本文へ移動
ワインガイド Vinotier マイリスト
銘醸ワイン図鑑

バンドール(プロヴァンス)

Bandol(Provence) / フランス・プロヴァンス(ヴァール県)

PRこのページは広告を含みます(方針)

産地
フランス・プロヴァンス(ヴァール県)
スタイル
ムールヴェードル主体の長命な赤、骨格のあるロゼ、クレレット主体の白
主な品種
ムールヴェードル・グルナッシュ
手前に黄色や赤に色づいた葉のぶどう畑が一面に広がり、その奥に松林に囲まれた丘の家並みと、遠くの山並み、淡い青空が見える
手前に黄色や赤に色づいた葉のぶどう畑が一面に広がり、その奥に松林に囲まれた丘の家並みと、遠くの山並み、淡い青空が見える / Photo: “L'automne à La Cadière - 07” by Thérèse Gaigé, CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
このページの要点

バンドール(Bandol)は、フランス南東部プロヴァンス地方、マルセイユとトゥーロンのあいだで地中海のバンドール湾に向かって開いた丘で造られるワインのAOCです。1941年11月11日の政令で認められ、区域はヴァール県の8つの村にまたがります。北を山に囲まれた円形劇場のような地形に、「レスタンク(restanques)」と呼ばれる石垣の段々畑が重なります。主役は晩熟の黒ぶどうムールヴェードル。赤はこの品種を50%以上使い、樽で18か月以上寝かせる長命なワインです。ただし量ではロゼが7割を超え、少量ながら白も造られます。

この記事の目次

第85講「フランス料理とワイン完全編」では、マルセイユのブイヤベースにプロヴァンスの白を合わせる考え方を紹介しました。マルセイユ観光局がブイヤベースに合うワインとして挙げるのは、カシス、ベレ、コトー・デクス・アン・プロヴァンスなどの白で、その最初に名前があるのがバンドールの白です。ところが当のバンドールは、白よりも、ムールヴェードルから造る長命な赤と、南仏の食卓に欠かせないロゼでこそ知られる産地です。今回の銘醸図鑑は、地中海を見下ろす段々畑の小さなAOCをたどります。

南フランス全体の地図は第42講「南フランス完全編」で描きました。ここでは、地形と規則、歴史、そして造り手に焦点を当てます。

地中海に開いた円形劇場と8つの村

バンドールは、マルセイユとトゥーロンのあいだ、ヴァール県の海辺の町です。AOCの区域はバンドール、ル・ボセ、ラ・カディエール・ダジュール、ル・カステレ、エヴノス、オリウル、サナリー・シュル・メール、サン・シール・シュル・メールの8つの村。ぶどうの収穫から醸造、熟成まで、すべてをこの区域で行うことが仕様書(INAOの規約)で求められています。

地形は、よく円形劇場にたとえられます。仕様書の説明では、浸食と地殻の動きで生まれた丘が北を閉じ、南だけがバンドール湾に向かって開いています。北の山並みは、生産者組合によればサント・ボーム山塊、東にモン・コーム、南にグロ・セルヴォー。この地形のおかげで、プロヴァンスを吹き抜ける冷たい北風ミストラルから守られ、日照は年平均約3,000時間、雨は年650mmほど。海が夏の暑さをやわらげ、夜にはわずかな湿り気を運びます。

AOCが認められたのは1941年11月11日の政令です。面積は、仕様書の2009年の記述で1,580ha・年平均約5万hl。生産者組合(Les Vins de Bandol)の2023年の資料では1,614ha・49,772hlで、69のドメーヌとシャトー、3つの協同組合(組合員約300)があります。組合のサイトの中でも「約1,500ha」「約1,600ha」と表記が揺れるので、「約1,600ha」と覚えておけば十分でしょう。

レスタンク──石垣が支える段々畑

黄色や赤に色づいた葉をまとった、太くねじれた幹の背の低いぶどうの木が、草の生えた地面に数本並んでいる
ラ・カディエール・ダジュールの畑。低く短く仕立てた株が、晩秋に色づく / Photo: “L'automne à La Cadière - 06” by Thérèse Gaigé, CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

バンドールの景色を決めるのは、斜面に何段も積まれた石垣です。仕様書によれば、何世代もの農民が土を留め、畑から石を取り除くために空積みの石垣を無数に築き、それが「レスタンク」と呼ばれる段々畑の風景をつくりました。斜面にはぶどうとオリーブが並び、尾根には松や樫の林が残ります。

