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World — フランス・ボルドー/メドック・マルゴー

シャトー・マルゴー

Château Margaux / 12世紀に記録(1855年メドック格付け第1級)
シャトー・マルゴーの城館(並木道の先)
シャトー・マルゴーの城館(並木道の先) / Photo: “Château Margaux” by Benjamin Zingg, Switzerland, CC BY-SA 2.5(Wikimedia Commons)
どんな造り手?

シャトー・マルゴーは、ボルドー・マルゴー村の1855年メドック格付け第1級。5大シャトーのなかでも力より香りと均衡で語られる優美な作風で知られ、1810年に着工した新古典主義の城館は「メドックのヴェルサイユ」と呼ばれます。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の長期熟成型で、年産は約12万本ほどです。

力ではなく、均衡で語られる第1級

シャトー・マルゴーは、ボルドー左岸オー・メドック地区、マルゴー村の1855年メドック格付け第1級格付け第1級の5軒のなかで、この蔵だけが村の名前とシャトーの名前を共有しています。作風もまた独特で、ラトゥールの堅牢さやムートンの濃密さとは対照的に、香りの高さ・均衡・きめ細かな質感で語られてきました。

その理由の一端は、土の下にあります。マルゴーの畑はメドックでもとりわけ砂利層が深いとされ、水はけがよく、樹は水を求めて深く根を張る。畑は約80もの区画に細かく分けられ、なかでも壁に囲まれた「ランクロ(l’Enclos)」と呼ばれる高台の一角が中核とされています。カベルネ・ソーヴィニヨンの一部は樹齢80年を超えると伝えられます。

数字で見るシャトー・マルゴー

項目内容
所在フランス・ボルドー左岸、オー・メドック地区マルゴー村(AOC Margaux)
敷地約262〜265ヘクタール(うちぶどう畑は赤用が約80〜82ha)
白用の畑12ヘクタール、ソーヴィニヨン・ブラン100%。平均樹齢は約50年
品種構成(赤)カベルネ・ソーヴィニヨン75%/メルロー20%/プティ・ヴェルド3%/カベルネ・フラン2%
グラン・ヴァン年産約12万本。収穫のうち採用されるのは35〜40%ほど
熟成新樽100%、平均約21か月

注目したいのは、畑の品種構成とボトルの中身が一致しないことです。畑のカベルネ・ソーヴィニヨンは75%ですが、グラン・ヴァンのブレンドは年によって85〜94%に達します。厳しい選別の結果、最良のカベルネだけが残るためです。格付け第1級の実質は、この「捨てる量」にあるとも言えます。

「1855年に唯一の満点」の正体

シャトー・マルゴーを語るとき、決まって出てくるのが「1855年の格付けで唯一20点満点を得た」という話です。ただし、これは二つの出来事が混ざった言い回しである可能性が高いので、整理しておきます。

まず前提として、1855年の格付けにはテイスティングも点数評価も存在しません。ボルドー商工会議所の依頼で仲買人組合が約2週間で作成したもので、基準はそれ以前40年ほどの平均取引価格でした。シャトーを訪ねてもいなければ、サンプルを取り寄せてもいない。つまり「査定で満点」という場面自体がなかったことになります。格付けの成り立ちについては銘醸図鑑「メドック格付け」で詳しく扱っています。

いっぽうで、同じ1855年にパリ万国博覧会が開かれ、その審査ではワインが実際に試飲されました。マルゴーが20点満点を得た唯一のシャトーだったとされるのはこちらの話で、シャトー自身も公式にそう記しています。「格付けで満点」ではなく「万博の審査で満点」——順序を分けて覚えておくと、この蔵の看板の意味がはっきりします。

1977年、蔵が生まれ変わった年

いまでこそ揺るぎない評価を得ていますが、1960年代後半から1970年代のマルゴーは、明確な低迷期にありました。1972年、73年、74年と不良年が続き、ワインは売れ残った。この不振が、1977年の売却につながります。

買い手となったのが、ギリシャ出身でフランスの食品流通業を率いていたアンドレ・メンツェロプロスでした。彼は取得後ただちに、当時のボルドー醸造学の第一人者エミール・ペイノーを招き、畑の排水改良、植え替え、新樽の導入、地下セラーの建設といった投資を集中的に行います。その成果は驚くほど早く現れました。1978年ヴィンテージは、発表と同時に例外的な出来と評され、マルゴー復活の象徴となります。

