
中国地方のワインを、数字で見るChugoku in Numbers
第82講九州で雨の国を歩いた日本の産地編は、関門海峡を渡って中国地方へ。瀬戸内海に面した岡山・広島・山口と、日本海側の島根・鳥取。同じ地方でも、空の色がまるで違う5県です。
| 県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 |
|---|---|---|
| 岡山 | 10場 | 17場(うち試験免許5) |
| 広島 | 7場 | 17場(うち試験免許3) |
| 島根 | 4場 | 9場(うち試験免許2) |
| 鳥取 | 4場 | 9場(うち試験免許3) |
| 山口 | 2場 | 4場(うち試験免許1) |
| 中国5県 | 27場 | 56場 |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。島根は同じ資料の別の表で5場となっており、資料の中で数字が一致していません。5県の合計は編集部が表の数字を足したものです。
5県のワイナリーは合わせて27場。いちばん多いのは岡山の10場です。同じ調査の上位10都道府県の表では、岡山は日本ワインの製成数量で全国9位、出荷数量で7位に入り、島根も日本ワインの出荷数量で10位に名を連ねています。製造免許を持っていても、2024年に生産・出荷の実績がなかった製造場が少なくないのも特徴です。
回答したワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)。回答したワイナリーの合計です。
中身を見ると、県の個性が浮かびます。岡山は301tのうち286tが「その他」。統計の表には主要な品種の列しかなく、岡山の名産であるマスカット・オブ・アレキサンドリアやピオーネのような品種は、すべて「その他」にまとめられます。島根はデラウェア57t・甲州54tが柱で、棚で育てた甲州の受け入れ量は山梨に次ぐ全国2位。広島はシャルドネ33t・メルロー27tと欧州系が目立ち、棚で育てたメルローでは全国3位です。
晴れの国と、山陰の空Sunny Setouchi, Misty San’in
中国山地を境に、南の瀬戸内側(山陽)と北の日本海側(山陰)では気候がはっきり分かれます。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年間日照時間 |
|---|---|---|---|
| 岡山 | 15.8℃ | 1,143.1mm | 2,033.7時間 |
| 広島 | 16.5℃ | 1,572.2mm | 2,033.1時間 |
| 山口 | 15.6℃ | 1,927.7mm | 1,862.0時間 |
| 松江(島根) | 15.2℃ | 1,791.9mm | 1,705.2時間 |
| 鳥取 | 15.2℃ | 1,931.3mm | 1,669.9時間 |
| (参考)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm | — |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。いずれも気象台の観測値です。
岡山市の年降水量は1,143mm。第70講山梨の甲府とほぼ同じ少なさです。岡山県は「晴れの国」を名乗っており、その根拠として、降水量1mm未満の日の数が276.7日で全国1位(県庁所在地などで比べたもの)と説明しています。ただし2位の甲府は276.1日で、差はわずか0.6日。岡山と甲府は、雨の少なさで肩を並べる二つの盆地・平野だといえます。
一方、日本海側の松江と鳥取は年降水量が1,800〜1,900mm台、日照時間は1,700時間前後と、岡山・広島より300時間以上短くなります。日本海側は冬に曇りや雪の日が多くなる気候です。それでも島根は中国地方で2番目に多くの原料ぶどうを受け入れています。雨の多い土地でぶどうを育てる工夫は、九州とも通じるところがあります。棚と垣根の違いは第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。

果物王国のぶどうからFrom Glasshouse Muscat to Wine
中国地方、とくに岡山は、ワインより先に生で食べる高級ぶどうで名を知られてきました。県の資料と各社の公式サイトをもとに、ぶどうとワインの歩みをたどります。
