
四国のワインを、数字で見るShikoku in Numbers
第84講中国地方で瀬戸内の晴れた空を見た日本の産地編は、瀬戸内海を渡って対岸の四国へ。瀬戸内側の香川・愛媛と、太平洋に開けた高知・徳島。四つの県はどれも、ワイナリーの数では小さな産地です。
| 県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|---|
| 高知 | 4場 | 5場(うち試験免許1) | 29kl(17kl) |
| 香川 | 3場 | 4場(うち試験免許1) | 28kl(27kl) |
| 愛媛 | 2場 | 4場(うち試験免許2) | 11kl(9kl) |
| 徳島 | 2場 | 3場(うち試験免許1) | 0kl(0kl) |
| 四国4県 | 11場 | 16場 | 68kl(53kl) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は回答した製造場の合計で、徳島は回答した1場の数字です。4県の合計は編集部が表の数字を足したものです。
4県のワイナリーは合わせて11場。第84講の中国地方(27場)の半分以下で、いちばん多い高知でも4場です。2024年に造られたワインは4県で約68kl。750mlの瓶に換算すると9万本ほどで、そのうち8割近くが国産ぶどうだけで造る日本ワインです。香川は28klのうち27klが日本ワインで、ほぼすべてを県内外の国産ぶどうでまかなっています。
回答したワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)。回答したワイナリーの合計です。
中身を見ると、どの県も「その他」がいちばん多いのが目を引きます。香川は42tのうち34tが「その他」。統計の表には主要な品種の列しかなく、後で見る香川の独自品種「香大農R-1」のようなぶどうは、ここにまとめられます。主要品種の列では、シャルドネが香川3t・愛媛4t・高知5tと、3県すべてに顔を出します。高知は甲州2t、マスカット・ベーリーA3tも受け入れており、同じ調査の白ワイン用品種の表では、中国原産とされる竜眼の受入量で高知(2t)が全国4位に入っています。
瀬戸内の少雨と、土佐の大雨Dry Setouchi, Rainy Tosa
四国山地を境に、北の瀬戸内側と南の太平洋側では、雨の量がまるで違います。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 4〜10月の降水量 | 年間日照時間 |
|---|---|---|---|---|
| 高松(香川) | 16.7℃ | 1,150.1mm | 881.9mm | 2,046.5時間 |
| 松山(愛媛) | 16.8℃ | 1,404.6mm | 1,049.9mm | 2,014.5時間 |
| 徳島 | 16.8℃ | 1,619.9mm | 1,284.2mm | 2,106.8時間 |
| 宇和島(愛媛) | 17.0℃ | 1,727.5mm | 1,319.5mm | 1,933.4時間 |
| 高知 | 17.3℃ | 2,666.4mm | 2,112.2mm | 2,159.7時間 |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。4〜10月の降水量は、月ごとの平年値を編集部が足したものです。
高松の年降水量は1,150mm。第84講で見た岡山(1,143mm)や、第70講山梨の甲府(1,161mm)とほぼ同じ少なさです。北の中国山地と南の四国山地にはさまれた瀬戸内海の沿岸は、季節風が山でさえぎられ、雨が少ない土地として知られます。愛媛・大三島のワイナリーも、公式サイトで「夏雨が少ない瀬戸内気候」をこの島を選んだ理由に挙げています。
一方、太平洋に面した高知の年降水量は2,666mm。高松の約2.3倍で、ぶどうが育つ4〜10月だけでも2,100mmを超えます。6月の平年値は高知359.5mm、高松153.1mm。梅雨から台風の季節にかけての雨の多さは、第82講九州と同じく、ぶどうにとって手強い条件です。それでいて年間日照時間は5地点の中で高知がいちばん長いのも面白いところ。降るときは激しく降り、晴れれば強い日が照る——土佐の空はそんな性格です。雨の多い土地での垣根と棚、雨よけの工夫は第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。

四国のワインの歩みFrom Sanuki to Tosa
四国のワインの歴史は、まだ35年ほど。その多くはこの10年あまりで生まれた造り手です。各社の公式サイト、大学の資料、報道で確かめられた出来事を並べます。
