富山湾を望む丘から
富山のワイン造りを象徴するのが、氷見市の丘に広がるセイズファーム。富山湾越しに立山連峰を望むこの畑は、江戸期から続く魚問屋を母体に、2007年からぶどうを植え始めました。雨が多く湿潤な富山の気候は、ぶどう栽培には決して楽ではありません。それでも土地に合う品種を辛抱強く探り、海と山に抱かれたワインを育てています。
雨に強いアルバリーニョ
湿潤な富山で頼りになったのが、スペイン北西部の雨の多い産地で育つ白品種アルバリーニョ。雨に強く、清冽な酸と豊かなミネラルを備えたこの品種は、まさに富山の気候の味方でした。セイズファームでは2012年に栽培を始め、「海のワイン」として定着。シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、メルローなども育てながら、海辺ならではの潮を思わせる味わいを引き出しています。
海の幸とともに
溌剌とした酸と塩を思わせるミネラルは、白えびや寒ぶり、ホタルイカといった富山湾の海の幸の名脇役。同じ海に育まれたワインと料理が、自然と響き合います。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、隣県石川や、日本のアルバリーニョとも縁の深い長野とあわせて、北陸のワインの個性を味わってみてください。より広い流れは第9講 日本ワイン産地巡りで。
気候と土地の個性
富山のワインづくりを語るとき、避けて通れないのが雨と雪です。年間を通じて降水量が多く、冬は深い雪に覆われる日本海側気候。ぶどうは本来、乾いた土地を好む果物なので、この条件は明らかに逆風です。それでも富山の造り手が畑を拓いたのは、氷見のような海を望む丘陵地に、可能性を見いだしたから。斜面は水を溜めずに流し、海からの風は畑の湿気を払ってくれます。立山連峰と富山湾——3000m級の山と深い海が至近距離で向かい合う、日本でも指折りの劇的な地形。その間に挟まれた丘の上で、気候の制約を土地の工夫で乗り越えるワインづくりが続いています。
主な品種と味わいの傾向
品種選びの答えがアルバリーニョだったことは、富山という産地の性格をよく表しています。「気候に合わない品種を無理に育てる」のではなく、「同じような気候で輝いてきた品種を連れてくる」という発想です。実際、原産地であるスペイン北西部も、海に面した多雨の土地。清冽な酸、豊かなミネラル、潮を思わせるかすかな塩味という持ち味が、富山の海辺でも素直に発揮されています。ほかにシャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどの白、メルローなどの赤も育てられていますが、産地全体の重心はあくまで魚介に寄り添う白。「何にでも合う」ではなく「富山湾の幸に合う」と的を絞った潔さが、この産地の輪郭を際立たせています。
郷土の食との合わせ方
富山の食文化の代名詞昆布締めには、ミネラル豊かなアルバリーニョを。昆布の旨みをまとった刺身と、潮を思わせるワインの塩味が同じ方向を向き、旨みが静かに増幅されます。駅弁でおなじみのます寿司には、酸のきれいな白がぴったり。酢飯の酸味とワインの酸が調和し、鱒の脂をすっと流します。そして白えびのかき揚げのような揚げ物には、溌剌とした酸が油を切り、白えびの上品な甘みを引き立てます。「富山湾の宝石」と呼ばれる白えびに、富山湾を望む畑のワイン——産地と食卓がこれほど素直につながる組み合わせは、なかなかありません。
飲み方のコツをひとつ。アルバリーニョはしっかり冷やして飲み始め、グラスの中で温度が上がるにつれて香りが開いていくのを待つと、一杯のなかに二度の楽しみがあります。最初は柑橘の爽やかさ、後半は白い花や桃を思わせるふくらみ——刺身から焼き物へと進む和食のコースに、一本で寄り添える懐の深さです。
ワイナリー巡りのコツ
富山のワイナリーはまだ数が少ないぶん、一軒一軒をじっくり訪ねるスタイルが向いています。レストランや宿泊を併設する造り手もあるので、食事とセットで計画すると満足度が上がります。小規模な蔵は仕込みの時期など受け入れが変わることもあるため、営業日や見学可否は事前確認が確実です。車で巡るなら運転者は試飲を控えるのがルール。氷見の海の幸や温泉と組み合わせて、一泊二日の「食とワインの旅」に仕立てるのがおすすめです。
産地の歩みとこれから
富山のワインづくりの歴史はまだ浅く、本格的な動きが始まったのは2000年代以降のことです。しかし「後発」であることは、必ずしも弱みではありません。最初から土地に合う品種を選び、海の幸というゴールを見据えて味わいを設計できるからです。氷見のセイズファームが示した「海のワイン」という方向性に続くように、県内には新しい造り手が少しずつ生まれつつあります。発展途上ならではの伸びしろと、はっきりした個性。日本ワインの地図のなかで、富山はこれから面白くなる産地のひとつです。
