鰻は「たれ」か「塩」か——脂の厚みと香ばしさで選ぶ
鰻は、脂の厚みが印象に残る魚です。そこに焼き目の香ばしさが重なり、さらにたれで食べるか、塩やわさびで食べるかで、料理の印象が大きく変わります。だから鰻のワイン選びは、魚だから白、と決めるより、何で味をつけているかを見るのが近道です。
鰻やアナゴをたれをつけずに焼いたものを白焼き、醤油とみりんなどのたれをつけて焼いたものをかば焼きと呼びます。目安を一行にすると、たれには果実味のある軽めの赤、塩とわさびには辛口の白か泡、だしには辛口のシェリー。鰻の脂は酸で切るか、果実味で包むか。この二つを覚えておけば、うな重からう巻きまで選び方が見えてきます。
一方で、タンニンの強いフルボディの赤は、甘辛いたれと合わせると渋みが立ちやすく、鰻の繊細な身の味も覆いがちです。脂があるからと重い赤に寄せすぎないのがコツです。
かば焼き・うな重には、果実味の赤——たれの照りと焼き目に合わせる
かば焼きの味は、醤油・みりんを煮詰めた甘辛いたれと、焦げる手前まで焼いた香ばしさ、そしてふっくらした身の脂でできています。ここで頼りになるのがピノ・ノワールです。渋みが穏やかで、赤い果実の香りと張りのある酸を持つ品種なので、たれの照りに寄り添いながら脂を軽くしてくれます。熟成して土やきのこを思わせる香りが出てきたものは、焼き目の香ばしさとも響き合います。
日本のマスカット・ベーリーAも、うな重に合わせやすい一本です。いちごを思わせる甘い香りが、たれの甘辛さと同じ方向を向きます。考え方はペアリング: 照り焼きやペアリング: 焼き鳥のたれと近く、甘辛い味には果実味の赤と覚えておくと迷いません。どちらも少し冷やして、軽やかに飲むのが目安です。
仕上げに山椒を振ると、爽やかな香りとしびれる辛みでたれの甘さが引き締まります。赤なら香りに軽やかさのあるピノ・ノワール、白を合わせるなら、ライチやバラ、スパイスを思わせる香りのゲヴュルツトラミネールが、山椒の香りと重なりやすい選択肢です。産地は第20講 — アルザス完全編で歩けます。
白焼き・ひつまぶし・う巻き——塩とわさび、だし、卵に合わせる
- 白焼き(塩・わさび) — たれがないぶん、鰻そのものの脂の甘みと皮の香ばしさが主役です。穏やかな香りとすっきりした後味の甲州や、辛口のスパークリングワインが、脂を流しながら素材の味を邪魔しません。わさび醤油で食べるなら、樽の効いた白より、すっきりしたタイプが合わせやすい目安です。
- ひつまぶし — 刻んだかば焼きをご飯にまぶし、そのまま、薬味をのせて、だしやお茶をかけて、と食べ方を変えていく料理です。一膳目は軽めの赤、薬味の二膳目は甲州や泡、だしをかける締めには辛口のシェリー(フィノやマンサニーリャ)。ナッツを思わせる香りと塩気のニュアンスを持つ酒精強化ワインで、だしのうま味に重なります。シェリーの産地は第14講 — スペイン完全編へ。一本で通すなら、赤にも白にも寄りすぎないロゼが選択肢です。
- う巻き — だし巻き卵の甘みとふくらみに、かば焼きのたれが少し。卵のまろやかさには、樽を控えたシャルドネのようなふくよかな白や、ほのかに甘みの残るリースリングが寄り添います。
- 肝吸い・肝焼き — 肝吸いのだしには辛口シェリーか甲州。ほろ苦い肝焼きには、軽めの赤のほうが苦みと香ばしさを受け止めやすい傾向があります。
合わせにくい組み合わせも知っておくと選びやすくなります。うな重に渋みの強いフルボディの赤は、たれの甘みで渋みが立ちやすい組み合わせ。白焼きに樽香の強い白は、繊細な脂と皮の香りを覆いやすい傾向があります。
鰻屋の座敷から、家で温め直す夜まで——場面で選ぶ
- 鰻屋でうな重を頼む日 — 焼き上がりを待つあいだに、白焼きと冷えた泡か甲州をグラスで。うな重が届いたら、ピノ・ノワールかマスカット・ベーリーAへつなぐと、白焼きからかば焼きまで一本ずつ通せます。ワインの品揃えは店によって差があるので、なければ日本酒に切り替えるのも自然な流れです。
- 家でかば焼きを温め直す夜 — 冷蔵庫で少し冷やした軽めの赤を一本。ご飯と吸い物が並ぶ食卓でも、グラス一杯から気負わず開けられます。
- 人を招いてひつまぶしを囲む日 — 泡で乾杯し、一膳目は赤、締めのだしにはシェリーを小さなグラスで。食べ方の変化に合わせてグラスを替えるのも、ひつまぶしならではの楽しみ方です。
温度は、泡と白は6〜10℃、ピノ・ノワールやマスカット・ベーリーAのような軽めの赤は少し冷やした12〜14℃、辛口シェリーはよく冷やした7〜9℃が目安です。詳しくは提供温度(適温)へ。和の献立全体の合わせ方は第71講 — 和食とワイン完全編とペアリング: 和食、日本のワインは第9講 — 日本ワイン産地巡りも参考にしてください。