土は、薄く白っぽく、有機物が少なく、石が多く水はけのよいものが典型とされます。仕様書は区域を定めるとき、「谷の肥えた沖積土」や松林を除き、昔からバンドールの名声を築いてきた「やせた土地」を選んだと説明しています。造り手によって土台の地質は異なり、たとえばテールブリュンヌは三畳紀の岩塊、ピバルノンは白亜紀の青い泥灰土に触れています。土と味わいの関係の考え方は第67講「土壌とテロワール完全編」へ。

段々畑の規則も細かく定められています。株はゴブレ(株仕立て)かコルドン・ド・ロワイヤの短い剪定で、1株あたりの芽は8つまで。収穫は手摘みに限られ、房はつぶさずに醸造所まで運びます。収量の上限は1haあたり40hlで、2023年の実際の収量は組合の資料で31hl/haでした。段々畑では機械が入りにくく、手間のかかる畑であることが数字からも見えてきます。

ムールヴェードル──晩熟の主役と赤の規則

バンドールの赤を特徴づけるのは、ムールヴェードルです。スペインでは「モナストレル」、オーストラリアなどでは「マタロ」とも呼ばれる黒ぶどうで、熟すのがとても遅い品種です。仕様書は、北風から守られ、日差しと海の湿り気に恵まれたこの円形劇場を、晩熟のムールヴェードルが十分に熟せる「好みの居場所」だと書いています。

赤の主な規則は次のとおりです。

  • 品種──主要品種はムールヴェードル、グルナッシュ、サンソー。補助品種のカリニャンとシラーは、それぞれ畑の10%まで
  • ムールヴェードルの比率──畑の50%以上95%以下
  • 樽熟成──小樽(フュ)か大樽(フードル)で18か月以上。仕様書は「多くはフードル」と説明しています
  • 若い樹──赤に使えるのは、植えてから7年目以降の樹のぶどう
  • 出荷──収穫の翌々年の5月1日から

仕様書はこうして生まれる赤を「力強く、骨格があり、タンニンに富み、長く保つ」と説明しています。若いうちは渋みが硬く、黒い果実やハーブの香りが、熟成とともになめし革やスパイス、土の香りへ移っていくと評されます。大樽での熟成については第63講「オーク樽完全編」で解説しています。グルナッシュ主体の南ローヌとの違いは、銘醸図鑑「シャトーヌフ・デュ・パプ」や品種「グルナッシュ」と読み比べると見えてきます。

この主役は、ずっと安泰だったわけではありません。プラドーの公式サイトによれば、19世紀末のフィロキセラのあと、地所ではカリニャンやアリカンテなど収量の多い品種が植えられました。そこへムールヴェードルを呼び戻したのが、タンピエのリュシアン・ペイローやプラドーのアルレット・ポルタリスら、AOC創設期の生産者たちです。生産者組合のサイトも、フィロキセラ後の復興を引っ張ったのはムールヴェードルだったと紹介しています。

ロゼが7割、白は1割に満たない

量で見ると、バンドールはロゼの産地です。生産者組合の2023年の資料では、生産量49,772hlのうちロゼが74.3%、赤が19.4%、白が6.3%でした。仕様書の2009年時点の記述にも、ロゼは「ますます大きな位置を占めている」とあります。

ロゼにもムールヴェードルを20%以上使うことが求められ、仕様書によれば実際には30〜40%のことが多いといいます。造り方は、黒ぶどうをそのまま搾る直接圧搾、短いかもし、セニエ(果汁の抜き取り)のいずれか。色は淡い野バラのような色でも、ムールヴェードルのおかげでほかのプロヴァンスのロゼよりタンニンがあり、開くまで少し時間がかかるかわりに長く保つ、と仕様書は説明しています。少なくとも収穫の翌年3月1日まで熟成させ、その日から出荷できます。ロゼの造り方の全体像は第53講「ロゼワイン完全編」や用語「ロゼワイン」へ。

白は、クレレット、ユニ・ブラン、ブールブーランが主要品種です。仕様書ではクレレットを30%以上使い、補助品種としてヴェルメンティーノ(20%まで)、マルサンヌ、ソーヴィニヨン、セミヨン(各10%まで)が認められています。生産者組合の資料ではクレレットの最低比率を50%としており、資料によって数字が異なります。仕様書は、淡い麦わら色で花の香りをもつ、繊細で骨格のある白と説明しています。ロゼと同じく、出荷は収穫の翌年3月1日からです。

なお、仕様書は気候の変化に備える「適応のための品種」として、ギリシャのクシノマヴロやアシルティコなどを、畑の5%までという条件つきで試すことも認めています。2026年に示された改正案には、色の薄いムールヴェードル・グリやムールヴェードル・ブランを加える内容も含まれています。

