ローヌ川に沿って南北に走る渓谷の中で、この丘だけが向きを違えています。エルミタージュ——中央山塊から切り離された花崗岩の一片が、川の左岸に取り残され、渓谷の軸に対して垂直に張り出した。結果として斜面はまっすぐ真南を向き、背後の急斜面が北風を遮る。フランスの銘醸地でこれほど条件が単純明快な場所は、そう多くありません。
面積はわずか約137ヘクタール。ブルゴーニュの一つの村ほどの広さから生まれるワインが、19世紀にはボルドーの格付けシャトーを「補強する」ために求められていた——それがこの丘の来歴です。
真南を向いた、たった一つの丘
INAOの公式文書は、この丘を「ドローム県における唯一の花崗岩の島」と表現します。ローヌ左岸で花崗岩のテロワールを持つのはここだけ。そして「ローヌ渓谷の軸に対して垂直に向いている」という一文が、この産地のすべてを説明しています。
真南を向いた急斜面は、太陽を最大限に受け止めます。背後の山塊が北からの風を遮り、春霜のリスクをほとんど排除する。生まれるのは「非常に暑いメゾクリマ」——公式文書がそう記すほどの微気候です。その暑さの証拠として、公式文書はボーム地区にオリーブの遺存木が根づいていることを挙げています。北緯45度の地で、オリーブが越冬する。それがこの丘の温かさです。
畑は段々と石垣(ミュレ)に支えられ、機械が入れない急斜面には杭仕立て(エシャラ)のシラーが並びます。規定上の収量上限は40ヘクトリットル毎ヘクタールですが、実際の平均は26ヘクトリットル前後。上限のはるか下で、生産者たちは自ら量を絞っています。
三つの土壌が、三つの性格をつくる

小さな丘でありながら、土壌は驚くほど多様です。INAOの記述をたどると、大きく三層に分かれます。
西側は第一紀の花崗岩が風化した砂質粘土質の土(アレーヌ・グラニティック)。東側は第四紀に氷河が残した古い河岸段丘で、丸石を含みます。そして丘の上部の平坦地にだけ、第四紀末に北風が運んだ石灰質のレス(風成堆積物)が、侵食を免れて残っている。
この地質の差が、そのまま区画(リュー・ディ)の性格になります。
| 区画 | 土壌 | 作風の傾向 |
|---|---|---|
| レ・ベサール Les Bessards | 花崗岩。ほぼ中性のpH | 骨格系の中核。ミネラルの張りと堅固なタンニン、最も長命と評される |
| ル・メアル Le Méal | 氷河由来の白い丸石と砂・シルト。アルカリ性(pH8.5) | 石が熱を放射しベサールより暖かい。絹のような質感と熟した赤い果実 |
| レルミット L'Hermite | 頂上。花崗岩・レス・氷河礫が数十cm単位で入れ替わる | 丘で最も土壌が多様。赤はスパイシーで緻密、白の名区画でもある |
| レ・グレフュー Les Greffieux | 斜面下部。花崗岩に粘土と石灰 | 肉付きがよく、早くから開く。チャーム型 |
| レ・ルクール/シャント・アルエット Les Rocoules / Chante-Alouette | 粘土石灰、レス | 白(マルサンヌ主体)の名区画。厚みと蜜の含み |
興味深いのは、1816年にアンドレ・ジュリアンが挙げた最良の区画——メアル、グレフュー、ベサール、ボーム、ルクール——が、二百年後の今も最上とされていることです。同じ丘の同じ場所が、二世紀にわたって同じ評価を受け続けている。
なお、これらのリュー・ディにはAOC上の法的な地位はありません。ブルゴーニュのような公式の畑階層は存在せず、あくまで慣習的な名称です。
隠者伝説と、その真偽
エルミタージュ(Hermitage)の名は、フランス語の「隠者(エルミット)」に由来します。よく語られるのは、こんな物語です——1224年頃、アルビジョワ十字軍から帰還した騎士ガスパール・ド・ステランベールが、この丘の礼拝堂で祈ったのち定住し、最初の隠者としてぶどうを植えた。
ところが、AOCの規定書そのものが、この話を「外典(apocryphe)」と記しています。物語の出所は1836年にアルベール・デュ・ボワが著した『アルバム・デュ・ドーフィネ』で、十九世紀に広まった後世の創作というのが公式の見解です。銘醸地の規定書が自ら伝説を否定するのは、なかなか珍しいことでしょう。
では、何が裏づけられているのか。同じ文書はこう続けます——タン=レルミタージュ市の文書は1598年以降、複数の隠者が丘に住み着いたことを確かに認証しており、それが「サン・クリストフの丘」から「エルミタージュの丘」への改名につながった、と。
丘の頂に立つサン・クリストフ礼拝堂も、しばしば「十三世紀の建物」と紹介されますが、現存する礼拝堂は1864年の建造です。前身の礼拝堂は1100年頃の文書に記録がありますが、別の建物。現在の礼拝堂は1934年に歴史的記念物に登録され、1919年からポール・ジャブレ・エネの所有となっています。丘そのものは、2013年に景観指定地(site classé)となりました。
ボルドーを「補強した」ワイン
この丘の名声を語るうえで欠かせないのが、hermitagé(エルミタジェ)という言葉です。
十八世紀末から十九世紀にかけて、ボルドーの弱いヴィンテージにエルミタージュを混ぜて色と骨格を補強する慣行が実在しました。これは伝説ではなく史実で、当時のボトルには「hermitagé」「ermitagé」の表記が残っています。密かに行われたものもあれば、ネゴシアンがブレンドを誇らしくラベルに謳った例もありました。エルミタージュは「ヴァン・メドサン(薬用ワイン=補強用ワイン)」として機能していたのです。
