ワインガイド Vinotier
XXXVIII
Region Deep Dive — Croatia & Slovenia

クロアチア&スロベニア完全編

ジンファンデルの故郷と、オレンジワインの現代の聖地。アドリア海をはさんで向き合う二つの国に、世界のワインの「物語の起点」が眠っています。

産地深掘りシリーズ、アドリア海の岸辺へ。近くて遠い東欧の実力派。キーワードはジンファンデルの故郷・プラヴァツ・マリ・オレンジワインの聖地
教会の塔と村を囲む、スロベニア・ゴリシュカ・ブルダの緑の丘とぶどう畑
ゴリシュカ・ブルダ — 「スロベニアのトスカーナ」とも呼ばれる丘陵地帯。遠くにユリアン・アルプス。この静かな丘が、オレンジワイン復興の震源地のひとつになった
— Prologue

物語の起点が、ここにあるアドリア海の二国

アドリア海の東岸に、世界のワインの「物語の起点」を二つも抱える地域があります。ひとつはクロアチア——第12講カリフォルニアの看板品種ジンファンデルの故郷。もうひとつはスロベニア——いま世界を席巻するオレンジワイン復興の震源地のひとつです。

どちらも小さな国ですが、土着品種の層の厚さと造りの水準は「東欧の実力派」の名にふさわしいもの。把握のコツは三つ。「ジンファンデルのルーツ」「断崖の赤ディンガチ」「国境の丘のオレンジワイン」です。

— Croatia

ジンファンデルの故郷ダルマチアの断崖

長らく出自不明だったジンファンデル。2000年代初頭のDNA解析で、その正体はクロアチア・ダルマチア地方の土着品種(古名トリビドラグ、現地でツールイェナク・カシュテランスキ)と同一——と判明しました。イタリアのプリミティーヴォも同じ品種です。カリフォルニアの陽気な赤のふるさとは、アドリアの石の海岸だったのです。

石灰岩がごろごろと転がる、ディンガチの乾いた急斜面の畑
ディンガチ — ペリェシャツ半島の海に落ちる急斜面。石だらけの過酷な大地と強い陽射しが、凝縮したプラヴァツ・マリを育てる
プラヴァツ・マリPlavac Mali

ジンファンデル(トリビドラグ)の血を引くとされる、ダルマチアの主力黒ぶどう。濃密で力強く、干しイチジクのような果実味。

ディンガチDingač

ペリェシャツ半島の断崖の銘醸地。海への急斜面で育つプラヴァツ・マリの最高峰とされる。

白の島々Islands

コルチュラ島のポシップグルク、イストリア半島のマルヴァジア。海風の効いた個性ある白。

里帰りするジンファンデル 第22講南米のマルベック、第25講ギリシャのアシルティコ——品種の「旅」はこの講座の縦糸ですが、ジンファンデルはその逆で、新世界のスターの故郷が後から見つかった珍しい例。カリフォルニア(第12講)と飲み比べれば、同じ品種の二つの人生を味わえます。

— Slovenia

オレンジワインの現代の聖地国境の丘、ブルダ

スロベニア西部、イタリアとの国境に広がるゴリシュカ・ブルダとヴィパヴァ渓谷。この一帯は、イタリア側のフリウリ(コッリオ)と地続きのワイン文化圏で、白ぶどうを果皮ごと醸すオレンジワインの現代的な復興は、この国境の丘から始まったと語られます。主役の品種はレブラ(イタリア名リボッラ・ジャッラ)。厚い果皮が、琥珀色の深い味わいを支えます。

レブラRebula

ブルダの看板白。果皮ごと醸せば、杏や紅茶を思わせる複雑なオレンジワインに。オレンジ

二つの造りStyles

同じ品種を「普通の白」と「醸し」の両方で造る生産者も多い。飲み比べれば製法の意味が体感できる。

世界最古の木Stara Trta

東部マリボルには樹齢400年超・世界最古とされるぶどうの木が現役で実をつける。ギネス認定の生きた遺産。

ジョージアから、ここへ オレンジワインの源流は第30講ジョージアのクヴェヴリ(8000年前)。それを現代のスタイルとして世界に広め直したのが、このフリウリ=スロベニア国境地帯の造り手たちと言われます。源流と震源地——二つを知れば、オレンジワインの地図は完成です。

— Approachable

選ばれる理由旅・個性・発見

旅先で花開くTravel

ドゥブロヴニクやリュブリャナ観光と相性抜群。現地の食堂で飲む土着品種は、旅の記憶ごと味になる。

唯一無二の個性Unique

ポシップ、レブラ、プラヴァツ・マリ——国際品種にない香味。「飲んだことのない味」に確実に出会える。

日本でも増加中Import

自然派・オレンジワインの人気とともに、輸入は年々充実。専門店で「スロベニアのオレンジ」と聞くのが早道(第33講参照)。

合わせるなら プラヴァツ・マリにはグリルした肉や熟成チーズを。オレンジワインは渋みを持つ白なので、第27講ペアリングの枠を超えて、燻製や発酵食品、和食の滋味とも好相性と言われます。

— Recap

過去と現在をつなぐ橋アドリアの実力派

この二国は「ジンファンデルの故郷(トリビドラグ)」「断崖の赤ディンガチとプラヴァツ・マリ」「国境の丘のオレンジワインとレブラ」で見通せます。最初の一本は、力強いプラヴァツ・マリか、飲みやすいポシップの白。冒険するならブルダのオレンジワインを。品種の故郷と製法の未来——ワインの物語の両端に、一度に触れられる産地です。

次回は憧れの図鑑へ。泡の頂点、シャンパーニュのグランメゾン——ドン・ペリニヨン、クリュッグ、ボランジェ……名門たちの「家風」を飲み比べる、銘醸図鑑「シャンパーニュのグランメゾン」をご案内します。