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ワインガイド Vinotier マイリスト

VINOTIER WINE COURSELEÇON LXXXIV

第84講 深掘り

中国地方完全編

岡山は「晴れの国」。 降水量1mm未満の日の数は全国1位で、明治にはガラス室でマスカット・オブ・アレキサンドリアが育てられ始めました。中国山地の北には、雲と雪の多い山陰が広がります。瀬戸内と日本海、二つの空の下の5県に、27のワイナリー。第82講「九州完全編」に続く、日本の産地編です。

晴れの国と山陰マスカット・オブ・アレキサンドリア島根の甲州と泡
中国地方完全編のイメージ
夕焼けで橙色に染まった静かな湖面。遠くの山並みの手前に、木の茂った小さな島が浮かんでいる
宍道湖の夕景と嫁ヶ島 — 島根県松江市。山陰の島根県は、甲州とデラウェアの受け入れ量が中国地方でいちばん多い県だ
— I

中国地方のワインを、数字で見るChugoku in Numbers

第82講九州で雨の国を歩いた日本の産地編は、関門海峡を渡って中国地方へ。瀬戸内海に面した岡山・広島・山口と、日本海側の島根・鳥取。同じ地方でも、空の色がまるで違う5県です。

県ワイナリー数果実酒の製造免許場
岡山10場17場(うち試験免許5)
広島7場17場(うち試験免許3)
島根4場9場(うち試験免許2)
鳥取4場9場(うち試験免許3)
山口2場4場(うち試験免許1)
中国5県27場56場

出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。島根は同じ資料の別の表で5場となっており、資料の中で数字が一致していません。5県の合計は編集部が表の数字を足したものです。

5県のワイナリーは合わせて27場。いちばん多いのは岡山の10場です。同じ調査の上位10都道府県の表では、岡山は日本ワインの製成数量で全国9位、出荷数量で7位に入り、島根も日本ワインの出荷数量で10位に名を連ねています。製造免許を持っていても、2024年に生産・出荷の実績がなかった製造場が少なくないのも特徴です。

回答したワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。

岡山
301t
島根
230t
広島
216t
鳥取
30t
山口
9t

出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)。回答したワイナリーの合計です。

中身を見ると、県の個性が浮かびます。岡山は301tのうち286tが「その他」。統計の表には主要な品種の列しかなく、岡山の名産であるマスカット・オブ・アレキサンドリアやピオーネのような品種は、すべて「その他」にまとめられます。島根はデラウェア57t・甲州54tが柱で、棚で育てた甲州の受け入れ量は山梨に次ぐ全国2位。広島はシャルドネ33t・メルロー27tと欧州系が目立ち、棚で育てたメルローでは全国3位です。

— II

晴れの国と、山陰の空Sunny Setouchi, Misty San’in

中国山地を境に、南の瀬戸内側(山陽)と北の日本海側(山陰)では気候がはっきり分かれます。気象庁の平年値で比べてみましょう。

観測点年平均気温年降水量年間日照時間
岡山15.8℃1,143.1mm2,033.7時間
広島16.5℃1,572.2mm2,033.1時間
山口15.6℃1,927.7mm1,862.0時間
松江(島根)15.2℃1,791.9mm1,705.2時間
鳥取15.2℃1,931.3mm1,669.9時間
(参考)甲府15.1℃1,160.7mm—

出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。いずれも気象台の観測値です。

岡山市の年降水量は1,143mm。第70講山梨の甲府とほぼ同じ少なさです。岡山県は「晴れの国」を名乗っており、その根拠として、降水量1mm未満の日の数が276.7日で全国1位(県庁所在地などで比べたもの)と説明しています。ただし2位の甲府は276.1日で、差はわずか0.6日。岡山と甲府は、雨の少なさで肩を並べる二つの盆地・平野だといえます。