しかしアンドレは1980年12月に急逝。跡を継いだのは、当時27歳の娘コリンヌ・メンツェロプロスでした。1991年にはイタリアのアニェッリ家が支配株を取得しますが、2003年、ジャンニ・アニェッリの死去にともなう売却の際にコリンヌが先買権を行使し、単独の所有者として買い戻します。彼女は43年にわたって蔵を率い、2023年に退任。現在は息子のアレクシス・ルヴァン=メンツェロプロスが最高経営責任者を、娘のアレクサンドラが監査役会議長を務めています。創業家としては第3代にあたります。

技術面を担ったのがポール・ポンタリエです。1983年、27歳で入社し、1990年から総支配人兼技術責任者。33のヴィンテージを手がけ、2016年に59歳で世を去りました。後任は、1990年から2011年まで彼の下で働き、いったんカリフォルニアのイングルヌックへ移っていたフィリップ・バスコール。2017年に総支配人として戻り、現在に至ります。

城館と、200年ぶりの新築

ラベルに描かれた城館は、ボルドーの建築家ルイ・コンブの設計で、1810年に着工、1815年頃に完成したとされます。列柱の並ぶ新古典主義(パラディオ様式)の姿から「メドックのヴェルサイユ」と呼ばれてきました。もっとも、建てさせたラ・コロニラ侯爵は1816年に世を去り、この館に住むことはありませんでした。

そして2015年、ノーマン・フォスターの設計による新しい醸造施設が完成します。1815年のカーヴ以来、200年ぶりの新築建物でした。醸造設備に加えて研究開発センターと、ぶどう畑の地下へ延びる全長約70メートルの歴史的ボトル保管庫を備えています。

三段(と、もう一段)の階段

銘柄位置づけおぼえておきたいこと
Château Margauxグラン・ヴァン年産約12万本。収穫の35〜40%だけが選ばれる
パヴィヨン・ルージュセカンド公式には1906年ヴィンテージから。メドック最古のセカンドワインとされる。年産約10万本
パヴィヨン・ブランソーヴィニヨン・ブラン100%、年産約1万2,000本。AOCはマルゴーではなくボルドー
Margaux du Château Margauxサード2009年ヴィンテージから。それ以前はバルクで売却されていた

パヴィヨン・ブランがAOCボルドーを名乗る理由は、覚えておくと得をする豆知識です。AOCマルゴーは赤ワインにだけ認められた呼称なので、メドックで造られる辛口の白は、たとえ第1級シャトーのものでも格下に見える表記になる。名称は1920年から変わっておらず、ラベルの意匠もほとんど同じままです。ラベル表示の仕組みそのものは第41講ラベルの読み方完全編で扱っています。

語り継がれる、三つの逸話

逸話どこまでが確かか
トマス・ジェファーソンのちの米大統領は駐仏公使時代の1787年5月にボルドーを訪ね、マルゴーの1784年を購入。翌1788年の書簡で「この国とイングランドの嗜好に照らせば、フランスでこれ以上のボルドーが造られることはありえない」と記した。ただし彼はマルゴーを「筆頭の評判をもつ四つのうちの一つ」と書いており、「1位にした」わけではない
マルゴー・ヘミングウェイ文豪アーネスト・ヘミングウェイの孫にあたるモデル・女優。出生名はMargotだったが、両親が自分を身ごもった夜にシャトー・マルゴーを飲んでいたと10代で知り、綴りをMargauxに変えたと本人が語った。裏付けは本人と家族の証言による
51万9,000ドルの一本「Th.J.」の刻印がある1787年のシャトー・マルゴーは、ニューヨークのワイン商が51万9,000ドルで売りに出していた。ところが1989年、300人が集まる晩餐会で披露している最中にトレイにぶつけて瓶が割れ、中身は流れ落ちた。保険金22万5,000ドルが支払われたと伝えられる