- 1886年——岡山でガラス室のマスカット岡山県によれば、明治19年、御津郡野谷村(いまの岡山市北区栢谷)の山内善男がガラス室でマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培を始めました。岡山県のシェアは全国の9割以上とされ、主な産地は岡山市と倉敷市船穂町です。
- 1944年——鳥取に北条ワイン鳥取県の案内によれば、東伯郡北栄町の北条ワイン醸造所はこの年の創業です。中国地方のワイナリーの中でも、とくに古い歴史を持つ造り手のひとつです。
- 1959年——島根にワインの会社島根ワイナリーの公式サイトによれば、会社の設立は昭和34年。出雲大社に近い現在の場所に施設を開いたのは1986年です。
- 1970年代——ピオーネの種なし技術ピオーネは静岡県の育種家が1957年に巨峰とカノンホールマスカットを交配し、1973年に登録された品種です。岡山県は昭和53年ごろから、大粒で種なしのピオーネを安定して作る技術を全国に先駆けて開発し、昭和58年度から生産振興に本腰を入れました。栽培面積は全国1位です(令和2年産)。
- 1985年〜1994年——各県にワイナリー岡山・赤磐市の是里ワイン醸造場が1985年に創業。島根・雲南市では1990年、木次乳業の関連会社として奥出雲葡萄園が設立されました。広島では1991年に会社が設立された広島三次ワイナリーが、1994年に営業を始めます。
- 2016年以降——小さな造り手と新しい蔵岡山・新見市では、耕作放棄地を再生した畑からdomaine tettaが2016年に醸造所を開き、2018年には同じ哲多町に岡山ワインバレーが生まれました。鳥取・琴浦町には2026年8月、TOTTORI星乃丘ワイナリーがグランドオープンしています。

県ごとの造り手Wineries of Five Prefectures
5県それぞれに、土地の顔をはっきり持った造り手がいます。公式サイトと県の案内で確かめた範囲で紹介します。
建設業から就農した髙橋竜太さんが、耕作放棄地を約8ha再生した畑で。石灰岩質の土地の、岡山の新しい世代の造り手。くわしく
2007年から自社園・専用畑のぶどうで「TOMOÉ」シリーズを発売。日本ワインコンクールで金賞・部門最高賞を重ねている。くわしく
出雲大社から車で約5分。見学・試飲は無料(公式)。2008年に奥出雲町の標高430〜440mに自社畑「横田ヴィンヤード」を開いた。くわしく
木次乳業の関連会社として設立。小公子とシャルドネが看板で、庭のカフェやショップを併設する。くわしく
見学は受け付けていないが、直売所で購入でき、公式はほぼ全品を無料で試飲できると案内している。くわしく
酒蔵の永山酒造が営む。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネを雨よけを付けた垣根で育てる。見学は土日祝の予約制。くわしく
このほか岡山には、赤磐市の農業公園「ドイツの森」にある是里ワイン醸造場、倉敷市のふなおワイナリー、真庭市のひるぜんワイナリーがあり、鳥取には伯耆町の大山ワイナリー、鳥取市国府町の兎ッ兎ワイナリーがあります。なお、赤磐市のサッポロビール岡山ワイナリーは、工場見学とショップの営業を2024年3月15日で終えました。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
コンクールでの評価
山梨県が公表する日本ワインコンクールの結果では、2023年に広島三次ワイナリーの「TOMOÉ デラウェア 2022」が金賞・部門最高賞に。2024年には島根ワイナリーの「縁結甲州 2023」とスパークリングが金賞、2025年には奥出雲葡萄園の「シャルドネ 2023」が金賞を受けました。2026年は広島三次ワイナリーがスパークリングと甘口の2部門で金賞・部門最高賞を受けています。デラウェアや甲州の白と泡、シャルドネ——中国地方の評価は、白ワインと泡に集まっているといえます。
ワインのGIは、まだない
国税庁の地理的表示の一覧によれば、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、中国地方にワインのGIはありません。中国地方にあるのは清酒の「萩」(2021年)と「鳥取」(2025年10月)です。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Chugoku
