まれました。両親はイタリア・マルケ州サッソフェラート出身の移民で、一家は1920年代はじめにカリフォルニアのロダイへ移り、ぶどうの出荷業を営みます。転機は1943年。ロバートの説得で父チェーザレが、ナパ最古のワイナリーチャールズ・クルッグを買収しました。
しかし1965年、ロバートと弟ピーターの対立が決定的になります。きっかけは、ロバートが妻のためにミンクのコートを買ったことをめぐる口論だったと伝えられますが、背後には経営方針の長年のずれがありました。ロバートは家業を離れ、翌1966年、52歳で自身のワイナリーをオークヴィルに創業します。禁酒法以後のナパで初めての大型新設ワイナリーでした。建築家クリフ・メイが設計したアーチと塔を持つミッション様式の建物は、いまもナパの風景の象徴です。
家族との訴訟は1976年にロバート側の主張が認められ、1978年の和解でトゥ・カロンを含むオークヴィルの畑を取得しました。
名畑トゥ・カロン
所有畑の中心は、H・W・クラブが1868年に開墾し、1886年にギリシャ語で「最高の美」を意味する名を与えたトゥ・カロンです。ロバート・モンダヴィ・ワイナリーは現在、このうち約450エーカー(約180ヘクタール)を所有するとされます(歴史的な畑の範囲をめぐっては諸説があり、名称の商標をめぐる係争も2021年まで続きました)。
ここから生まれるカベルネ・ソーヴィニヨンは、力強くも気品ある味わい。1945年に植えられたソーヴィニヨン・ブランのIブロックは北米最古級の区画で、ごく少量の白が造られます。畑は2023年に有機認証(CCOF)を取得しました。
フュメ・ブランと、技術の近代化
1960年代、カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランは甘口で安価な印象が強く、売れない品種でした。ロバートはこれを樽熟成の辛口に仕立て、ロワールのプイィ・フュメにちなんで語順を入れ替えた「フュメ・ブラン」と名付け、1968年に発売します。名前を商標として独占せず他社にも開放したことが、この呼び名が業界に広まった理由として語られます。
醸造面でも、低温発酵、ステンレスタンク、フレンチオーク小樽による熟成を創業期から体系的に取り入れ、ナパに広めました(工程の意味は第47講 醸造完全編で)。品種名をラベルに掲げる品種名表示も、発明者ではないものの、標準として普及させた立役者の一人です。1960〜70年代には、ソムリエや記者を相手にボルドー一級とのブラインド比較試飲を繰り返し、ナパの品質を世に問い続けました。
ワインと食と芸術
ロバートのもう一つの功績は、ワインを文化として語ったことです。1967年に広報として入社し、のちに妻となるマーグリット・ビーヴァー・モンダヴィが主導した夏の音楽祭(1969年〜)には、エラ・フィッツジェラルドらが出演。1976年には米国のワイナリーで初めての料理教室「グレート・シェフ」を始め、ジュリア・チャイルドやポール・ボキューズを招きました。「ワインと食と友人との時間」という公式の言葉は、この姿勢をよく表しています。
2001年にはUCデイヴィスに3,500万ドルを寄付し、ワイン・食科学研究所と舞台芸術センターが設立されました。
提携と拡大、そして売却
1978年、シャトー・ムートン・ロートシルトのバロン・フィリップ・ド・ロチルドと合弁に合意し、1979年にトゥ・カロンの果実で初ヴィンテージを仕込んで1980年に公表したのがオーパス・ワンです。1995年にはチリのエラスリスとセーニャ、イタリアのフレスコバルディとルーチェを立ち上げ、1979年にはロダイで日常的な価格帯のウッドブリッジを始めました。
1993年に株式を公開。2004年、米コンステレーション・ブランズが株式総額約10億ドル(負債込みの企業価値で約13.6億ドル)で買収し、家族経営の時代は終わります。ロバートは2008年5月16日、94歳で世を去りました。
2026年、本拠地の再開
コンステレーション傘下のワイナリーは、2023年からオークヴィルの本拠地を閉じて大規模な改修に入り、創業60周年にあたる2026年4月に再開しました。アーチと塔は保存され、塔は「タワー・ライブラリー」に、小ロット醸造用のトゥ・カロン・セラーが新設されています。醸造責任者は2023年からカーティス・オガサワラ。1997年から2018年まで醸造を率いたジュヌヴィエーヴ・ジャンサンは名誉醸造家として名を残しています。
どこから飲むか
ラインナップは幅広く、ナパ入門にうってつけです。日本での実勢価格(2026年8月時点の目安)は、プライベート・セレクションが2,000円台、ナパ・ヴァレー・カベルネが6,000円〜1万円台、オークヴィルやスタッグス・リープの畑限定「エステート」が1.5〜2万円台、頂点のザ・リザーブ トゥ・カロンが3〜5万円。正規輸入元の定価と市場実勢には開きがあるので、複数の店で比べてください。
最初の一本はナパ・ヴァレー・カベルネか、名前の物語ごと味わえるフュメ・ブランを。産地ガイド ナパ・ヴァレーと第12講 カリフォルニア完全編で背景を押さえ、オーパス・ワンとあわせて知れば、ナパの物語がつながります。