一方、日本海側の松江と鳥取は年降水量が1,800〜1,900mm台、日照時間は1,700時間前後と、岡山・広島より300時間以上短くなります。日本海側は冬に曇りや雪の日が多くなる気候です。それでも島根は中国地方で2番目に多くの原料ぶどうを受け入れています。雨の多い土地でぶどうを育てる工夫は、九州とも通じるところがあります。棚と垣根の違いは第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。

緑の草に覆われた険しい山の稜線。白っぽい岩肌の崖が谷へ落ち込み、奥に山並みがかすんでいる
大山(だいせん)の稜線 — 鳥取県。中国地方の最高峰で、ふもとの伯耆町には大山ワイナリーがある。山陽と山陰を分ける中国山地の北側は、雲と雪の多い土地だ
— III

果物王国のぶどうからFrom Glasshouse Muscat to Wine

中国地方、とくに岡山は、ワインより先に生で食べる高級ぶどうで名を知られてきました。県の資料と各社の公式サイトをもとに、ぶどうとワインの歩みをたどります。

  1. 1886年——岡山でガラス室のマスカット岡山県によれば、明治19年、御津郡野谷村(いまの岡山市北区栢谷)の山内善男がガラス室でマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培を始めました。岡山県のシェアは全国の9割以上とされ、主な産地は岡山市と倉敷市船穂町です。
  2. 1944年——鳥取に北条ワイン鳥取県の案内によれば、東伯郡北栄町の北条ワイン醸造所はこの年の創業です。中国地方のワイナリーの中でも、とくに古い歴史を持つ造り手のひとつです。
  3. 1959年——島根にワインの会社島根ワイナリーの公式サイトによれば、会社の設立は昭和34年。出雲大社に近い現在の場所に施設を開いたのは1986年です。
  4. 1970年代——ピオーネの種なし技術ピオーネは静岡県の育種家が1957年に巨峰とカノンホールマスカットを交配し、1973年に登録された品種です。岡山県は昭和53年ごろから、大粒で種なしのピオーネを安定して作る技術を全国に先駆けて開発し、昭和58年度から生産振興に本腰を入れました。栽培面積は全国1位です(令和2年産)。
  5. 1985年〜1994年——各県にワイナリー岡山・赤磐市の是里ワイン醸造場が1985年に創業。島根・雲南市では1990年、木次乳業の関連会社として奥出雲葡萄園が設立されました。広島では1991年に会社が設立された広島三次ワイナリーが、1994年に営業を始めます。
  6. 2016年以降——小さな造り手と新しい蔵岡山・新見市では、耕作放棄地を再生した畑からdomaine tettaが2016年に醸造所を開き、2018年には同じ哲多町に岡山ワインバレーが生まれました。鳥取・琴浦町には2026年8月、TOTTORI星乃丘ワイナリーがグランドオープンしています。
棚から下がる大粒の黒紫色のぶどうの房。周りには白い紙の袋をかけた房がいくつも吊り下がっている
袋かけされたピオーネ — 撮影地は不明。大粒の黒ぶどうピオーネは、岡山県が栽培面積で全国1位。房に袋をかけて雨や病気から守るのは、日本の生食用ぶどうではおなじみの光景だ
生食のぶどうと、ワインのぶどう。 マスカット・オブ・アレキサンドリアもピオーネも、もとは食べるためのぶどうです。倉敷市船穂町のふなおワイナリーは、地元・船穂産のマスカット・オブ・アレキサンドリアだけでワインを造っています。山ぶどうを使う真庭市蒜山のひるぜんワイナリーは、旧川上村が1981年に始めた村おこしにさかのぼります(農林水産省の事例集)。日本でワインに使われるぶどうの系統は第69講交配品種とクローンへ。
— IV