当たり年と、飲み頃

長期熟成型の典型で、若いうちは硬く、本領を現すまでに時間がかかります。一般には最低でも15年ほどの瓶熟成を要し、ピークはヴィンテージから18〜60年という幅で語られます。偉大とされる年は1900、1953、1961、1978、1982、1990、1996、2000、2005、2009、2010、2015、2016、2018、2019、2020、2022など。

100点満点の評価もいくつかあります。ただし正確を期すなら、ロバート・パーカー本人による100点は1900、1990、1996、2000の4つ。2015年以降の100点は、彼の引退後にワイン・アドヴォケイトの別の評価者が付けたものです。2015年ヴィンテージは特別な意匠のボトルでも知られます。ラベルを貼らずガラスに直接印刷したもので、城館200周年、新醸造施設の落成、そしてその年に世を去ったポール・ポンタリエへの追悼という三つの意味が込められています。ヴィンテージの読み方そのものは第29講ヴィンテージと熟成完全編もあわせてどうぞ。

憧れの一本として

グラン・ヴァンの実勢は、日本では近年ヴィンテージでおおむね8万〜13万円。名ヴィンテージになると数十万円規模になります。まず一歩近づくなら、**パヴィヨン・ルージュ(おおむね2万〜4万円台)**が現実的な入口です。同じ畑の同じ考え方で造られたワインを、手の届く価格で確かめられる——セカンドワインという仕組みのいちばんの効用がここにあります。

ボルドーの格付けと産地の奥行きは第5講 ボルドー完全編で、5大シャトーの相互の違いは銘醸図鑑「メドック格付け」で。堅牢なラトゥール、芸術のムートンと並べて飲めば、同じ第1級でも目指しているものがまるで違うことに驚くはずです。

※価格・生産量・体制は時期により変動します。訪問や購入の際は公式サイトの最新情報をご確認ください。

よくある質問

シャトー・マルゴーはどんなワイン?
ボルドー・マルゴー村の1855年メドック格付け第1級シャトーです。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の長期熟成型の赤で、力強さよりも香りの高さと均衡、シルクのような質感で語られることの多い作風。年間生産量はグラン・ヴァンで約12万本ほどです。
「パヴィヨン・ルージュ」とは?
シャトー・マルゴーのセカンドラベルです。公式には1906年ヴィンテージからこの名を冠しており、メドックで最も古いセカンドワインとされています。年産は約10万本。グラン・ヴァンより手が届きやすく、日本ではおおむね2万〜4万円台で見かけます。
なぜ「最もエレガント」と言われる?
重量感や筋肉質さではなく、香りの立ち方・均衡・きめ細かな質感が際立つためです。かつては「最も女性的」とも評されてきましたが、近年はこの表現を避け「香水を思わせる芳香としなやかな質感」と表現されることが増えています。畑がメドックでも特に深い砂利質であることが、この軽やかさの一因と考えられています。
「1855年の格付けで唯一の満点」は本当?
言い方に注意が必要です。1855年の格付けそのものは過去40年ほどの取引価格にもとづく序列で、テイスティングも点数評価も行われていません。ただし同じ1855年のパリ万国博覧会の審査で、マルゴーだけが20点満点の評価を得たとシャトー自身が記しています。「格付けで満点」という言い回しは、この二つが混ざったものと考えられます。
パヴィヨン・ブランはなぜAOCマルゴーではないの?
AOCマルゴーが赤ワインだけに認められた呼称だからです。メドックで造られる辛口の白は、たとえ第1級シャトーのものでもAOCボルドーを名乗ることになります。パヴィヨン・ブランはソーヴィニヨン・ブラン100%で、専用の12ヘクタールの畑から年に約1万2,000本ほどしか造られません。
サードワインもあるのですか?
「Margaux du Château Margaux」があります。2009年ヴィンテージが最初で、それ以前も3番手のロットは存在しましたが、瓶詰めせずバルクで売却されていました。2009年の出来を機に、セカンド同様に樽で熟成させて瓶詰めするようになったとシャトーは説明しています。
見学はできますか?
完全予約制で受け付けられています。公式サイトによれば平日のみで、土日祝と8月、収穫期は休み。試飲は業界関係者に限られています。人気が高く、数か月前からの申し込みが必要とされます。訪問前に必ず公式サイトの最新情報をご確認ください。

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最終更新: 2026-08-12 / 監修: Vinotier編集部