山ぶどうが根づく高原
岩手のワインを象徴するのが、自生する山ぶどう(ヤマブドウ)。冷涼な気候の高原地帯で、古くから山ぶどうと縁の深い土地です。県北の葛巻町では町内の縄文遺跡から山ぶどうの種が出土するほどで、その実りを生かしたワイン造りが地域の特産となっています。
酸とポリフェノールの力強さ
山ぶどうは、一般的な欧州系品種にくらべ酸とポリフェノールが豊富。そのため色濃く、きりっとした酸の効いた力強い赤が生まれます。近年は山ぶどうとカベルネなどを掛け合わせた交配種ヤマソービニオンの醸造も広がり、飲みやすさと個性を兼ね備えた一本が増えています。県中部の大迫では、欧州系品種による本格派も育っています。
気候と土地の個性
岩手は本州でもっとも冷涼な産地のひとつです。夏には「やませ」と呼ばれる冷たく湿った北東風が吹き込むことがあり、稲作には試練となるこの気候が、ぶどうにはゆっくりとした成熟と豊かな酸をもたらします。県北の葛巻は高原の町で、昼夜の寒暖差が大きく、山ぶどうの野生の力が生きる土地。一方、県中部の大迫は早池峰山の南麓にあたり、雨が比較的少なく水はけがよい——その風土はボルドーに似ていると伝えられてきました。同じ県内に「野生の高原」と「欧州系の谷」が併存するのが、岩手の面白さです。積雪と厳しい冬は栽培の苦労であると同時に、病害虫を抑え、ぶどうの木をゆっくり休ませる恵みでもあります。
主な品種と味わいの傾向
主役はやはり山ぶどう。酸とポリフェノールの豊かさは群を抜き、色濃く野趣あふれる赤になります。その個性を飲みやすく整えたのが交配種ヤマソービニオンで、山ぶどうの酸にカベルネ由来の骨格が加わり、バランスのよい一本に仕上がります。白では、甲州三尺とリースリングの交配から生まれたとされるリースリング・リオンが大迫の看板。冷涼地らしい華やかな香りときれいな酸が持ち味です。デラウェアなど親しみやすい品種も造られ、力強い赤から可憐な白まで振り幅の大きい産地です。山ぶどう系の赤は酸が高いぶん、少し冷やすと引き締まり、常温に近づけるとまろやかさが顔を出します。温度で表情が変わるのも、この品種群の面白さです。
郷土の食との合わせ方
山ぶどう系の赤の豊かな酸と濃い果実味には、ジンギスカンが鉄板の相性です。羊肉の個性とタレの甘辛を、酸がすっきり受け止めます。詳しくは焼肉・BBQとワインもどうぞ。前沢牛や短角牛といった県産牛の赤身には、タンニンのしっかりした赤を。赤身の旨みと山ぶどうの酸は好相性です。一方、三陸の海の幸——牡蠣やホタテ、秋の秋刀魚——には、リースリング・リオンなど冷涼地の白が寄り添います。海と山の幸が揃う岩手ならではの楽しみ方です。葛巻は酪農も盛んな高原の町。地元のチーズと山ぶどうワインの組み合わせは、産地ならではのごちそうです。盛岡冷麺やじゃじゃ麺といった麺文化には、よく冷やした白やロゼが軽快に寄り添い、鹿肉のローストのようなジビエには、山ぶどうの酸と野性味がぴたりと重なります。
ワイナリー巡りのコツ
岩手は広く、ワイナリーは県北の高原から県中部の盆地まで点在しています。巡るなら車が基本で、盛岡を起点に葛巻方面・花巻方面と方角を分けて計画すると無理がありません。高原の蔵は景色そのものがごちそうで、新緑から紅葉の季節がとくにおすすめ。冬は積雪と路面凍結への備えが必須です。見学や試飲の受け入れは時期により変わるため、事前に各蔵の案内を確認しましょう。直売所を併設する蔵では、その土地でしか出会えない一本が見つかることもあります。くずまきワインやエーデルワインのページも訪問の参考にしてください。
産地の歩みとこれから
葛巻の縄文遺跡から山ぶどうの種が出土しているように、この土地とぶどうの縁は数千年の昔にさかのぼると伝えられます。近代のワイン造りは昭和期に大迫で始まり、その後、県北の高原でも山ぶどうを生かした醸造が地域の産業として育ちました。寒さや山がちな地形という条件を、山ぶどうという野生の資源で乗り越えてきたのが岩手の歩みです。日本固有の素材を磨き続けてきたこの蓄積は、他の産地にはまねのできない岩手の財産といえます。冷涼な気候の価値が世界的に見直されるいま、酸のきれいな岩手のワインは追い風の中にいます。北海道と並ぶ「北のワイン」の担い手として、これからが楽しみな産地です。
土地の味を肉とともに
豊かな酸と濃い果実味は、ジンギスカンや焼肉など岩手らしい肉料理の名脇役。風味の強いジビエにも寄り添います。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、ワイナリーガイドで高原の造り手を訪ねてみてください。