港から船で運ばれた「B」の樽

バンドールのぶどう栽培の起源は、古代ギリシャの植民者フォカイア人にさかのぼるとされます。仕様書は紀元前4世紀、生産者組合は紀元前6世紀として、この海岸に植民地を築き、ぶどうとワインの文化をもたらしたと紹介しています。ローマ時代の別荘(ヴィラ)の跡からは、アンフォラを焼いた窯や圧搾機も見つかっています。

「バンドール」という名前は、もともとは産地ではなく積み出し港の名前でした。仕様書が引く1866年の資料は、ラ・カディエール、ル・カステレ、サン・シールなどで造られたワインが、積み出す港の名で「バンドールのワイン」と呼ばれたと記しています。沖に停泊した船が、焼き印で「B」の文字を押した樽を積み込んでいったといいます。長い船旅でかえって質を上げる、日持ちのよいワインとして知られ、1818年の町議会の記録には6,000hl以上が港からイタリアや北ヨーロッパ、アメリカへ送られたとあります。

選び方と楽しみ方

最初の一本なら、ロゼから入るのが手軽です。国内では、ラフラン・ヴェロルやシャトー・カナデルのロゼが4,000〜5,500円前後、タンピエやピバルノン、テールブリュンヌのロゼが5,500〜7,500円前後。赤は、ラフラン・ヴェロルやカナデルが5,500〜7,000円前後、ピバルノンやタンピエが7,500〜10,000円前後です。白は流通が少なく、タンピエなどで7,000〜9,000円前後でした(2026年10月の楽天市場の検索による目安。価格はヴィンテージや為替で大きく変わります)。

赤は、若い年を開けるならデキャンタで空気に触れさせると、硬さがほどけやすくなります。数年以上寝かせた年を探すのも手です。合わせる料理は、ラム肉や牛の煮込み、ジビエ、ハーブを効かせた肉のグリルといった、香りの強い肉料理が定番として挙がります。

ロゼは、プロヴァンスの家庭料理の万能選手です。トマトとオリーブ油の料理、ラタトゥイユ、魚介と米を使ったパエリアのような料理に向きます。ほかのプロヴァンスのロゼより骨格があるので、焼いた魚や鶏にも負けません。白は、冒頭のブイヤベースのほか、魚介のスープやグリルに。魚介との合わせ方は第77講「魚介とワイン完全編」で詳しく扱っています。

※面積・生産量は資料や年によって異なります。規約は2025年4月に改正され、2026年にも改正案が示されています。最新の情報はINAOや生産者組合(Les Vins de Bandol)の資料でご確認ください。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

主要生産者と作風

※各ドメーヌの作風は一般的な評価に基づく傾向です。キュヴェやヴィンテージにより表情は変わります。

「ムールヴェードルを植えよう」の家

ドメーヌ・タンピエ

Domaine Tempier

ル・プラン・デュ・カステレのドメーヌ。公式サイトによれば、館(バスティード)は1834年に建てられ、1940年にリュシー(愛称ルル)・タンピエと夫のリュシアン・ペイローが移り住みました。1943年に初めてロゼを瓶詰めし、ムールヴェードル・サンソー・グルナッシュへの植え替えを始め、1951年に最初の赤のバンドールを造っています。リュシアンは1945年から生産者組合の会長を務め、生産者に「ムールヴェードルを植えよう」と呼びかけました。1960年代からは息子たちがラ・トゥルティーヌ、ラ・ミグア、カバッソウの区画を別々に仕込むようになります。いまは醸造家ダニエル・ラヴィエが日々の運営を担い、一族が方針を決めています。バンドールの長命な赤を世に知らしめた造り手と評されます。

標高300mの円形劇場

シャトー・ド・ピバルノン

Château de Pibarnon

ラ・カディエール・ダジュールのシャトー。公式サイトによれば、アンリとカトリーヌのド・サン・ヴィクトール夫妻が1977年12月に手に入れたとき、地所は16haで、ぶどうが植わっていたのは3.5haだけでした。いまの畑は50ha超。標高約300mまで段々畑がせり上がり、公式はその半円形の畑を古代ギリシャの劇場エピダウロスにたとえています。息子のエリックが1989年に加わり、2000年に父から引き継ぎました。2004年に有機栽培への転換を始め、認証は2019年。力強さの中に引き締まった印象をもつ赤と評されます。

ポルタリス家と「ムールヴェードルの婚約者」

シャトー・プラドー

Château Pradeaux

サン・シール・シュル・メールの高台にあるシャトー。公式サイトによれば、1752年にナポレオン民法典の起草者の一人として知られるジャン=エティエンヌ=マリー・ポルタリスがこの地所を相続しました。1939年にシュザンヌと娘アルレットが荒れた地所を立て直し、アルレットは1941年のAOC創設に関わって「ムールヴェードルの婚約者」と呼ばれたといいます。1985年に甥で養子のシリルが全面的に引き継ぎ、いまはその息子エティエンヌとエドゥアールが受け継いでいます。輸入元の資料などでは、若いうちは硬く、長い熟成を待つ伝統的な赤と紹介されます。

