エーゲ海の陽光と、火山と、数千年の歴史。土着品種の宝庫が生む、塩気のある白と滋味ぶかい赤。主役は火山島サントリーニのアシルティコ。

ワイン造りの歴史を語るとき、ギリシャは欠かせません。数千年前から人々がここでワインを醸してきた、いわばワイン文化の故郷のひとつ。長い歴史のなかで磨かれた土着品種の宝庫で、国際品種では味わえない個性にあふれます。エーゲ海の強い陽光と、島々の火山、山がちな地形。多彩な風土が、塩気のある白から滋味ぶかい赤までを生みます。
把握のコツは三つ。「火山島サントリーニの白アシルティコ」「北の力強い赤クシノマヴロ」「ネメアの親しみやすい赤アギオルギティコ」。まずは、いま世界が注目する火山島の白から。
いまギリシャで最も注目される白が、火山島サントリーニのアシルティコ。乾いた火山灰の土壌から、柑橘の果実味・鮮烈な酸・かすかな塩気(塩味)を備えた、キレのある辛口が生まれます。強い海風から実を守るため、木を渦巻き状に編んだ「クルーラ」という独特の籠仕立てが有名。害虫フィロキセラを免れた土壌ゆえ、接ぎ木をしない古木も多く残ります。

レモンや火打石、そして潮を思わせる塩気。高い酸とミネラル感で、熟成にも耐える。魚介と抜群。白・辛口
渦巻き状の籠仕立て。エーゲ海の強風と乾燥から房を守る、サントリーニ独自の栽培法。
フィロキセラを免れた火山灰土壌に、接ぎ木なしの古木が残る。凝縮したミネラルの源。
陽で干したぶどうから造る、琥珀色の甘口。蜂蜜やドライフルーツの余韻。甘口
「塩気」を持つ白 アシルティコの塩を思わせる風味は、海辺の火山島ならでは。生牡蠣や焼き魚、レモンを添えた料理と合わせると、その塩気と酸が驚くほど響き合います。甘口ヴィンサントは第19講貴腐と甘口の陰干しワインの仲間です。
赤の実力派が、北ギリシャ・ナウサなどで育つクシノマヴロ。名前は「酸っぱい・黒い」の意で、その名の通り高い酸としっかりしたタンニンを備えます。赤系果実にドライトマトやドライフラワー、スパイスの複雑な香り。しばしばイタリアのネッビオーロに例えられる、熟成でこそ花開く気品ある赤です。
高酸・高タンニン。ドライトマトやハーブの複雑さ。熟成で滋味を増す長命な赤。赤
クシノマヴロの銘醸地。単一品種で造られ、この土地の気品を映す。赤
色は淡めでも酸とタンニンは強靭。第7講のバローロを思わせる、「飲むほどに分かる」タイプ。
バローロの遠い親戚? クシノマヴロは第7講イタリアの王ネッビオーロと、淡い色・強い酸とタンニン・熟成能力という点で似ています。品種は無関係ですが、味わいの方向性は近縁。飲み比べると面白い二本です。
ペロポネソス・ネメアの赤。プラムの果実味とやわらかなタンニンで親しみやすい。「聖ゲオルギオスのぶどう」。赤
マンティニアの芳香白。バラやマスカットの華やかな香りと爽やかな酸。食前酒にも。白
松脂で香りづけした伝統の白。好みは分かれるが、近年は洗練された造りも登場。白
200を超える土着品種 アシルティコやクシノマヴロは氷山の一角。マラグジア(芳香白の復活株)やサヴァティアノなど、この国には固有品種が数百も眠ります。国際品種に飽きたら、ギリシャは尽きない冒険の産地です。
土着品種ゆえ、どこにもない香りと味。塩気の白や複雑な赤は、ワイン好きを飽きさせない。
魚介、オリーブ、ハーブ、羊肉。ギリシャ料理はもちろん和食にも、鮮やかな酸がよく合う。
数千年続くワイン文化。一杯の背後にある長い記憶も、ギリシャワインの魅力のひとつ。
まずは一本から 入りやすいのは、よく冷やしたサントリーニのアシルティコ。魚介やレモンを効かせた料理と。赤なら親しみやすいネメアのアギオルギティコから始めると、ギリシャの世界にすっと入れます。
ギリシャは火山島の白アシルティコ・北の赤クシノマヴロ・ネメアの赤アギオルギティコ、この三点で見通せます。数千年の歴史を持つワイン文化の故郷のひとつ。最初の一本は、塩気とキレのアシルティコ。慣れたら、熟成で開くクシノマヴロや、琥珀の甘口ヴィンサントへ。土着品種の奥深さに、きっと引き込まれます。
世界の産地を広く巡ってきました。ここで少し立ち止まり、家での一杯をもっとおいしくする実践編へ。グラス・温度・抜栓・保存——ワインの保存とサービング完全編で、「開けてから飲み終わるまで」のコツをご案内します。