県ごとの造り手Wineries of Five Prefectures

5県それぞれに、土地の顔をはっきり持った造り手がいます。公式サイトと県の案内で確かめた範囲で紹介します。

domaine tetta岡山・新見市・2016年

建設業から就農した髙橋竜太さんが、耕作放棄地を約8ha再生した畑で。石灰岩質の土地の、岡山の新しい世代の造り手。くわしく

広島三次ワイナリー広島・三次市・1994年

2007年から自社園・専用畑のぶどうで「TOMOÉ」シリーズを発売。日本ワインコンクールで金賞・部門最高賞を重ねている。くわしく

島根ワイナリー島根・出雲市・1959年設立

出雲大社から車で約5分。見学・試飲は無料(公式)。2008年に奥出雲町の標高430〜440mに自社畑「横田ヴィンヤード」を開いた。くわしく

奥出雲葡萄園島根・雲南市・1990年

木次乳業の関連会社として設立。小公子とシャルドネが看板で、庭のカフェやショップを併設する。くわしく

北条ワイン醸造所鳥取・北栄町・1944年

見学は受け付けていないが、直売所で購入でき、公式はほぼ全品を無料で試飲できると案内している。くわしく

山口ワイナリー山口・山陽小野田市

酒蔵の永山酒造が営む。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネを雨よけを付けた垣根で育てる。見学は土日祝の予約制。くわしく

このほか岡山には、赤磐市の農業公園「ドイツの森」にある是里ワイン醸造場、倉敷市のふなおワイナリー、真庭市のひるぜんワイナリーがあり、鳥取には伯耆町の大山ワイナリー、鳥取市国府町の兎ッ兎ワイナリーがあります。なお、赤磐市のサッポロビール岡山ワイナリーは、工場見学とショップの営業を2024年3月15日で終えました。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。

コンクールでの評価

山梨県が公表する日本ワインコンクールの結果では、2023年に広島三次ワイナリーの「TOMOÉ デラウェア 2022」が金賞・部門最高賞に。2024年には島根ワイナリーの「縁結甲州 2023」とスパークリングが金賞、2025年には奥出雲葡萄園の「シャルドネ 2023」が金賞を受けました。2026年は広島三次ワイナリーがスパークリングと甘口の2部門で金賞・部門最高賞を受けています。デラウェアや甲州の白と泡、シャルドネ——中国地方の評価は、白ワインと泡に集まっているといえます。

ワインのGIは、まだない

国税庁の地理的表示の一覧によれば、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、中国地方にワインのGIはありません。中国地方にあるのは清酒の「萩」(2021年)と「鳥取」(2025年10月)です。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。

— V

選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Chugoku

最後に、中国地方のワインを手に取り、産地を訪ね、郷土の食材と合わせるための手がかりをまとめます。

選ぶときの目安

山陽のぶどうらしさ

岡山らしさを知るなら、マスカット・オブ・アレキサンドリアのワイン。生食で知られる華やかな香りのぶどうから造られ、甘口に仕立てたものもある。ラベルで甘辛と造りを確かめたい。広島のシャルドネやメルローは、欧州系の品種で造る日本ワインの比較にも。

山陰の甲州・デラウェアと泡

島根は、甲州やデラウェアの白とスパークリングがコンクールで評価されてきた。軽やかな辛口の白は、魚介の多い山陰の食卓に合わせやすい。泡の基本は第13講スパークリング大全へ。

香りや甘さの表現は一般的な傾向で、銘柄によって異なります。

訪ねる

山陰を軸に出雲・松江・奥出雲・鳥取

出雲大社の参拝と島根ワイナリー、宍道湖の夕景、雲南の奥出雲葡萄園は一日でつなぎやすい。鳥取の北条・大山まで足を延ばせば、山陰のワインを一通り見渡せる。

山陽を軸に岡山・倉敷・三次

マスカットとピオーネの旬(夏〜秋)は果物の直売もにぎやか。倉敷の船穂、赤磐、県北の新見・蒜山、広島の三次と、県内でも行き先を絞るのがこつ。

試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、各県の特徴は岡山・広島・島根・鳥取・山口の産地ページへ。

中国地方の食卓と

中国地方の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからは、第27講料理ペアリングと第77講魚介とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。