オリウル、三畳紀の「茶色い土」

ドメーヌ・ド・テールブリュンヌ

Domaine de Terrebrune

オリウル村のドメーヌ。公式サイトによれば1960年代に始まり、創業者の息子レイナルド・ドリルが共同所有者として率いています。畑は地中海に面した段々畑で35ha。土台は約2億2,000万年前の海底が地表に出た三畳紀(トリアス)の岩塊で、表土は褐色の粘土に石灰質の礫がまじります。ドメーヌの名「テールブリュンヌ(茶色い土)」はここからきています。創業時から有機の考え方を貫いてきたと公式は書いています。

アペラシオンの最も高い地所

ドメーヌ・ド・ラ・ベギュード

Domaine de la Bégude

AOCの北の高地にある地所で、住所はル・カン・デュ・カステレ。公式サイトによれば標高は400m台(ページ内で410mと427mの二通りの記載があります)。ワインは、サン・ヴィクトール修道院がこの地にあった名残の7世紀の礼拝堂で熟成させ、1996年から除草剤・農薬・化学肥料を使っていません。長くタリ家が率いてきましたが、2022年9月にルロー家が取得し、中世から数えて5番目の所有家族になったと公式は紹介しています。

父の愛称を名に

ドメーヌ・デュ・グロ・ノレ

Domaine du Gros'Noré

ラ・カディエール・ダジュールのドメーヌ。公式サイトによれば、1997年にアラン・パスカルが始めました。村に3人いた「オノレ」のうち、体格のよかった父が「グロ・ノレ」と呼ばれ、それがドメーヌの名になっています。畑は村の斜面に17ha。力強く、骨太な赤の造り手として名前が挙がることの多いドメーヌです。

ブロンゾ家、ビオディナミの三代

ラ・バスティード・ブランシュ

La Bastide Blanche

公式サイトによれば1972年創業、ブロンゾ家が三代にわたって営むドメーヌです。AOCの北部、サント・ボーム山塊を背にした内陸側に28haの畑を持ちます。1997年から有機栽培、2003年からビオディナミを取り入れ、エコセールの認証は2011年、ビオディヴァンは2021年。区画ごとの赤(エスタニョル、フォンタネウなど)を造り分けています。

エヴノスの古い家

シャトー・サンタンヌ

Château Sainte-Anne

エヴノス村サンタンヌの家族経営のシャトー。フランスのワインガイド『ギド・アシェット』などによれば、デュテイユ・ド・ラ・ロシェール家が長く営み、畑は15ha前後とされます。ムールヴェードル主体の赤を中心に、ロゼと白も造ります。輸入元・販売店の資料では、有機の考え方に早くから取り組み、自然な造りを重んじる造り手として紹介されています。創業年などは資料によって記述が異なります。

よくある質問

バンドールは赤とロゼ、どちらが有名ですか?
評価を築いてきたのは、ムールヴェードルを50%以上使い、樽で18か月以上寝かせる長命な赤です。一方、量ではロゼが圧倒的で、生産者組合の2023年の数字では生産の74.3%がロゼ、赤は19.4%、白は6.3%でした。名声は赤、日々の食卓ではロゼ、というのがバンドールの姿です。
バンドールのロゼは、ほかのプロヴァンスのロゼと何が違いますか?
AOCの仕様書は、バンドールのロゼにもムールヴェードルを20%以上(多くは30〜40%)使うと定め、そのぶんほかのプロヴァンスのロゼよりタンニンがあり、開くまでに少し時間がかかるが、長く保つと説明しています。色は淡いバラ色でも、骨格のあるロゼです。出荷は収穫の翌年3月1日からです。
赤はいつごろ飲めばいいですか?
赤は収穫の翌々年の5月1日まで出荷できず、仕様書も「力強く、骨格があり、タンニンに富み、長く保つ」ワインと説明しています。若いうちは硬いと感じることが多く、デキャンタで空気に触れさせるか、何年か寝かせてから開けると本来の姿が見えやすいとされます。ただし造り手や年によって飲み頃は大きく変わります。
バンドールの白はどんなワインですか?
仕様書では、クレレット・ユニ・ブラン・ブールブーランを主な品種とし、クレレットを30%以上使います(生産者組合の資料には50%以上とあり、資料によって数字が異なります)。生産は全体の1割に満たない少量で、淡い麦わら色と花の香りをもつ白と説明されています。マルセイユ観光局がブイヤベースに勧める白のひとつでもあります。

最終更新: 2026-10-20 / 編集: Vinotier編集部