1970年ハワイ、1978年ボルドー
オーパス・ワンの物語は、1970年にハワイのリゾートホテルで、ナパのロバート・モンダヴィとボルドー第1級シャトー・ムートン・ロートシルトのバロン・フィリップ・ド・ロートシルトが出会ったことに始まります。構想が具体化したのは1978年、バロンがモンダヴィをムートンに招いたときで、短い会談のうちに合弁の骨格が固まったと伝えられます。翌1979年に初ヴィンテージを仕込み、1980年に合弁を公表。新旧両世界の名門が「ナパで最高のボルドー・スタイルを一本だけ造る」と掲げた、当時としては前例のない試みでした。
当初の暫定名は「ナパメドック(Napamédoc)」。1982年に「作品第1番」を意味するオーパス・ワンへ改められます。「オーパス」はバロンの発案、「ワン」はモンダヴィの妻マーグリットの提案だったと伝えられます。
24,000ドルの1ケース
専用の醸造所ができるまで、1979年から1990年までのワインはロバート・モンダヴィ・ワイナリーの施設で造られました。醸造を担ったのはティム・モンダヴィと、ムートンから来たリュシアン・シオノー(1984年の退任後はパトリック・レオン)です。
1981年6月、第1回ナパ・ヴァレー・ワイン・オークションで、まだ発売前だった1979年ヴィンテージ1ケースが24,000ドル(1本2,000ドル)で落札され、カリフォルニアワインの最高値を記録しました。市場への初リリースは1984年。1979年と1980年の2ヴィンテージが同時に、1本50ドルという当時の米国ワインとして最高額で発売されています。1976年の「パリスの審判」とは直接の関係はありませんが、ナパの実力が世界に知られた直後の機運の中で生まれた一本でした。
トゥ・カロンと約170エーカー
ハイウェイ29沿いのオークヴィルに建つ現在のワイナリーは、ジョンソン・フェイン(スコット・ジョンソン)の設計で1991年10月に完成し、1991年ヴィンテージから自社で醸造しています。半地下の丸い建物は、ナパの風景の中でもひときわ目を引く建築です。
畑は約170エーカー(約69ヘクタール)。モンダヴィから譲り受けた区画を含む歴史的名畑トゥ・カロン内の2区画(計100エーカー)と、バレストラ、リバーと呼ばれる2区画(計70エーカー)からなります。1990年代には高密植への植え替えを進めたとされ、2021年には有機認証(CCOF)と、ナパ・グリーンのワイナリー・畑両認証を取得しました。
ブレンドとスタイル
カベルネ・ソーヴィニヨンを核に、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、メルロー、マルベックを組み合わせるボルドー・ブレンドです。近年はカベルネの比率が9割前後と高く、2021年ヴィンテージはカベルネ93%・フラン4%・プティ・ヴェルド2%にメルローとマルベックをわずかに加えた構成でした。新しいフレンチオークの小樽で約18ヶ月熟成し、瓶でさらに寝かせて毎年10月1日に発売されます。年産は2万5千〜3万ケース前後とされ、超高級銘柄としては流通量が多いことも特徴です。ブレンドの考え方は第5講 ボルドー完全編で学べます。
1993年にはセカンドの「オーヴァーチュア(序曲)」が生まれました。長らく複数年をブレンドしたノンヴィンテージでしたが、2021年ヴィンテージから単一年表記に変わっています。
現在の体制
2004年にコンステレーション・ブランズがロバート・モンダヴィ社を買収し、モンダヴィ側の持ち分を引き継ぎました。翌2005年にバロン・フィリップ・ド・ロートシルト社との50:50の合弁継続が合意され、現在もこの体制です。2025年にコンステレーションが低価格帯ワイン事業を売却した際も、オーパス・ワンは対象に含まれていません。
醸造は2001年に加わり2003年から醸造責任者を務めるマイケル・シラーチが長く率いてきました。2025年3月にはメーガン・ゾベックが初代の「ディレクター・オブ・ワインメイキング」に就任し、2026年7月、シラーチは2026年の収穫を最後に引退することが発表されています。
どこから飲むか
日本での実勢価格(2026年8月時点の目安)は、現行ヴィンテージのオーパス・ワンが8万円台、オーヴァーチュアが3〜4万円台。米国公式価格はそれぞれ490ドルと210ドル(2022年ヴィンテージ)です。正規取扱店・専門ショップ・百貨店で比較的見つけやすく、記念日の一本として選ばれることも多い銘柄です。
まずはオーヴァーチュアで家の輪郭をつかみ、次に現行ヴィンテージを。熟成のポテンシャルが高いので、セラーで10年以上寝かせる楽しみもあります(第29講 ヴィンテージと熟成完全編)。父であるムートンやロバート・モンダヴィ、同じオークヴィルのスクリーミング・イーグルとあわせて知ると、ナパ・ヴァレーの奥行きが見えてきます(第12講 カリフォルニア完全編)。

