ワインガイド Vinotier
XIX
The World of Sweet Wine

甘口ワインの世界

とびきり甘い、けれど決してくどくない。貴腐・凍結・遅摘みが生む、蜜のような一滴。デザートの時間を主役に変える「甘口ワイン」の世界へ。

テーマ編。第18講ロワールの貴腐シュナンから扉を開けます。キーワードは糖を凝縮する三つの方法・世界の甘口銘酒・酸が支える上品さ
ソーテルヌの貴腐(ノーブル・ロット)が進んだセミヨンの果房
貴腐ぶどう — ソーテルヌのセミヨン。カビ(ボトリティス)が水分を抜き、糖と香りを凝縮させた「貴い腐敗」が、蜜の一滴を生む
— Prologue

とびきり甘い、けれど上品甘口ワインの世界

デザートの時間を主役に変えるのが、甘口ワイン。その魅力は「甘いのにくどくない」こと。蜜のように濃厚でも後味が涼やかなのは、第1講・第2講で学んだ「高い酸が甘さを下支えする」から。糖と酸の綱引きが、上品な甘さを生み出します。

では、その濃厚な甘さはどう造るのか。答えは「ぶどうの糖を凝縮する」こと。第18講ロワールの貴腐シュナンでも触れた、その方法は大きく三つあります。

— How It's Made

甘さの造り方糖を凝縮する三つの方法

共通する原理はシンプル。ぶどうから水分を抜き、糖を凝縮させてから搾る。その「水分の抜き方」に、三つの道があります。

冬、雪をかぶって樹上で凍結したアイスワイン用のぶどう
アイスワイン — 樹上で凍ったぶどうを凍ったまま搾る。水分は氷として残り、凍らない糖分だけが滴る。極寒の収穫が生む奇跡
①貴腐(きふ)Noble Rot

ボトリティスというカビが果皮に付き、水分を蒸発させて凝縮。蜂蜜・杏・サフランの複雑な香りも生む。ソーテルヌやトカイ。白・甘口

②凍結Ice Wine

樹上で凍ったぶどうを凍結したまま搾る。氷(水分)を取り除き、凝縮した糖分だけを得る。ドイツ・カナダの極寒地。白・甘口

③遅摘み・乾燥Late Harvest

完熟まで待って糖を高める「遅摘み」や、収穫後にぶどうを陰干しする「乾燥(パッシート)」で水分を飛ばす。甘口

「貴い腐敗」という逆説 貴腐は、放っておけばただの腐敗。けれど適度な湿度と乾燥が交互に訪れる特別な土地では、カビが水分だけを抜き、蜜のような凝縮と唯一無二の香りをもたらします。自然と人の知恵が出会った、奇跡のような甘口です。

— Around the World

世界の甘口銘酒ソーテルヌからトカイまで

ソーテルヌSauternes・仏

ボルドー南部、貴腐の頂点。セミヨン主体で、蜂蜜と杏の極甘口。シャトー・ディケムが至宝。貴腐

トカイ・アスーTokaji・洪

ハンガリーの貴腐。「王のワイン、ワインの王」と称された歴史的銘酒。甘さの段階を「プットニョシュ」で示す。貴腐

ドイツの貴腐・凍結BA / TBA / Eiswein

第11講ドイツリースリング。BA・TBAの貴腐と、樹上凍結のアイスヴァイン。鮮烈な酸が身上。貴腐/凍結

アイスワインIcewine・加/独

カナダが世界的産地。凍結ぶどうから造る、清らかで濃密な甘口。安定して造れる冷涼地の特産。凍結

ロワールの貴腐Quarts de Chaume

第18講ロワールシュナン・ブラン。高い酸が甘さを引き締めた、優美な貴腐ワイン。貴腐

パッシートPassito・伊

陰干しぶどうの甘口。トスカーナのヴィン・サントなど。ビスコッティを浸して楽しむ食後の定番。乾燥

アルザスの「遅摘み」も フランス・アルザスにも、遅摘みのヴァンダンジュ・タルディヴ(VT)や貴腐のSGNという甘口があります。ゲヴュルツトラミネールなどの芳香品種が、華やかな甘口に。第15講酒精強化のPXとはまた違う、「ぶどう由来の甘さ」の世界です。

— Serving

楽しみ方温度・量・相性

よく冷やすChilled

6〜10℃にしっかり冷やすと、甘さが締まって酸が引き立つ。冷やしすぎたら少し戻して香りを開く。

少量を、ゆっくりSmall Pour

濃厚なのでグラスに少なめが上品。度数も意外に高め。ハーフボトルから試すのが賢い。開栓後も日持ち

相性で選ぶPairing

貴腐×ブルーチーズ・フォアグラは古典の名婚。甘口×フルーツタルトやプリンも好相性。食後

「甘い×塩・苦い」の妙 甘口ワインは、ブルーチーズの塩気やフォアグラのコクと出会うと、互いを高め合います。第1講で学んだ「対比」の妙。甘いものに甘いワインを合わせる「同調」も含め、デザート選びは甘口ワインの一番の楽しみです。

— Recap

デザートの主役蜜の一滴を、上品に

甘口ワインは「糖を凝縮する三つの方法(貴腐・凍結・乾燥)」「世界の甘口銘酒」「酸が支える上品さ」、この三点で見通せます。入門には、ハーフボトルのソーテルヌか、鮮烈な酸のドイツ・リースリングのアウスレーゼ。よく冷やして少量を、ブルーチーズやデザートとあわせて。一杯で、いつもの食後が特別な時間に変わります。

甘口で活躍した芳香品種——ゲヴュルツトラミネールやリースリング。次回はその名手たちが主役を張る、単一品種の聖地へ。フランスで最もドイツに近い、華やかな白の国——アルザス完全編へご案内します。