南北で表情が変わる産地
コート・デュ・ローヌは、ローヌ川に沿って南北に長く広がります。北部はシラー単一で、黒胡椒やスミレを思わせるスパイシーで引き締まった赤。香り高いヴィオニエの白も名高い土地です。南部は温暖で、グルナッシュ主体のブレンドが主流になります。
GSMブレンドとシャトーヌフ
南ローヌの代名詞がGSMブレンド(グルナッシュ・シラー・ムールヴェードル)。果実味・スパイス・骨格を補い合い、豊かで温かみのある赤を生みます。丸い小石に覆われた畑で知られるシャトーヌフ・デュ・パプは、その頂点のひとつです。
力強い料理と
陽光を感じる凝縮した赤は、ジビエや煮込み、スパイスの効いた料理と好相性。しっかりした味付けに負けない力強さがあります。北と南、ひとつの産地で対比を楽しめるのがローヌの醍醐味です。詳しくは第8講 ローヌ完全編へ。
村・アペラシオンによる違い
北ローヌは、急斜面に張り付く小さな銘醸地の連なりです。コート・ロティは「焼けた丘」の名を持ち、白ぶどうヴィオニエの混醸も認められた、香り高くエレガントなシラーを生みます。エルミタージュは堂々たる骨格の長熟型、コルナスはシラーのみで造る武骨な力強さ、コンドリューはヴィオニエの白の聖地です。南では、シャトーヌフ・デュ・パプを頂点に、ジゴンダスやヴァケラスが力強い赤の代表格。タヴェルはロゼ専門のアペラシオンとして知られます。白も見逃せません。シャトーヌフ・デュ・パプにはルーサンヌやグルナッシュ・ブランから造る厚みのある白があり、エルミタージュの白は長期熟成型として知られる、赤の陰に隠れた実力者です。北の緊張感と南の温もり、その間に無数の個性が並びます。
価格帯別の選び方
ローヌには分かりやすい階段があります。入り口は広域のコート・デュ・ローヌで、温かみのある果実味を気軽な帯で楽しめます。次がコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ、さらに村名を付記できるヴィラージュ、その上に単独の村名アペラシオン(クリュ)が続きます。中位ではジゴンダスやヴァケラス、北のクローズ・エルミタージュあたりが狙い目とされます。特別な一本なら、シャトーヌフ・デュ・パプや、コート・ロティ、エルミタージュの世界へ。ラベルに「ヴィラージュ」や村名があるかを確かめるだけで味の見当がつくのは、ローヌの便利なところ。階段を一段ずつ上る楽しみのある産地です。
ヴィンテージと熟成の傾向
温暖で日照に恵まれた南ローヌは、年ごとの差が比較的小さい産地とされます。一方、北ローヌはやや冷涼で斜面の畑が多いため、天候の影響が出やすいと言われます。飲み頃は幅広く、広域クラスは若いうちの果実味を楽しむスタイル。エルミタージュやコート・ロティ、上位のシャトーヌフ・デュ・パプは、10年を超える熟成で黒胡椒や革、ドライハーブの複雑さを開くとされます。グルナッシュ主体の南の赤は、比較的早くから丸みが出るのも特徴です。なお、グルナッシュはアルコールが高くなりやすい品種のため、温暖な年の南ローヌは豊満さが増す傾向があるとされます。軽やかさを求めるなら、標高の高い畑の造り手や北の産地を選ぶと、好みに近づきます。
産地の物語
南ローヌの象徴シャトーヌフ・デュ・パプの名は、「教皇の新しい城」を意味します。14世紀、ローマ教皇庁が南フランスのアヴィニョンに置かれた時代、教皇の夏の居城があったこの村のワインが愛飲されたと伝えられます。20世紀には、この地の生産者たちが品質を守るための規則づくりを主導し、フランスの原産地呼称(AOC)制度の礎になったとされます。粗悪な模倣品からワインの名を守ろうとしたこの運動は、いま世界中で使われる産地名保護の仕組みの原点のひとつと語られます。村の畑を覆う丸い小石「ガレ」は昼の熱を夜まで蓄え、ぶどうの熟度を支えていると言われます。さらに遡れば、北ローヌのコート・ロティやエルミタージュの斜面はローマ時代からの栽培の歴史を持つと伝えられ、川の水運がこの地のワインを各地へ運びました。
似ている産地との比較
シラーの産地として比較されるのが、オーストラリアのシラーズです。同じ品種ながら、北ローヌのシラーは黒胡椒やスミレの香る引き締まった味わい、温暖な豪州のシラーズは甘やかな果実が前面に出る豊満な味わいと、対照的なスタイルとされます。また、隣接するラングドックの赤は南ローヌと品種構成が近く、より気軽な帯で似た方向の味わいが見つかります。GSMという呼び名が新世界で広く使われていること自体、ローヌの様式が世界の赤ワインに与えた影響の大きさを物語ります。詳しくは第42講 南フランス完全編へ。