8000年前の土器で、いまも醸す国がある。ジョージアのクヴェヴリが伝える原初の製法と、ハンガリー・トカイが磨いた黄金の貴腐。ワインの源流へ。

節目の第30講は、ワインの原点へ。第25講ギリシャを「発祥の地のひとつ」と呼びましたが、さらに時代をさかのぼると、コーカサスのジョージアにたどり着きます。この国では約8000年前からワインが造られてきたとされ、そのころの製法がいまも現役——世界でも類を見ない土地です。
そしてもう一国、ハンガリー。かつてフランス王ルイ14世が「ワインの王にして、王のワイン」と讃えたと伝えられるトカイの貴腐ワインを生んだ国です。最も古い製法と、最も高貴な甘口。この二つを訪ねます。
ジョージアの象徴がクヴェヴリ。素焼きの巨大な甕を地中に埋め、収穫したぶどうを果皮も種も梗ごと入れて、蓋をして自然に発酵させる——それだけの、驚くほど素朴な製法です。地中の安定した温度が、ゆっくりとした発酵と熟成を支えます。この伝統製法はユネスコの無形文化遺産にも登録されました。

白ぶどうを果皮ごと長期間漬け込むため、色は琥珀色に。渋みと厚みを持つ、独特の白。オレンジ
近年世界で流行するオレンジワイン(アンバーワイン)は、この古代製法が原点とされる。オレンジ
ジョージアを代表する黒ぶどう。果肉まで赤い希少な品種で、色濃く力強い赤を生む。赤
ルカツィテリなど、この地固有の品種が数百種。国際品種とはまるで違う香味の世界。
「オレンジワイン」って何? 白ぶどうを、赤ワインのように果皮ごと発酵させたワインのこと。果皮から色と渋みが出て、琥珀色になります。第1講基礎講座で学んだ「赤・白・ロゼ」に続く第四のカテゴリー——その原型が、8000年前からここにありました。
ハンガリー北東部のトカイ。二つの川が合流するこの地は秋に霧が立ちこめ、貴腐菌がぶどうに取りつきます。水分が抜けて糖が凝縮した粒(アスー)を手で選り摘み、通常のワインに加えて仕込む——それがトカイ・アスーです。第19講貴腐と甘口で学んだ三大貴腐のひとつであり、17世紀にはすでに格付けが行われていたとされる、歴史の深い産地です。

トカイの主役品種。貴腐になりやすく、酸が非常に高い。近年はキレのある辛口も高評価。白
甘さの等級を示す伝統的な表記。数字が大きいほど、貴腐ぶどうを多く使った濃厚な甘口に。甘口
蜂蜜や杏の甘美さがありながら、高い酸のおかげでべたつかず爽やか。驚くほど長命。
甘口だけの国ではない トカイのフルミントから造られる辛口白は、いま世界の注目株。ミネラル感と鋭い酸を備え、食中酒として高く評価されています。ハンガリーにはほかにも、エゲルの赤「牡牛の血(エグリ・ビカヴェール)」など個性ある産地が点在します。
約8000年の歴史。クヴェヴリで果皮ごと醸す琥珀色の白と、サペラヴィの濃厚な赤。製法の原点。オレンジ赤
王侯に愛された貴腐トカイと、キレのある辛口フルミント。甘口ワインの原点のひとつ。甘口白
最先端は、いちばん古い場所にあった 自然な造り、果皮ごとの醸し、素焼きの甕——いま「新しい」とされる潮流の多くは、ジョージアが数千年続けてきたことと重なります。第10講ブラインドテイスティングで培った観察眼で、この「新しくて古い」味わいを確かめてみてください。
この二か国はクヴェヴリの古代製法・オレンジワインの源流・トカイの貴腐とフルミント、この三点で見通せます。最初の一本は、香り高く飲みやすいフルミントの辛口か、力強いサペラヴィ。少し冒険するなら、クヴェヴリのアンバーワインを。渋みのある琥珀色の白は、これまで飲んできたどの白とも違う驚きをくれるはずです。
30講かけて、世界の産地と実践のコツを巡ってきました。ここで一度、言葉の話を。「渋い」「重い」だけでは伝わらない味わいを、どう言い表すか——テイスティングの言葉完全編で、感じたことを的確に表現する語彙をご案内します。