その名声は、もっと早くから記録されています。1665年、詩人ボワローの風刺詩には、混ぜ物をした安物が「エルミタージュのワイン」として売られていた——という一節が登場します。十七世紀にはすでに、偽装されるほど有名だったということです。
その後、フィロキセラ禍で畑は壊滅し、この慣行も途絶えました。第一次大戦後にはネゴシアンが数社しか残らず、丘はほとんど放棄状態にあったと伝えられます。復活が始まるのは1970〜80年代。1930年に呼称保護の組合が設立され、境界画定を経て1937年にAOCとして認定されるまでの歩みが、この丘を救いました。
ちなみに、写真に写る斜面の擁壁に描かれた生産者名——あの巨大な文字は、1850年代の鉄道敷設に合わせて書き始められたものです。列車の窓から見えるように、という発想。現存する世界最古級の屋外広告のひとつと言えるでしょう。
白ブドウ15%という、生きた規定
エルミタージュの赤について、しばしば「シラーに白ブドウを15%までブレンドできる」と説明されます。これは正確ではありません。
規定書を読むと、条件は二段構えになっています。まず作付——シラーが作付面積の85%以上で、補助品種のマルサンヌとルーサンヌはシラーの畑への混植(メランジュ・ド・プラン)として、株数の15%まで。次に醸造——白品種とシラーから造るワインは「ぶどうのアッサンブラージュによって醸造される」、つまり混醸(コ・ファーメンテーション)が必須であり、赤ワインと白ワインを後から混ぜることは認められていません。
現代のエルミタージュ赤は、事実上ほぼシラー100%です。混醸を続ける現役の例として知られるのが、マルク・ソレルのル・グレアル(シラー約95%+マルサンヌ約5%)。畑に残る古い混植が、そのまま生きた規定として残っている格好です。
北へ約60キロのコート・ロティでも、シラーにヴィオニエを最大20%まで混醸できます。ただしこちらは実際に広く行われており、ヴィオニエの華やかな香りが加わることで、コート・ロティはより芳しく優雅な表情になります。対してマルサンヌ・ルーサンヌにはそこまでの芳香寄与がないため、エルミタージュでは混醸が廃れた——同じ北ローヌで、同じ制度が正反対の運命をたどったのは、この地方の面白いところです。
赤と白、双方で名を成した唯一のAOC
INAOの公式文書には、こんな一文があります——エルミタージュは北ローヌで、白と赤の双方で名声を築いた唯一のAOCである、と。
赤については、同文書が「濃密な色調、熟した果実・スパイス・下草の複雑な香り。口中は力強くタンニックで、この均衡が優れた長期熟成能力を与える」と描写します。若いうちは黒胡椒とすみれ、そして張りつめたタンニン。十年を超えると革やタバコ、腐葉土といった香りが立ちのぼり、タンニンが溶けていく。おおむね10〜20年、優れた年のものは30年以上を経ても健全と語られます(第29講 ヴィンテージと熟成完全編)。
白はマルサンヌ主体に少量のルーサンヌ。公式文書は「白い花、スパイス、蜂蜜の強い芳香。酸とまろやかさの繊細な均衡を持ち、残糖を残さない」と記します。最良のものは15〜25年という、白としては例外的な長命さを示します。
ただし白には注意点があります。若い数年ののち、一次的な果実の香りが引っ込んで平板に感じられる時期があると、多くの書き手が指摘しています。そして十年前後で、焙煎ヘーゼルナッツや蜜蝋を思わせる複雑さとともに再び開く。「高価な白を開けたのに地味だった」という体験は、この時期に当たっていた可能性があります。
そしてもう一つ、この丘だけの稀少品がヴァン・ド・パイユ(藁ワイン)です。収穫した白ぶどうを藁のベッドや簀の子の上で最低45日間陰干しし、果汁糖度が1リットルあたり350グラムを超えてから搾る。収量はわずか15ヘクトリットル毎ヘクタール。琥珀色をした極甘口で、INAO自身が「量的にはごく僅少」と記す、幻に近い存在です(甘口ワインの選び方)。
買い方と、飲み方
バローロやシャンベルタンと比べると、エルミタージュはまだ手が届く銘醸地です。一般的な生産者の赤なら約1万円前後から、白も1万円台前半から。単一区画のトップキュヴェで3万円台からというのが、日本での実勢のおおよそのところです(為替とヴィンテージで上下します)。
もっと手前から入るなら、丘を取り囲むクローズ・エルミタージュがあります。面積はエルミタージュのおよそ十倍以上で、平坦な沖積土壌の区画も多く含みます。同じ造り手でも価格は二倍以上開くことがあり、丘に接する優れた区画のものは近い表情を見せる——シラーという品種の輪郭を知るには、格好の入口です(品種図鑑: シラー)。
開けるときは、時間を味方につけてください。若いエルミタージュは硬く閉じていることが多く、抜栓後30分から1時間、あるいはデカンタに移すことで表情が変わります。温度は16〜18度。赤身の肉やジビエ、胡椒を効かせた料理と合わせると、タンニンがほどけていくのが実感できるはずです。
基礎からたどるなら、第8講ローヌ完全編をどうぞ。北ローヌの急斜面と南ローヌの平地、二つの顔を持つこの地方の全体像がつかめます。