霧の海に立つ産地
広島のワインの中心は、県北の三次(みよし)。中国山地に囲まれた三次盆地は、江の川・馬洗川・西城川という三つの河川が合流する土地です。昼夜の寒暖差が大きく、晩秋から早春には幻想的な「霧の海(雲海)」が立ち込めます。この冷涼な内陸性気候が、ぶどう栽培に適した環境を生みます。
MADE IN MIYOSHI
三次ワインの誇りは、「MADE IN MIYOSHI」。三次産ぶどう100%でつくる清冽なワインです。日本固有のマスカット・ベーリーAやシャルドネ、メルローなどが、土地の個性を映します。1994年開業のワイナリーが産地を牽引し、日本ワインコンクールでも高い評価を得ています。
瀬戸内の味とともに
清冽でバランスの良い味わいは、牡蠣や瀬戸内の魚、お好み焼きの名脇役。カフェやバーベキューガーデンを備えた観光ワイナリーで、気軽に楽しめます。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、隣県岡山とあわせて、中国地方のワインの個性を味わってみてください。
気候と土地の個性
広島県は、瀬戸内海沿岸と中国山地側で気候が大きく異なります。沿岸部は温暖少雨の瀬戸内式気候。一方、ワインづくりの中心である県北の三次盆地は内陸にあり、夏は暑く冬は冷え込む、寒暖差の大きな土地です。名物の「霧の海」は、夜間によく冷えた空気が川沿いに霧を生む現象で、この放射冷却こそ昼夜の寒暖差の証。江の川水系がつくった盆地の平地と周囲のなだらかな丘陵が、ぶどうに適した畑を提供しています。海の広島と山の広島——そのふたつの顔を、一本のワインの背景として知ると味わいが深まります。
三次はもともと、生食用ぶどうの栽培で知られてきた土地です。ぶどうが育つ実績のある気候と、盆地を囲む水はけのよい丘陵——この果樹の下地があったからこそ、醸造用品種への展開も無理なく進みました。霧が出るほど夜が冷えるということは、日中の熱をぶどうが引きずらず、酸をすり減らさずに朝を迎えられるということ。幻想的な風景と味わいの清冽さは、同じひとつの気候現象の、ふたつの表れなのです。
主な品種と味わいの傾向
三次で長く栽培されてきたのが、日本固有のマスカット・ベーリーA。いちごや綿あめを思わせる香りの、渋み穏やかな赤になります。生食用ぶどうとしても知られるデラウェアからは親しみやすい白が生まれ、シャルドネやメルローといった欧州系品種も土地に根づいてきました。全体に共通するのは、霧の立つ盆地育ちらしい清冽さとバランスの良さ。構えず食卓に置ける、日常に寄り添う味わいが持ち味です。初めて選ぶなら、地元の食に合わせる前提で考えるのが近道。牡蠣の季節なら辛口の白、鉄板を囲む夜ならマスカット・ベーリーAと、食卓から逆算すると迷いません。
郷土の食との合わせ方
広島といえば牡蠣。レモンを搾った生牡蠣や焼き牡蠣には、酸のきれいな辛口の白がまっすぐ合います。お好み焼きには、ソースの甘辛さと同じ方向を向く、果実味豊かなマスカット・ベーリーAを。鉄板の香ばしさに軽い渋みが心地よく寄り添います。宮島名物のあなご飯には、タレの香ばしさを受け止めるふくよかな白か軽めの赤を。小いわしの刺身や天ぷらなら、軽やかな白が薬味の生姜とも自然になじみます。瀬戸内の食は総じて繊細なので、濃すぎないワインを選ぶのがコツです。
ワイナリー巡りのコツ
産地の中心・三次へは、広島市内から高速道路で1時間前後。広島三次ワイナリー(TOMOÉ)を目的地に、霧の海の展望スポットや城下町散策と組み合わせる旅程が定番です。霧の海を狙うなら、晩秋から早春の、よく晴れて冷え込んだ日の早朝が狙い目。試飲を楽しむなら公共交通を使うか、運転しない人を決めておきましょう。見学内容や営業日は変わることがあるため、訪問前に公式情報の確認を忘れずに。
産地の歩みとこれから
三次のぶどう栽培は古くから続き、生食用ぶどうの産地として名を知られてきました。その果樹の蓄積の上に、地域ぐるみでワインづくりを育てる動きが起こり、「三次産ぶどう100%」を掲げる現在のスタイルにつながったと伝えられます。中国地方では岡山や島根と並ぶワイン産地として、コンクールでの受賞などを通じて評価を高めてきました。霧の海という唯一無二の風土を語れる産地として、これからも個性を磨いていくはずです。
