いちばん大切なのは、長く楽しみ続けられる飲み方を知ること。適量の目安、「体に良い」説の現在地、悪酔いを防ぐコツ、そして亜硫酸の誤解まで。

36講にわたって「おいしく飲む」術を学んできました。この講では一度立ち止まり、健康との付き合い方を正直に整理します。ワインメディアとして格好をつけずに言えば——お酒は嗜好品であり、飲むほど体に良いものではありません。だからこそ、量とペースの感覚を持ち、長く楽しみ続けられる飲み方を知ることが、ワイン好きにとって何よりの実践知です。
※本講は一般的な情報の整理であり、医学的な助言ではありません。体質や持病により適した量は大きく異なります。不安がある場合は医師にご相談ください。また20歳未満の飲酒、妊娠中・授乳中の飲酒は法律・健康上の理由からできません。
日本の公的な指針では、「節度ある適度な飲酒」は1日平均・純アルコールで約20g程度とされています。ワインに換算すると、アルコール度数にもよりますがグラス(120ml)でおよそ2杯弱。「思ったより少ない」と感じる人が多いのではないでしょうか。大切なのは、この数字を「毎日飲んでいい量」ではなく「ものさし」として持っておくことです。
度数13%のワインなら約190ml=グラス1杯半ほど。缶ビール中瓶1本、日本酒1合とほぼ同じ量。
週に数日、飲まない日を設けるのが望ましいとされる。「毎晩の習慣」から「選んだ日の楽しみ」へ。
体質(分解酵素の強弱)・体格・性別で適量は大きく違う。顔が赤くなりやすい人はとくに控えめに。
1990年代、「フランス人は脂肪をとるのに心臓病が少ない」というフレンチ・パラドックスが話題になり、赤ワインのポリフェノール(レスベラトロール等)に注目が集まりました。しかし研究が進んだ現在では、「少量の飲酒なら健康に良い」という考え方自体が見直されつつあります。近年の大規模研究では「飲酒量は少ないほど良い」とする報告が主流になりつつある、というのが正直な現在地です。
ぶどうの果皮や種に由来する成分で、赤ワインに多い。ただし「ワインで健康になれる」根拠とするには弱い、と考えられている。
健康効果を飲む言い訳にしない——それがいちばん誠実な楽しみ方。ワインの価値は、味わい・食卓・文化にある。
このサイトの立場 Vinotierは「ワインは健康食品ではない」という前提に立ちます。そのうえで、数千年つづく食文化としてのワインを、節度をもって深く楽しむ——36講かけてお伝えしてきたのは、その楽しみ方です。

ワインと同量の水を交互に飲むのが世界共通の知恵。ペースが整い、脱水も防げる。味覚もリセットされて一石三鳥。
食べ物と一緒だとアルコールの吸収が穏やかになるとされる。ワインはそもそも食事の酒——理にかなった伝統。
香りを観察し、言葉にしながら飲むと、自然とペースが落ちる。第31講の実践は、実は最高の悪酔い対策でもある。
「ワインは頭が痛くなる」の正体は? よく耳にする悩みですが、原因はひとつではないと考えられています。脱水、飲みすぎ、体質——そして次に説明する「酸化防止剤のせい」という説には、大きな誤解があります。
ラベルの「酸化防止剤(亜硫酸塩)」の表記を見て不安になる人は少なくありません。しかし亜硫酸(SO2)は古代ローマの時代から使われてきた伝統的な保存料で、ワインの酸化と雑菌を防ぐ働きをします。ドライフルーツなど他の食品にも広く使われており、ごく一部の過敏な体質の人を除き、通常の量では問題ないとされています。「頭痛の主因は亜硫酸」という通説も、科学的には裏付けが弱いと言われています。
酸化と再発酵を防ぎ、品質を安定させるため。自然発酵でも微量の亜硫酸は生成されるため、「完全ゼロ」のワインは基本的にない。
添加を行わない造り(サン・スフル)は自然派の潮流のひとつ。フレッシュな魅力の一方、品質が不安定になりやすい面も。赤白
喘息などで過敏性が指摘される場合も。心配があれば無理をせず、医師に相談を。それが唯一の正解。
「無添加=高品質」ではない 亜硫酸の添加量は法律で上限が定められており、通常のワインも安全に管理されています。「無添加かどうか」は品質の優劣ではなく造りの思想の違い——第34講ジュラで触れた自然派の文脈で捉えるのが正確です。
いま世界のワイン界で急成長しているのが、ノンアルコール(脱アルコール)ワインと低アルコールワインです。完成したワインから減圧蒸留などでアルコールだけを取り除く製法が主流で、ぶどう由来の香りや酸を残せるのが、ぶどうジュースとの決定的な違い。休肝日や妊娠・運転などで「飲めない日」も、食卓の楽しみを手放さない選択肢として広がっています。
一度ワインとして造ってからアルコールを除去。0.5%未満等の表示を確認して選ぶ。ノンアル
度数低めの軽やかなワインの人気も上昇中。ドイツのカビネット(第11講)など、伝統産地にも低アルの名手がいる。白
1杯目はワイン、2杯目はノンアル——という「行き来」も現代的な楽しみ方。ペース調整にも役立つ。
選び方のコツ ノンアルワインは製品による差が大きい分野。まずは泡タイプから試すのがおすすめです。炭酸の爽快感が満足度を支えてくれるため、「ワインらしさ」を感じやすいと言われます。
押さえるのは「適量の目安は純アルコール約20g=グラス2杯弱」「健康効果を飲む言い訳にしない」「水を並走・空腹を避ける・ゆっくり」「亜硫酸は伝統的で通常は問題ないとされる」「ノンアルという選択肢」。フランス語の乾杯「ア・ヴォートル・サンテ」は「あなたの健康に」という意味です。その言葉のとおり、健やかに、末永く——それがこの講座のいちばんの願いです。
次回はふたたび産地の旅へ。アドリア海の岸辺、オレンジワインの現代の聖地と、ジンファンデルのふるさと——クロアチア&スロベニア完全編。近くて遠い東欧の実力派をご案内します。