ひとことで言うと 1855年のパリ万国博覧会を機に、当時の取引価格に基づいて定められたボルドー・メドックの赤ワインの序列。1級から5級まで計61シャトーが名を連ね、頂点の5大シャトーは今なお世界のワインの王座です。160年以上ほぼ変わらない——それがこの格付けの最大の特異点です。
1855年、パリ万国博覧会。皇帝ナポレオン3世は、出品されるボルドーワインに「序列」を求めました。ボルドー商工会議所から依頼を受けた仲買人(クルティエ)組合は、各シャトーの長年の取引価格に基づいて一覧を作成——市場が積み上げた評価を、そのまま紙に写し取ったのです。これがメドック格付け(1855年格付け)。以来160年以上、ワイン界で最も有名な「番付」であり続けています。
61シャトーの序列
格付けは1級(5)・2級(14)・3級(14)・4級(10)・5級(18)の計61シャトー。ほぼすべてがメドック地区で、唯一の例外が、当時すでに別格の名声を誇ったグラーヴ地区のオー・ブリオンです。同じ年にはソーテルヌ&バルサックの甘口の格付け(第19講貴腐と甘口参照)も作られました。
ここで面白いのが、ブルゴーニュとの対比です。ブルゴーニュが「畑」に格を与えるのに対し、ボルドーは「シャトー(造り手)」に格を与える。畑を買い足してもシャトーの格は変わらない——思想がまるで違う二大銘醸地の、これが分かれ目です。
唯一の昇格 — ムートンの60年
畑の中に立つラトゥールの円塔(1620年代築。実は鳩小屋)。ラベルにも描かれる「堅牢」の象徴 / Photo: “Château La Tour” by Benjamin Zingg, CC BY-SA 2.5(Wikimedia Commons)
発表直後の微修正(カントメルルの5級追記)を除けば、格付けの変更はただ一度。1973年、ムートン・ロートシルトの1級昇格です。2級に置かれたことを潔しとしなかったフィリップ・ド・ロートシルト男爵は、数十年に及ぶ運動の末にこれを成し遂げました。有名なのが家訓の変遷です。
昇格前——「1級たりえず、2級に甘んじず、我はムートンなり」。
昇格後——「我は1級なり、かつては2級なりき、されどムートンは変わらず」。
この物語とともに、ムートンは1945年から毎年アーティストにラベルを描かせる伝統でも知られます。昇格の年・1973年のラベルを飾ったのは、ピカソでした。
格付けの「外」を読む
160年変わらない序列は、当然ながら現実と少しずつずれます。そこで生まれたのが「スーパーセカンド」という通称——レオヴィル・ラス・カーズやピション・ラランド、コス・デストゥルネルなど、1級に迫ると評される2級(と3級パルメ)の一群です。「格付けを知り、その例外を知る」ところまで来れば、あなたはもうボルドー通。基礎は第5講ボルドー完全編でどうぞ。
入口も用意されています。5級シャトーは5千円台から見つかり、5大シャトーのセカンドワイン(カリュアード・ド・ラフィット、ル・プティ・ムートンなど)なら、王者の造りをぐっと手頃に味わえます。下のカードで、頂点の顔ぶれを見比べてください。
主要生産者と作風
※各ドメーヌの作風は一般的な評価に基づく傾向です。キュヴェやヴィンテージにより表情は変わります。
エレガンスの代名詞 シャトー・ラフィット・ロートシルト
Château Lafite Rothschild / 1級・ポイヤック 5大シャトーの筆頭格に挙げられることの多い名門。力で押すのではなく、気品と余韻の長さで語られる作風は「エレガンスの代名詞」と評されます。ロートシルト(ロスチャイルド)家が1868年から守り続けています。
唯一の昇格者 シャトー・ムートン・ロートシルト
Château Mouton Rothschild / 1級・ポイヤック 1973年、格付け史上唯一の大変更で2級から1級へ昇格。1945年以降毎年著名アーティストがラベルを描くことでも有名です(シャガール、ピカソら。前史として1924年のジャン・カルリュ起用も)。豊麗で華のある作風と評されます。
堅牢と長命 シャトー・ラトゥール
Château Latour / 1級・ポイヤック 堅牢・長命の代名詞。ラベルの塔は畑に立つ1620年代築の円塔(実は鳩小屋)です。2012年にはプリムール(先物販売)からの撤退を表明し、飲み頃を待って蔵出しする独自路線へ——王者ならではの決断でした。
華やぎの女王 シャトー・マルゴー
Château Margaux / 1級・マルゴー 芳香と華やかさで語られる、しばしば「女性的」と評されてきた優美な作風。1810年建造の新古典主義の館は「メドックのヴェルサイユ」の異名を持ち、格付けボルドーの象徴的な風景です。
例外にして最古参 シャトー・オー・ブリオン
Château Haut-Brion / 1級・ペサック メドックではなくグラーヴ地区から唯一格付けに入った例外。1663年、ロンドンの日記作家ピープスが「Ho Bryan」の名でその味に驚いた記録が残る、銘柄として世界最古級の名声を誇ります。スモーキーで滋味ぶかい個性。
スーパーセカンド筆頭 シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ
Château Léoville Las Cases / 2級・サン・ジュリアン 「セカンドの中のファースト」と呼ばれる、2級の枠を超えた実力者。1級に迫る品質と評される「スーパーセカンド」の筆頭格で、緻密で厳格な造りに定評があります。
しなやかな伯爵夫人 シャトー・ピション・ラランド
Château Pichon Longueville Comtesse de Lalande / 2級・ポイヤック 正式名は「ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド」。メルローをやや多めに使うしなやかで香り高い作風で、通りの向かいの「ピション・バロン」の力強さと対比して語られます。
3級の別格 シャトー・パルメ
Château Palmer / 3級・カントナック(マルゴーAOC) 格付けは3級ながら、品質と価格は2級を超えると広く認められる別格の存在。ビロードのような官能的な作風で、「格付けが絶対ではない」ことのいちばん美しい証明です。
よくある質問
メドック格付けは変わることがないのですか?
発表直後の1855年9月にカントメルルが5級へ追記されて以降(1856年説もあります)、大きな変更は1973年のムートン・ロートシルトの1級昇格ただ一度だけです。160年以上ほぼ固定されている点こそ、この格付け最大の特徴です。
5大シャトーとは何ですか?
格付け1級の5つ——ラフィット・ロートシルト、ムートン・ロートシルト、ラトゥール(以上ポイヤック)、マルゴー、そしてグラーヴから唯一入ったオー・ブリオンを指します。いずれもカベルネ・ソーヴィニヨン主体の長期熟成型で、世界のワインの王座とされています。
手頃に格付けボルドーを楽しむには?
入口は二つ。5級など格付け下位のシャトー(約5千円〜。カントメルル等)と、5大シャトーが造る「セカンドワイン」(カリュアード・ド・ラフィット、ル・プティ・ムートン等)です。同じ造り手の技を、ぐっと手頃に体験できます。
最終更新: 2026-07-29 / 監修: Vinotier編集部