島から生まれるワイン
愛媛のワイン造りは、まだ始まったばかり。その象徴が、しまなみ海道に浮かぶ島・大三島(おおみしま)での取り組みです。建築家・伊東豊雄が代表を務める島づくりのプロジェクトから生まれ、島に人を呼び戻す試みのひとつとしてワインが選ばれました。瀬戸内海の温暖で日照に恵まれた気候のもと、濃さを競うのではなく、島の風土をやさしく映すワインが志向されています。
みかん畑の再生
柑橘の島として知られる大三島。そこで担い手を失ったみかん畑の耕作放棄地を借り受け、開墾してぶどう畑へと生まれ変わらせる——これが愛媛のワイン造りを語るうえで欠かせない切り口です。植えられているのはシャルドネやヴィオニエ、マスカット・ベーリーAなど。畑を耕し、木を植え、島の景色を取り戻していく歩みそのものが、この産地の物語になっています。柑橘の産地らしく、果実を生かしたワインの造り手が点在するのも愛媛らしさです。
気候と土地の個性
愛媛の海側は、典型的な瀬戸内式気候です。中国山地と四国山地に挟まれた瀬戸内海沿岸は、雨雲が山にさえぎられるため雨が少なく、日照に恵まれる——雨の多い日本列島のなかでは、ぶどうにとって恵まれた条件を備えた地域といえます。大三島をはじめとする島々では、海に向かう斜面が古くから段々畑として拓かれ、水はけがよく日当たりのよい農地が受け継がれてきました。みかんがおいしく育つ条件は、実はぶどうにも通じるものが多いのです。潮風が吹き抜ける島の畑は湿気がこもりにくく、病気のリスクを抑える助けにもなります。柑橘の島の風土は、そのままワインの風土でもありました。
主な品種と味わいの傾向
愛媛で植えられているのは、シャルドネやヴィオニエといった欧州系の白、そして日本生まれのマスカット・ベーリーAです。シャルドネは環境への適応力が高く、新しい産地が最初に手がける品種として理にかなった選択。温暖な瀬戸内では、果実味のまろやかな白になります。ヴィオニエはもともと日照を好む南仏系の品種で、あんずや白い花を思わせる華やかな香りが持ち味——陽光の島との相性を見込んだ選択といえるでしょう。マスカット・ベーリーAは雨や病気に強く、やわらかな赤に。さらに柑橘の島らしく、みかんなど果実のワインも造られ、ぶどうと果実が並び立つのが愛媛の個性です。いずれも「濃さ」より「風土の明るさ」を映した、よく冷やしておいしいタイプが中心です。
郷土の食との合わせ方
瀬戸内の食卓と愛媛のワインは、同じ海の風土でつながっています。鯛めしには、シャルドネのまろやかな白を。鯛の上品な脂と炊き込みごはんの旨味に、果実味のふくらみがぴたりと重なります。じゃこ天には、よく冷やした軽やかな白を。すり身の揚げものの香ばしさと塩気を、フレッシュな酸がすっきり流し、もう一枚に手が伸びる組み合わせです。そして柑橘を搾った料理——鯛の刺身にみかん果汁を合わせる南予の郷土食のように、柑橘の酸を効かせた皿には、ヴィオニエの華やかな香りがよく響きます。「島の柑橘と島のワイン」という同郷の組み合わせは、愛媛ならではの楽しみです。
ワイナリー巡りのコツ
愛媛のワイン産地を訪ねるなら、しまなみ海道の旅と組み合わせるのがおすすめです。大三島へは本州側からも四国側からも橋づたいに車で渡れるほか、サイクリングの聖地として知られるルートだけに、自転車で島を巡りながら畑の風景を眺める楽しみ方もあります。ただし小規模な造り手が中心のため、見学や試飲の受け入れは事前確認と予約が基本。畑仕事や仕込みの時期は対応が難しいこともあります。車はもちろん、自転車も飲酒運転は禁物ですから、試飲するなら宿泊や公共交通の計画を。大三島みんなのワイナリーを目当てに、島の神社や美術館とあわせて巡る一日は格別です。
産地の歩みとこれから
愛媛のワイン造りの物語は、耕作放棄地から始まりました。高齢化で担い手を失ったみかん畑が増えるなか、畑を再生し、島に人と仕事を呼び戻す手段としてぶどうとワインが選ばれた——生産量の拡大よりも、島の風景と暮らしを守ることが出発点にある産地です。この「地域づくりとしてのワイン」という姿勢は、これからの日本ワインのひとつのモデルともいわれます。瀬戸内海を挟んだ広島や香川でも個性的な造り手が育ちつつあり、「瀬戸内のワイン」という面としての広がりが見え始めています。柑橘とワインが同じ斜面に実る風景——それが愛媛の目指す未来図です。規模は小さくても、一本のワインが島を訪れる理由になる。そんな循環を育てている最中の産地です。
瀬戸内の味とともに
やわらかな果実味と心地よい酸は、鯛めしやじゃこ天など瀬戸内の海の幸の名脇役。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、第9講・日本ワイン産地巡りや隣県の香川・広島とあわせて、瀬戸内のワインの個性を味わってみてください。大三島の大三島みんなのワイナリーは、その入口にふさわしい一軒です。