- 1989年——香川に四国初のワイナリーさぬき市のさぬきワイナリーが、四国で最初のワイナリーとして完成しました(日本経済新聞、2023年)。瀬戸内海を見渡す丘の上にあり、いまも見学と試飲を受け付けています。
- 2006年——香川大学の「香大農R-1」香川大学農学部の望岡亮介教授が育成した赤ワイン用品種が、品種登録されました。親は沖縄地方に自生する野生ぶどうリュウキュウガネブとマスカット・オブ・アレキサンドリア。暑さに強く、瀬戸内の暑い夏でも色のもとになるアントシアニンが減りにくいとされます(香川大学)。
- 2012年——高知でワイン事業が始まる石灰の会社・井上石灰工業が、高知県産ぶどうでのワイン造りに乗り出しました。初めは山梨での委託醸造で、のちに井上ワイナリーとして香南市に醸造所を持ちます(高知県のアンテナショップの特集)。
- 2015年——大三島のみかん畑に苗木建築家の伊東豊雄さんが代表を務める大三島みんなのワイナリーが、栽培をやめたみかん畑を借りてシャルドネとヴィオニエの苗木を植えました。2018年に最初の赤「島紅(しまんか)」、2019年には島の中に醸造所が完成しています(公式)。
- 2017年〜2021年——土佐の山と町に醸造所高知県土佐町のミシマファームワイナリーが2017年に果実酒の製造免許を取り、2018年秋に醸造を始めました(colocal、2018年)。井上ワイナリーは2021年、香南市野市町にのいち醸造所を完成させます。
- 2022年〜2024年——島と街の新しい蔵小豆島の土庄町に224ワイナリーが2022年に開業し、瓶内二次発酵のスパークリング「島シャン」を看板にしています(KSB瀬戸内海放送)。2024年3月には、高知市の中心部に「四国初の都市型ワイナリー」をうたうよさ来いワイナリーが開業しました(高知新聞)。
県ごとの造り手Wineries of Four Prefectures
小さな産地だからこそ、一軒一軒の顔がはっきり見えます。公式サイト、自治体・観光協会の案内、報道で確かめた範囲で紹介します。
四国で最初のワイナリー。香川県観光協会の案内では、工場見学(約30分)と試飲は無料で、営業は9〜17時、火曜定休(祝日は営業)。香大農R-1の赤が看板。くわしく
栽培をやめたみかん畑を再生し、真砂土の畑でぶどうを育てる。販売所は宮浦の「大三島みんなの家」、醸造所の見学は問い合わせ制(公式)。くわしく
香南・香美・南国・梼原・佐川の県内5市町のぶどうを使う。標高の高い梼原町の山北の畑では、シャルドネやアルバリーニョを育てている。
高知市の中心部、廿代町に開業した都市型の醸造所。県産のぶどうを使い、試飲もできる(高知新聞)。
四国山地の山あいの町で、化学合成農薬を使わずにぶどうを育てる小さな造り手として報じられた(colocal、2018年)。
オリーブの島・小豆島で、約1haにワイン用ぶどう7種類を育てる(KSB瀬戸内海放送、2024年)。瓶内二次発酵の泡「島シャン」が看板。
このほか、高松国税局の酒蔵マップ(2021年8月現在)には、愛媛の内子町と、徳島の三好地域の果実酒の製造場も載っています。ただし、いまの営業の様子を公式の情報で確かめられなかったため、ここでは名前を挙げるのにとどめます。徳島は2024年の製成数量が0klで、ワイナリーの数え方の上では2場があるものの、ワインの産地としてはこれからの県です。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
コンクールでの評価
山梨県が公表する日本ワインコンクールの結果では、四国の受賞は2024年から広がりました。2024年はさぬきワイナリーの「ソヴァジョーヌ・サヴルーズ 2022」と大三島みんなのワイナリーの「島で醸す デラウェア オレンジ 2023」が銅賞、井上ワイナリーの「正光園シャルドネ 2023」が銀賞。2025年と2026年は井上ワイナリーが続けて銀賞・銅賞を受け、2026年は赤・白・アルバリーニョ・スパークリングの4本が銀賞でした。金賞はまだありませんが、高知のシャルドネとアルバリーニョが、四国の評価の先頭に立っているといえます。
ワインのGIは、まだない
国税庁の地理的表示の一覧によれば、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、四国4県には、ワインに限らずどのお酒のGIもありません。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Shikoku
最後に、四国のワインを手に取り、産地を訪ね、郷土の料理と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
瀬戸内側の個性
