出雲が育てたワイン
島根のワインは、縁結びの神話で知られる出雲を中心に発展してきました。出雲市大社町は、明治期から続くデラウェアの名産地。ハウス栽培デラウェアの出荷量は全国有数を誇り、この食用ぶどうの文化が地域ワインの土台になっています。出雲大社のほど近くで、土地のぶどうが一杯のワインに姿を変えます。
親しみやすさが身上
主役は親しみやすいデラウェア。やわらかな甘みのものから辛口まで揃い、ワインに不慣れな人にも飲みやすいのが魅力です。マスカット・ベーリーAや甲州も育ち、甲州の白はコンクールで金賞を得るなど実力も確か。気軽に楽しめる一杯が、島根ワインの入口を広く開いています。
観光とともに味わう
島根の楽しみは、観光と一体であること。出雲大社参拝の足を延ばせば、無料試飲やバーベキューを楽しめる観光ワイナリーがあります。一方で本格派の造り手もあり、二つの顔を持つ産地です。まずは「日本ワイン」とはから知り、ワイナリーガイドで出雲の造り手を訪ねてみてください。
気候と土地の個性
島根は東西に長い県で、東の出雲、西の石見、沖合の隠岐とでは気候も文化も表情が異なります。ワイン造りの中心は出雲部。日本海側気候で冬は曇りや雨が多いものの、ぶどうの生育期にあたる春から夏は日照に恵まれます。出雲平野の西部、大社町の周辺には水はけのよい砂質の土地が広がると伝えられ、明治期からのぶどう栽培に生かされてきました。雨や病気を避けるハウス栽培が発達したことも、この土地のデラウェアの品質を支えています。一方、中国山地に入る雲南・奥出雲の山あいは標高が高く、昼夜の寒暖差が大きい冷涼な環境。海辺の平野と山あいの高地という二つの異なる条件が、県内に性格の違うワインを生んでいます。日本海の豊かな海の幸と中国山地の山の幸がともに手に入る食の豊かさも、ワインを食中酒として育ててきた背景にあります。
主な品種と味わいの傾向
主役はデラウェア。やわらかな甘みを残したタイプから、すっきりした辛口、スパークリングまで幅が広く、ワインに不慣れな人の入口としても優れています。赤はマスカット・ベーリーAが中心で、いちごを思わせる果実味とやわらかな渋みが親しみやすい味わい。甲州の白は和食に寄り添う繊細さがあり、カベルネ・ソーヴィニヨンなど欧州系への挑戦も見られます。山あいでは、山ぶどうの血を引く小公子という日本の品種も育てられ、色濃く野趣のある酸を持つ個性的な赤になります。総じて「香りが素直で、食事と一緒に楽しめる」ことが、島根ワインの共通項です。デラウェアの白は8度前後までしっかり冷やすと、フレッシュな酸と果実味が際立ちます。やや甘口のタイプは、よく冷やして食前酒にするのもおすすめです。
郷土の食との合わせ方
出雲そばには、デラウェアのやや甘口から辛口の白。割子そばの濃いめのつゆの甘辛に、ぶどう由来の穏やかな甘やかさと酸が寄り添います。宍道湖のしじみ汁には、すっきりした辛口のデラウェア。貝の繊細な旨みを、控えめな香りのワインが邪魔せず引き立てます。のどぐろの塩焼きには、酸のしっかりした辛口白か軽めの赤。脂ののった白身の甘みと皮目の香ばしさを、ワインの酸がすっと切ってくれるためです。焼き鯖や牛肉料理のような味の強い皿なら、マスカット・ベーリーAや小公子の赤に出番が回ります。茶の湯の文化が息づく松江に足を延ばすなら、旅の締めくくりに、やや甘口のデラウェアを土産の和菓子とあわせてみるのも一興です。
ワイナリー巡りのコツ
島根の醍醐味は、なんといっても出雲大社の観光と組み合わせられること。参拝のあとに立ち寄れる距離に観光型の造り手があり、試飲や食事とあわせて気軽にワインに触れられます。試飲を楽しむなら、運転を伴わない計画を立てるか、飲まない同行者と役割を分けるのが基本です。山あいの造り手を訪ねるなら車が便利ですが、冬は雪への備えを忘れずに。売店やカフェの営業日・見学の可否は時期で変わるため、事前確認をおすすめします。出雲へは空路や鉄道でのアクセスも整っており、一泊二日あれば大社参拝と平野・山あいの両方を組み合わせた行程が組めます。当サイトでは島根ワイナリーと奥出雲葡萄園を個別ページで紹介しています。
産地の歩みとこれから
出雲・大社町のぶどう栽培は明治期に始まったと伝えられ、以来この地はデラウェアの名産地として歩んできました。ワイン造りは、生食用ぶどうの産地ならではの流れ——収穫したぶどうを無駄なく生かす取り組み——から本格化したと伝えられます。現在は、観光と結びついた大型ワイナリーと、山あいで土地に合う品種を吟味する本格派という二つの柱が共存し、互いに島根ワインの裾野を広げています。縁結びの聖地を訪れる人々にワインとの「ご縁」を結ぶ観光型と、品種と土地の相性を突き詰める職人型。その両輪が回り続けることが、この産地のこれからを支えていきます。生食用ぶどうの産地としての百年を土台に、ワイン産地としての次の章をどう描くか。出雲の神話の土地で、その物語は静かに続いています。

