ジンファンデルの故郷と、オレンジワインの現代の聖地。アドリア海をはさんで向き合う二つの国に、世界のワインの「物語の起点」が眠っています。

アドリア海の東岸に、世界のワインの「物語の起点」を二つも抱える地域があります。ひとつはクロアチア——第12講カリフォルニアの看板品種ジンファンデルの故郷。もうひとつはスロベニア——いま世界を席巻するオレンジワイン復興の震源地のひとつです。
どちらも小さな国ですが、土着品種の層の厚さと造りの水準は「東欧の実力派」の名にふさわしいもの。把握のコツは三つ。「ジンファンデルのルーツ」「断崖の赤ディンガチ」「国境の丘のオレンジワイン」です。
長らく出自不明だったジンファンデル。2000年代初頭のDNA解析で、その正体はクロアチア・ダルマチア地方の土着品種(古名トリビドラグ、現地でツールイェナク・カシュテランスキ)と同一——と判明しました。イタリアのプリミティーヴォも同じ品種です。カリフォルニアの陽気な赤のふるさとは、アドリアの石の海岸だったのです。

ジンファンデル(トリビドラグ)の血を引くとされる、ダルマチアの主力黒ぶどう。濃密で力強く、干しイチジクのような果実味。赤
ペリェシャツ半島の断崖の銘醸地。海への急斜面で育つプラヴァツ・マリの最高峰とされる。赤
コルチュラ島のポシップやグルク、イストリア半島のマルヴァジア。海風の効いた個性ある白。白
スロベニア西部、イタリアとの国境に広がるゴリシュカ・ブルダとヴィパヴァ渓谷。この一帯は、イタリア側のフリウリ(コッリオ)と地続きのワイン文化圏で、白ぶどうを果皮ごと醸すオレンジワインの現代的な復興は、この国境の丘から始まったと語られます。主役の品種はレブラ(イタリア名リボッラ・ジャッラ)。厚い果皮が、琥珀色の深い味わいを支えます。
ブルダの看板白。果皮ごと醸せば、杏や紅茶を思わせる複雑なオレンジワインに。オレンジ
同じ品種を「普通の白」と「醸し」の両方で造る生産者も多い。飲み比べれば製法の意味が体感できる。白
東部マリボルには樹齢400年超・世界最古とされるぶどうの木が現役で実をつける。ギネス認定の生きた遺産。
ジョージアから、ここへ オレンジワインの源流は第30講ジョージアのクヴェヴリ(8000年前)。それを現代のスタイルとして世界に広め直したのが、このフリウリ=スロベニア国境地帯の造り手たちと言われます。源流と震源地——二つを知れば、オレンジワインの地図は完成です。
ドゥブロヴニクやリュブリャナ観光と相性抜群。現地の食堂で飲む土着品種は、旅の記憶ごと味になる。
ポシップ、レブラ、プラヴァツ・マリ——国際品種にない香味。「飲んだことのない味」に確実に出会える。
自然派・オレンジワインの人気とともに、輸入は年々充実。専門店で「スロベニアのオレンジ」と聞くのが早道(第33講参照)。
合わせるなら プラヴァツ・マリにはグリルした肉や熟成チーズを。オレンジワインは渋みを持つ白なので、第27講ペアリングの枠を超えて、燻製や発酵食品、和食の滋味とも好相性と言われます。
この二国は「ジンファンデルの故郷(トリビドラグ)」「断崖の赤ディンガチとプラヴァツ・マリ」「国境の丘のオレンジワインとレブラ」で見通せます。最初の一本は、力強いプラヴァツ・マリか、飲みやすいポシップの白。冒険するならブルダのオレンジワインを。品種の故郷と製法の未来——ワインの物語の両端に、一度に触れられる産地です。
次回は憧れの図鑑へ。泡の頂点、シャンパーニュのグランメゾン——ドン・ペリニヨン、クリュッグ、ボランジェ……名門たちの「家風」を飲み比べる、銘醸図鑑「シャンパーニュのグランメゾン」をご案内します。