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World — フランス・ボルドー/メドック・ポイヤック

シャトー・ムートン・ロートシルト

Château Mouton Rothschild / 1853年(ナサニエル・ド・ロチルド男爵が取得)
シャトー・ムートン・ロートシルトの庭と建物
シャトー・ムートン・ロートシルトの庭と建物 / Photo: “Jardin de Château de Mouton-Rothschild, Pauillac. 2012” by Jack ma, CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)
どんな造り手?

シャトー・ムートン・ロートシルトは、ボルドー・ポイヤックの第1級。1855年格付けで唯一の格上げ(1973年に第2級から第1級へ)を果たした名門で、1945年から毎年、世界的な芸術家が描くアートラベルでも知られます。約80ヘクタール台の砂利質の畑からカベルネ・ソーヴィニヨン主体(近年は9割前後の年も)の豊潤で華やかな赤を生み、新樽100%で約20か月熟成させます。

羊ではなく、小さな丘

シャトー・ムートン・ロートシルトは、ボルドー・ポイヤックの第1級。名前の「ムートン」はフランス語の羊を思わせますが、シャトー自身は、畑が乗る標高40メートルほどの小さな丘を指す古語「motte(モット)」が語源だと説明しています。18世紀にはブラーヌ家が「ブラーヌ・ムートン」として営み、当主エクトール・ド・ブラーヌは「葡萄畑のナポレオン」と呼ばれた人物でした。

1853年5月11日、ロンドン系ロスチャイルド家のナサニエル・ド・ロチルド男爵がこの地を競売で取得し、シャトーは現在の名になります。ところがその2年後、1855年の格付けで、ムートンは第2級とされました。この格付けは品質の審査ではなく当時の取引価格の実績に基づくもので、取得から日が浅かったことが響いたと説明されることが多いのですが、当家はこれに納得せず、有名な標語を掲げます——「1級にはなれず、2級には甘んじず、我はムートン」

20歳の当主がすべてを変えた

転機は1922年。弱冠20歳で経営を引き継いだフィリップ・ド・ロチルド男爵は、1924年、ヴィンテージ全量の「シャトー元詰め」を導入します。それまで樽のままワイン商に渡していたワインを、シャトーが瓶詰めまで責任を持つ——いまでは当たり前のこの仕組みの先駆けでした。翌々年には全長100メートルの大樽庫「グラン・シェ」を建設。1930年には不作年のワインを別ブランドに回す発想から、末っ子(カデ)を意味する「ムートン・カデ」が生まれ、いまや年1,000万本を超えるボルドー最大級のブランドに育っています。

毎年変わるアートラベル

ムートンのもう一つの顔が、アートラベルです。1945年、対独戦勝を祝う「V」の意匠をフィリップ・ジュリアンに依頼したのが始まりで、以後毎年、世界的な芸術家がラベルを描きます。ブラック、ダリ、ミロ、シャガール、ピカソ、ウォーホル、ベーコン、クーンズ、ホックニー——日本人でも堂本尚郎(1979)、節子・クロソフスカ・ド・ローラ(1991)、塩田千春(2021)が名を連ねます。報酬は現金ではなくワインで支払われると伝えられ、画家には一切の注文を付けないのが流儀です。

逸話も豊富です。1993年のバルテュスの素描は米国で問題視され、米国版だけ白紙ラベルで売られました。2000年ヴィンテージは紙のラベルを使わず、美術館所蔵の酒器「アウクスブルクの牡羊」をボトルに金彩で焼き付けた特別仕様です。原画はシャトーに併設されたワイン美術館(1962年開館)とともに、完全予約制の見学で目にすることができます。

1973年、唯一の昇格

そして1973年6月21日、当時の農相ジャック・シラクの省令により、ムートンは第1級へ昇格します。1855年格付けの118年の歴史で、格が変わったのはこの一度きり。昇格には既存1級4シャトー全ての同意が必要だったと伝えられます。標語は「我は1級、かつては2級、ムートンは変わらず」へと誇らしく改められ、記念の1973年ラベルには、この年に世を去ったピカソの「バッカナール」が使われました。

畑とワイン

畑はポイヤックの砂利質の丘に80ヘクタール台。植栽の約8割がカベルネ・ソーヴィニヨンで、残りをメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドが分け合います。近年のブレンドはカベルネの比率が特に高く、2023年は93%。新樽100%で約20か月熟成させた、5大シャトーの中でも最も豊潤で華やかと評されるスタイルです(第29講 ヴィンテージと熟成完全編)。セカンドのル・プティ・ムートン(初V1993年)、ソーヴィニヨン・ブラン主体の白エール・ダルジャン(初V1991年)も造られます。現在はフィリップ男爵の孫にあたる3人が受け継ぎ、祖父の代にナパで始めたオーパス・ワンも健在です。