辛口の白・泡 × 牡蠣としじみ海と湖の恵み

広島県は養殖かきの生産量が全国1位。島根の宍道湖はしじみ(ヤマトシジミ)で知られる。生牡蠣やしじみの酒蒸しには、樽の効いていない辛口の白か泡を。甲州やデラウェアの軽やかな白が合わせやすい。

白・ロゼ × ばら寿司と蟹酢と甘みに寄り添う

岡山の祭りずしばら寿司や酢漬けのままかりには、酸のある白か軽いロゼを(ペアリング:寿司・刺身)。鳥取の冬の松葉がにや山口のふくは、繊細な味を消さない辛口の白や泡で。

酢、出汁、魚介の甘み。瀬戸内と日本海の魚介には、渋みの少ない白と泡が素直に寄り添います。和食との合わせ方は第71講和食とワインもどうぞ。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Q中国地方にワイナリーはいくつある?

国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、5県で合わせて27場です(2025年1月1日現在)。岡山10、広島7、島根4、鳥取4、山口2。島根は同じ資料の別の表で5場とされています。

Q岡山はなぜ「晴れの国」?

岡山県は、降水量1mm未満の日数が276.7日で全国1位(1991〜2020年の平年値、県庁所在地などで比較)であることを根拠に挙げています。2位の甲府とは0.6日差です。年降水量も約1,143mmと少なめです。

Qマスカット・オブ・アレキサンドリアのワインはある?

あります。倉敷市船穂町のふなおワイナリーは、地元産のマスカット・オブ・アレキサンドリアだけでワインを造っています。岡山県によれば、このぶどうは1886年に岡山でガラス室栽培が始まり、県のシェアは全国の9割以上です。

— Recap

晴れの国と、山陰の白Sun, Sea and Muscat

中国地方のワイナリーは5県で27場。岡山が10場でいちばん多く、日本ワインの出荷数量で全国7位に入ります。岡山は「晴れの国」と呼ばれる雨の少なさで、明治のガラス室のマスカットや、種なしピオーネの技術を育ててきた果物王国です。日本海側の島根では甲州とデラウェアの白と泡が評価され、広島ではシャルドネやメルローの欧州系品種が目立ちます。

1944年の北条ワインから、1950〜90年代の島根・是里・奥出雲・三次、そして2016年以降の新見の小さな造り手、2026年の鳥取の新しい蔵まで。瀬戸内の晴れと、山陰の雲——その二つの空の下で、中国地方のワインは育っています。

次の一本。 今回は中国地方の2本を並べてください。1本目は岡山のマスカット・オブ・アレキサンドリアのワイン。2本目は島根の甲州かデラウェアの辛口の白。生で食べる高級ぶどうの華やかさと、山陰の軽やかな白で、同じ地方のワインの幅を比べてみてください。料理は牡蠣かしじみを、ひと皿。

次回はテーマ編へ。「フランス料理とワイン完全編」。バターとクリームのソース、ブルゴーニュやプロヴァンスの郷土料理、ビストロの定番から、コースの流れに沿ったワインの選び方まで——料理の本場の考え方をたどります(第27講料理ペアリングもあわせてどうぞ)。

Santé, depuis Chugoku.

次に中国地方のワインを開けるとき、瀬戸内の晴れた空と、宍道湖に沈む夕日を思い浮かべてみてください。ガラス室のマスカットから、出雲の甲州、三次のシャルドネまで。果物王国と山陰の白は、同じ地方のもう一つの顔です。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. 宍道湖の夕景と嫁ヶ島 — “Lake-Shinji Yomegashima sunset” by MaedaAkihiko, CC BY-SA 4.0
2. 袋かけされたピオーネ — “Pione Grapes” by Aw1805, CC BY-SA 4.0
3. 大山の稜線 — “Daisen highest peak” by Mass Ave 975 at English Wikipedia, CC BY-SA 3.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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