香川らしさを知るなら、香大農R-1の赤。野生ぶどうの血を引く、ここでしか生まれない品種です。愛媛の大三島では、シャルドネやヴィオニエ、デラウェアなど、島のみかん畑の跡で育つぶどうのワインを。小豆島の泡も、瀬戸内の新しい顔です。
土佐のシャルドネと泡
高知では、井上ワイナリーのシャルドネとアルバリーニョがコンクールで評価を重ねてきた。アルバリーニョはスペイン北西部の、雨の多い大西洋岸で知られる白ぶどう。産地の背景は第14講スペイン完全編へ。
味わいの表現は一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。生産量の少ないワインが多いので、蔵の直売や県内の酒販店で探すのが近道です。
訪ねる
さぬき市の丘のワイナリーから、フェリーで小豆島へ。愛媛側は、しまなみ海道の橋を渡って大三島へ。瀬戸内の島と海の景色と組み合わせやすい。
高知市中心部の都市型ワイナリーと、東の香南市の醸造所。山北や梼原など、ぶどう畑のある山あいの町は車で。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。しまなみ海道の自転車も、飲んだら乗れません。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県ごとの特徴は香川・愛媛の産地ページへ。

四国の食卓と
四国の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。料理の説明は農林水産省「うちの郷土料理」などによるもので、ここからの合わせ方は、第27講料理ペアリングと第77講魚介とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
表面を焼いた鰹に、にんにくや薬味をたっぷりのせる高知の郷土料理。鉄分を感じる赤身の魚には、渋みの穏やかな軽めの赤か、冷やしたロゼを。マスカット・ベーリーAのような果実味の赤が合わせやすい。
宇和海の小魚を骨ごとすり身にして揚げたじゃこ天には、すっきりした泡を(ペアリング:揚げ物)。宇和島の鯛めしのように刺身をたれに漬ける料理には、樽の効いていない辛口の白を。
にんにくとこしょうの効いた丸亀の骨付鳥は、一鶴の社史によれば1953年の発売。鶏の脂とスパイスには、果実味のある赤がよく合う(ペアリング:鶏肉)。香大農R-1の赤を試すならこの皿で。
すだちは徳島県が全国の生産のほとんどを担う香酸柑橘。焼き魚や刺身にすだちを搾ると、料理に酸が加わり、酸のある辛口の白と寄り添いやすくなる。
鰹、鯛、小魚、柑橘。瀬戸内と太平洋の魚と、柑橘の酸——四国の食卓には、渋みの少ない白・ロゼ・泡が素直に寄り添います。和食との合わせ方は第71講和食とワインもどうぞ。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、4県で合わせて11場です(2025年1月1日現在)。高知4、香川3、愛媛2、徳島2。果実酒の製造免許を持つ製造場は16場あります。
香川県さぬき市のさぬきワイナリーです。1989年に四国で最初のワイナリーとして完成しました。香川大学が育成した独自品種「香大農R-1」の赤ワインを造っています。
香川大学の資料では、親は沖縄地方に自生する野生ぶどうリュウキュウガネブとマスカット・オブ・アレキサンドリアです。野生ぶどうの血を引きますが、東北などのヤマブドウとは別の種類です。2006年に品種登録されました。
瀬戸内の島と、土佐の山Islands and Mountains
四国のワイナリーは4県で11場。中国地方の半分以下の、小さな産地です。瀬戸内側の高松は年降水量1,150mmと雨が少なく、太平洋側の高知はその2倍以上の雨が降ります。1989年のさぬきワイナリーから始まった四国のワインは、香川大学の独自品種、大三島のみかん畑の再生、高知の山あいの畑と、この10年あまりで一気に顔ぶれを増やしました。
コンクールでは高知のシャルドネとアルバリーニョが評価を重ね、香川と愛媛からも受賞が出ています。ワインのGIはまだなく、徳島はこれからの県。瀬戸内の島と、土佐の山——どちらも、これから育っていく産地です。
次の一本。 今回は四国の2本を並べてください。1本目は香川の香大農R-1の赤。2本目は高知か愛媛の、シャルドネかアルバリーニョの白。野生ぶどうの血を引く瀬戸内の赤と、雨の国の白で、四国の幅を比べてみてください。料理は、かつおのたたきか骨付鳥を、ひと皿。
次回はテーマ編へ。「イタリア料理とワイン完全編」。トマトとオリーブオイル、パスタのソース、北と南の郷土料理、アンティパストからドルチェまでの流れに沿った選び方——第85講のフランスに続いて、もう一つの本場の食卓をたどります(第7講イタリア完全編もあわせてどうぞ)。