飲んで、飾って楽しむ

本体は10万円台〜と別格ですが、プティ・ムートンとエール・ダルジャンなら3〜5万円前後、ムートン・カデなら1,000〜2,000円台から「ムートンの家の仕事」に触れられます。当たり年は1945・1959・1982・1986・2016年(いずれもパーカー系100点)。格付けの物語は第5講 ボルドー完全編で、ラベルの読み方は第41講で深く学べます。同族のシャトー・ラフィット・ロートシルトと飲み比べれば、隣り合う畑の二つの美学が見えてきます。

よくある質問

シャトー・ムートン・ロートシルトはどんなワイン?
ボルドー・ポイヤックの1855年メドック格付け第1級シャトーです。約80ヘクタール台の砂利質の畑でカベルネ・ソーヴィニヨンを中心(植栽の約8割)に育て、新樽100%で約20か月熟成させた、力強く豊潤で華やかな赤を生みます。近年のブレンドはカベルネ・ソーヴィニヨン比率が特に高く、2023年は93%でした。毎年変わるアートラベルでも世界的に有名です。
名前の「ムートン」は羊のこと?
フランス語のmouton(羊)を連想させますが、シャトー自身は、畑が乗る小さな丘を意味する古い言葉「motte(モット)」が語源で、羊に由来するものではないと説明しています。ただしラベルや美術館の収蔵品には牡羊のモチーフがたびたび登場し、2000年ヴィンテージの特別ボトルにも「アウクスブルクの牡羊」が使われるなど、羊はこの家の象徴として大切にされています。
アートラベルとは?
1945年ヴィンテージ以降、ムートンは毎年そのラベルの絵を現代芸術家に依頼しています。ブラック(1955)、ダリ(1958)、ミロ(1969)、シャガール(1970)、ピカソ(1973)、ウォーホル(1975)、フランシス・ベーコン(1990)、ジェフ・クーンズ(2010)、デヴィッド・ホックニー(2014)ら錚々たる顔ぶれで、日本人では堂本尚郎(1979)、節子・クロソフスカ・ド・ローラ(1991)、塩田千春(2021)が手がけました。報酬は現金ではなくワインで支払われると伝えられます。
「唯一の格上げ」とは?
ムートンは1855年格付けでは「第2級」でしたが、1973年6月21日、当時の農相ジャック・シラクの省令で第1級へ昇格しました。1855年格付けで格が変わった例はこれが唯一です。昇格には既存の第1級4シャトー全ての同意が必要だったと伝えられ、記念となった1973年ヴィンテージのラベルにはこの年に亡くなったピカソの作品「バッカナール」が使われました。
シャトー・ラフィット・ロートシルトとの関係は?
どちらも同じロスチャイルド家ですが系統が違います。ムートンは1853年にロンドン系のナサニエル・ド・ロチルド男爵が、ラフィットは1868年にパリ系のジェームズ・ド・ロチルド男爵が取得しました。ジェームズはナサニエルの叔父にあたり、ナサニエルはその娘と結婚しているので、親戚同士の隣り合うシャトーということになります。両家のライバル関係がよく語られますが、1973年の昇格ではラフィットも同意の書面を出しています。
セカンドワインや白ワインはありますか?
セカンドは「ル・プティ・ムートン」(初ヴィンテージ1993年)で、若木のぶどうを中心に造られます。白は「エール・ダルジャン(銀の翼)」(初ヴィンテージ1991年)で、ソーヴィニヨン・ブラン主体です。また、大衆向けブランドとして1930年に生まれた「ムートン・カデ」(カデ=末っ子の意)は、現在では年1,000万本を超える規模の世界的ブランドに育っています。
いくらで買えますか?
2026年8月時点の目安で、ムートン本体は現行ヴィンテージが10万円台〜(正規輸入元の希望小売価格は2021年ヴィンテージで税抜117,000円)、ル・プティ・ムートンとエール・ダルジャンが3〜5万円前後です。気軽に試すならムートン・カデが1,000〜2,000円台で手に入ります。ヴィンテージや為替、店舗によって大きく変動します。
当たり年はいつですか?
ワイン・アドヴォケイト(パーカー系)で100点を得たのは1945・1959・1982・1986・2016年の5ヴィンテージとされます。特に1945年は「V(勝利)」ラベルの伝説的な年で、2006年にはクリスティーズのオークションで1ケースが28万ドルを超える当時の世界記録を作りました。2000年はミレニアムと金彩の特別ボトルで人気が高い年です。

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最終更新: 2026-08-24 / 監修: Vinotier編集部