最後に、中国地方のワインを手に取り、産地を訪ね、郷土の食材と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
山陽のぶどうらしさ
岡山らしさを知るなら、マスカット・オブ・アレキサンドリアのワイン。生食で知られる華やかな香りのぶどうから造られ、甘口に仕立てたものもある。ラベルで甘辛と造りを確かめたい。広島のシャルドネやメルローは、欧州系の品種で造る日本ワインの比較にも。
山陰の甲州・デラウェアと泡
島根は、甲州やデラウェアの白とスパークリングがコンクールで評価されてきた。軽やかな辛口の白は、魚介の多い山陰の食卓に合わせやすい。泡の基本は第13講スパークリング大全へ。
香りや甘さの表現は一般的な傾向で、銘柄によって異なります。
訪ねる
出雲大社の参拝と島根ワイナリー、宍道湖の夕景、雲南の奥出雲葡萄園は一日でつなぎやすい。鳥取の北条・大山まで足を延ばせば、山陰のワインを一通り見渡せる。
マスカットとピオーネの旬(夏〜秋)は果物の直売もにぎやか。倉敷の船穂、赤磐、県北の新見・蒜山、広島の三次と、県内でも行き先を絞るのがこつ。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、各県の特徴は岡山・広島・島根・鳥取・山口の産地ページへ。
中国地方の食卓と
中国地方の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからは、第27講料理ペアリングと第77講魚介とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
広島県は養殖かきの生産量が全国1位。島根の宍道湖はしじみ(ヤマトシジミ)で知られる。生牡蠣やしじみの酒蒸しには、樽の効いていない辛口の白か泡を。甲州やデラウェアの軽やかな白が合わせやすい。
岡山の祭りずしばら寿司や酢漬けのままかりには、酸のある白か軽いロゼを(ペアリング:寿司・刺身)。鳥取の冬の松葉がにや山口のふくは、繊細な味を消さない辛口の白や泡で。
酢、出汁、魚介の甘み。瀬戸内と日本海の魚介には、渋みの少ない白と泡が素直に寄り添います。和食との合わせ方は第71講和食とワインもどうぞ。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、5県で合わせて27場です(2025年1月1日現在)。岡山10、広島7、島根4、鳥取4、山口2。島根は同じ資料の別の表で5場とされています。
岡山県は、降水量1mm未満の日数が276.7日で全国1位(1991〜2020年の平年値、県庁所在地などで比較)であることを根拠に挙げています。2位の甲府とは0.6日差です。年降水量も約1,143mmと少なめです。
あります。倉敷市船穂町のふなおワイナリーは、地元産のマスカット・オブ・アレキサンドリアだけでワインを造っています。岡山県によれば、このぶどうは1886年に岡山でガラス室栽培が始まり、県のシェアは全国の9割以上です。
晴れの国と、山陰の白Sun, Sea and Muscat
中国地方のワイナリーは5県で27場。岡山が10場でいちばん多く、日本ワインの出荷数量で全国7位に入ります。岡山は「晴れの国」と呼ばれる雨の少なさで、明治のガラス室のマスカットや、種なしピオーネの技術を育ててきた果物王国です。日本海側の島根では甲州とデラウェアの白と泡が評価され、広島ではシャルドネやメルローの欧州系品種が目立ちます。
1944年の北条ワインから、1950〜90年代の島根・是里・奥出雲・三次、そして2016年以降の新見の小さな造り手、2026年の鳥取の新しい蔵まで。瀬戸内の晴れと、山陰の雲——その二つの空の下で、中国地方のワインは育っています。
次の一本。 今回は中国地方の2本を並べてください。1本目は岡山のマスカット・オブ・アレキサンドリアのワイン。2本目は島根の甲州かデラウェアの辛口の白。生で食べる高級ぶどうの華やかさと、山陰の軽やかな白で、同じ地方のワインの幅を比べてみてください。料理は牡蠣かしじみを、ひと皿。
次回はテーマ編へ。「フランス料理とワイン完全編」。バターとクリームのソース、ブルゴーニュやプロヴァンスの郷土料理、ビストロの定番から、コースの流れに沿ったワインの選び方まで——料理の本場の考え方をたどります(第27講料理ペアリングもあわせてどうぞ)。
