
ソースで選ぶChoose by the Sauce
第83講「エスニック料理とワイン」に続くペアリングの実践編。今回は、ワインと料理を合わせる考え方が生まれた本場、フランスの食卓です。最初の手がかりは、肉や魚の種類よりもソースにあります。
主役は、皿の上の「いちばん強い味」
同じ鶏肉でも、クリームで煮れば白が、赤ワインで煮れば赤が合いやすくなります。料理とワインの原則は第27講料理ペアリング完全編にまとめましたが、ここでは「ソースの重さとワインの重さをそろえる」「ソースに使ったワインと同じ系統を合わせる」の二つを軸にします。
英国のワイン教育機関WSETの説明では、料理の塩気はワインの酸味や苦みを和らげ、酸っぱい料理はワインの酸味を穏やかに感じさせます。レモンを搾った魚料理に酸のはっきりした白が心地よいのは、このためです。
| ソースの系統 | 代表的な料理 | 合わせ方の目安(編集部の提案) |
|---|---|---|
| バター | 舌平目のムニエル、ブール・ブラン(白いバターソース) | 酸のある辛口の白。樽の香りは控えめなものを |
| クリーム | 鶏のクリーム煮、きのこのクリームソース | コクのある白(シャルドネなど)。ジュラでは黄ワインの出番も |
| 赤ワイン | ブフ・ブルギニョン、コック・オ・ヴァン、ウフ・アン・ムーレット | 煮込みに使ったのと同じ地方の赤。ブルゴーニュならピノ・ノワール |
| トマト・オリーブ油 | ラタトゥイユ、魚介のトマト煮 | 南仏のロゼや、酸のある軽い赤 |
バターとクリームは、酸で受け止める
バターやクリームのソースは、脂のこくが舌に残ります。そこで頼りになるのが酸です。ロワール河口のナント周辺の名物として知られるブール・ブランは、エシャロットを酢と白ワインで煮詰め、バターを加えて仕上げる白いソース。その生まれについてはいくつかの逸話が伝わりますが、確かな記録は乏しいようです。こうした魚料理には、同じロワールのミュスカデや、ソーヴィニヨン・ブランの白が自然に寄り添います。
より重いクリームのソースには、ブルゴーニュのシャルドネのように酸とコクの両方をもつ白を。
赤ワインのソース
赤ワインで煮込んだ料理には、渋みのある赤も合わせやすい。煮込みで肉の繊維がほどけ、ソースの酸とうま味が赤ワインの果実味と重なるからです。迷ったら、料理に使った赤と同じ産地のワインを。
トマトとオリーブ油
トマトの酸は、酸の弱いワインをぼやけさせがちです。南仏の野菜料理には、酸がほどよくあるロゼや軽めの赤を。
出典:WSET公式ブログ(料理とワインの相互作用の解説)。表は第27講の原則にもとづく編集部の提案です。
地方の郷土料理と、土地のワインRegional Dishes, Local Wines
「その土地の料理には、その土地のワインを」。フランスの地方を旅すると、この言葉の意味がよくわかります。郷土料理の多くは、その地方のワインを鍋に入れ、食卓でも同じワインを飲む前提で育ってきました。

ブルゴーニュ——赤ワインで煮る
フランス観光開発機構の紹介によると、ブフ・ブルギニョンは牛肉の塊を赤ワインで3〜4時間煮込んだ家庭的な一品、コック・オ・ヴァンは鶏肉をたっぷりの赤ワインで煮たブルゴーニュを代表する料理です。ウフ・アン・ムーレットは赤ワインのソースで煮るポーチドエッグ、ジャンボン・ペルシエはパセリ入りのハム。エスカルゴは、にんにく・パセリ・バターのペーストとともに殻に詰めてオーブンで焼きます。ブルゴーニュ産のカタツムリなら「ド・ブルゴーニュ」、他の土地のものなら「ア・ラ・ブルギニョンヌ(ブルゴーニュ風)」と呼び分けるそうです。
赤の煮込みには、ブルゴーニュのピノ・ノワールを。エスカルゴやジャンボン・ペルシエには、シャブリやブルゴーニュ・アリゴテのような酸のある白が定番とされます。産地の全体像は第4講ブルゴーニュ完全編で。
アルザス、プロヴァンス、南西部、ロワール、ジュラ
シュークルート(発酵キャベツと豚肉)、タルト・フランベ(薄い生地にクリームと玉ねぎ、ベーコン)。アルザスワイン委員会は、シルヴァネールを酢の効いた味・磯の香り・こくや脂のある料理に、リースリングを繊細な料理やクリーム・燻製の風味に向くとしている。シュークルートにはリースリングかシルヴァネールを(第20講 アルザス)。
ブイヤベースは、売り物を選り分けた漁師が家族のために残した魚で作った料理とされる。マルセイユ観光局によると、1980年に一部のレストランが「ブイヤベース憲章」を作り、材料と出し方を定めた。同局が挙げるのはカシスやバンドールなどの白。ラタトゥイユのような野菜料理にはロゼを。
カスレは、白いんげん豆に鴨やガチョウのコンフィ、ソーセージ、豚肉を合わせて土鍋で焼く煮込み。カステルノーダリの団体は地元ロラゲ地方の産物と土鍋「カソール」を重んじる。重い煮込みには、南西部やラングドックのしっかりした赤を(第42講 南フランス)。
AOPのシェーヴル「クロタン・ド・シャヴィニョル」は、全乳の生の山羊乳から造られ、生産者組合はサンセールの町にある。同じ土地のサンセールの白(ソーヴィニヨン・ブラン)との組み合わせは、定番として知られる。
ジュラワイン委員会のレシピ集は、黄ワインのシャトー・シャロンに、農家の鶏のクリーム煮や黄ワイン煮、そしてコンテ、モン・ドール、モルビエといった土地のチーズを合わせる楽しみを紹介している。
フランスの農事法典は2006年の法改正で、フォワグラを「保護されたフランスの文化・食の遺産」と定めた。南西部の名産として知られ、ソーテルヌなどの甘口の白を合わせるのが古典的な組み合わせとされる。
出典:フランス観光開発機構(France.fr)ブルゴーニュの料理紹介/Vins d’Alsace「ABC des accords mets-vins」/マルセイユ観光局「La bouillabaisse」/Grande Confrérie du Cassoulet de Castelnaudary/オクシタニー地方観光局のカスレのレシピ/INAO「Crottin de Chavignol」AOP仕様書(2021年改正)/ジュラワイン委員会(CIVJ)レシピシート/フランス農事法典 L.654-27-1条。
ビストロの定番Bistro Classics
街角のビストロの黒板に並ぶ料理は、日本でもおなじみのものばかり。ここからは編集部の提案です。皿ごとに、まず脂・ソース・焼き目のどれが強いかを見ましょう。
焼いた牛肉にフライドポテト。焼き目の香ばしさと肉の脂には、渋みのしっかりした赤。ボルドーやローヌの赤が合わせやすい。ソースがバターとハーブのベアルネーズなら、少し軽めの赤でも(ペアリング:ステーキ)。
鴨のもも肉を脂で煮て保存した料理。皮はぱりっと、身はほろりと。脂の多さを、酸と渋みのある赤で切る。南西部の赤や、果実味のある南仏の赤を。
白ワインとエシャロットで蒸したムール貝。鍋に使ったのと同じ辛口の白を。INAOの資料も、ミュスカデを海の幸や魚と結びつきの深いワインとして紹介している。
卵とクリームの生地にベーコンやチーズ。ロレーヌの名を冠したものが有名。クリームのこくに、アルザスのピノ・ブランやリースリング、軽めのシャルドネ。
豚肉やレバーを練って焼いたシャルキュトリー。脂と塩気には、軽くて果実味のある赤。ボージョレのガメイを少し冷やして。
小麦粉をはたいてバターで焼き、レモンとパセリで仕上げる。焦がしバターの香りには、酸のある辛口の白。シャブリやムルソーなど、ブルゴーニュの白が古典的。
コースの流れとワインの順番The Order of the Meal
2010年、「フランスの美食術(フランス人の美食的な食事)」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。登録の説明は、この食事の大切な要素として料理とワインの組み合わせを挙げています。
アペリティフに始まり、ディジェスティフで終わる
ユネスコの説明によると、この食事には決まった流れがあります。アペリティフに始まり、少なくとも4つの皿——前菜、野菜を添えた魚または肉、チーズ、デザート——が続き、最後はリキュール(ディジェスティフ)で締めくくります。
キールは、ブルゴーニュの白ワインにカシスのリキュールを加えたアペリティフです。第二次大戦後にディジョン市長を務めたキール司教(フェリックス・キール)が公式の席でふるまい、その名で呼ばれるようになったと伝えられます。白ワインとカシスを合わせる飲み方自体は、それ以前からあったともいわれます。

ワインの順番の原則
一度の食事で何本も開けるとき、フランスで昔から語られてきた目安があります。ただし、これは決まりではなく、料理の流れから考える目安です。献立しだいで入れ替わることは、専門誌でもよく指摘されています。
先に
泡 → 辛口の白 → こくのある白。白は赤より先、軽いものは重いものより先、若いものは熟成したものより先、辛口は甘口より先。
あとに
軽い赤 → しっかりした赤 → 甘口。甘口のワインは、ふつう食事の最後のデザートまでとっておく(フォワグラを前菜で出す場合などは例外)。
出典:UNESCO無形文化遺産「Gastronomic meal of the French」(2010年、第5回政府間委員会)/France.fr(キールの解説)/Gault&Millau「L’ordre de dégustation des vins importe-t-il ?」/SAQ(ケベック州酒類公社)のワインとチーズの解説。
レストランで、家でAt the Table, Out and Home
最後に、フランス料理とワインを実際に楽しむためのコツです。レストランでも家でも、料理を先に決めてからワインを選ぶのが基本です。
コースでは、皿ごとにグラスで替えていくのがいちばん手軽。2人なら、前半を白のボトル、後半を赤のグラスにするなど、ボトルとグラスを組み合わせても。
伝えるのは、料理・好み・予算の三つ。「メインは鴨なので、渋みは穏やかな赤を、このくらいの価格で」と言えば十分(第35講 レストランでワインを)。
煮込みを作るなら、鍋に入れる赤と同じ系統の一本を食卓にも。ブフ・ブルギニョンにはブルゴーニュの赤を少し鍋に、残りをグラスに。
チーズの皿で迷ったら、同じ土地のワインを。山羊のチーズにサンセール、コンテにジュラの白、という合わせ方は覚えやすく、外れにくい組み合わせです。チーズとワインの詳しい話は第73講チーズとワインで。
ワインはお酒です。20歳未満の人は飲酒できません。妊娠中・授乳中の人は飲酒を控えてください。コースで何杯も飲むときは、グラスの量を少なめにして水も一緒に。車を運転する予定がある日は飲まないでください。
よくある質問Frequently asked
大まかな目安としては役に立ちますが、フランス料理ではソースのほうが大事なことが多いです。鶏のクリーム煮には白、赤ワインで煮た魚料理には軽い赤、というように、ソースの色と重さで考えると外れにくくなります。
魚と肉の両方がある場合は、軽めの赤かこくのある白が橋渡し役になります。ブルゴーニュのピノ・ノワールや、少し冷やしたボージョレの赤は、魚にも肉にも合わせやすい一本です。
伝統的にはブルゴーニュの白、とくにアリゴテが使われます。家で作るなら、樽の香りが強くない、酸のある辛口の白を選ぶとカシスの甘さとよく釣り合います。泡に替えればキール・ロワイヤルです。
ソースを見て、土地を思い、流れで選ぶSauce, Soil & Sequence
フランス料理とワインの合わせ方は、三つの手がかりで見えてきます。一つ目はソース。バターとクリームには酸のある白、赤ワインの煮込みには同じ地方の赤、トマトとオリーブ油には南仏のロゼ。二つ目は土地。ブルゴーニュの煮込みにピノ・ノワール、アルザスのシュークルートにリースリング、マルセイユのブイヤベースにプロヴァンスの白、ロワールの山羊のチーズにサンセール、ジュラのコンテに黄ワイン。三つ目は流れ。アペリティフから前菜、魚、肉、チーズ、デザート、ディジェスティフへ、軽いものから重いものへ。
次の一本。 今回はブルゴーニュの赤(ピノ・ノワール)と、ブルゴーニュ・アリゴテの白を一本ずつ。アリゴテの一部でキールを作ってアペリティフに、残りをエスカルゴかパテと。赤は鶏や牛の赤ワイン煮と合わせてください。同じ地方の白と赤で、コースの流れを家で一通り試せます。
次回は銘醸図鑑 第31弾へ。「バンドール(プロヴァンス)」。今回、マルセイユ観光局がブイヤベースに合う白として名前を挙げた産地の一つです。地中海を見下ろす段々畑、ムールヴェードルを主役にした長命な赤、そして南仏の食卓に欠かせないロゼと白を歩きます(先に第42講南フランスをどうぞ)。
