筑波山麓の新しい産地
茨城のワインづくりは、いま急速に存在感を増しています。つくば・石岡・常陸太田を中心に新しいワイナリーが相次いで誕生し、若い産地ならではの活気にあふれています。とりわけ「日本百名山」筑波山の麓に広がるなだらかな丘陵地は、水はけと日照に恵まれた、ぶどう栽培の好適地です。
特区が後押しする挑戦
茨城ワインを語る鍵が、つくば市の「ワイン特区」。2019年に設けられ、市を挙げてワイン産業を支えています。シャルドネやアルバリーニョといった欧州系品種から日本固有品種まで、土地に合うぶどうを幅広く試す——挑戦の気風が、この産地の魅力です。
気候と土地の個性
茨城は太平洋側の気候に属し、冬の乾燥と豊かな日照が特徴です。冬は晴天が続いて空気が乾き、ぶどうの休眠期を静かに支えます。一方で梅雨から夏にかけては湿度が高く、雨との付き合い方が栽培の腕の見せどころになります。筑波山麓の丘陵地は緩やかな傾斜で水はけがよく、朝晩は平地より気温が下がるため、昼夜の寒暖差が香りと酸を育てます。海に近いエリアから内陸の県西まで、なだらかな地形の中に小さな個性が点在するのが茨城の土地柄です。冬にしっかり冷え込み、生育期に日照を得られるメリハリのある気候は、香り豊かな白品種と相性がよいとされます。
主な品種と味わいの傾向
茨城で目立つのは、シャルドネやアルバリーニョといった白の欧州系品種です。とくにアルバリーニョはスペイン北西部の海沿いで知られる品種で、湿度に比較的強いとされることから、日本の気候に合う白として注目されています。柑橘やハーブを思わせる香りと、はつらつとした酸が持ち味です。晩熟で酸を保ちやすいプティ・マンサンも、温暖な時代に向く白として試みられています。赤ではカベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培され、全体として「濃さよりフレッシュな酸と香り」を生かした軽やかな仕立てが茨城らしさといえます。飲み頃の温度は、白ならしっかり冷やして8〜10度前後、軽やかな赤ならやや低めの14度前後が目安。フレッシュさが身上の茨城ワインは、若いうちに気軽に開けるのが似合います。
郷土の食との合わせ方
茨城の食といえば、冬のあんこう鍋。肝のコクと味噌仕立ての深みには、酸のしっかりした白やロゼが好相性です。あん肝の濃厚さを酸が洗い流し、次の一口を誘います。常陸牛のステーキやすき焼きには、カベルネ・ソーヴィニヨンなど渋みのある赤を。脂の甘みとタンニンが釣り合います。そして「常陸秋そば」で知られる蕎麦には、香りを邪魔しない軽やかな白がよく合います。意外な名脇役が、茨城名物の干し芋やメロン。ねっとりした干し芋の甘みには香り高い白やロゼを、熟したメロンにはほんのり甘口の白をあわせると、和のデザートペアリングとして楽しめます。合わせる基本は「料理の濃さにワインの重さをそろえる」こと。淡い蕎麦から濃いあんこう鍋へ、皿の流れに沿ってワインも重ねていくと、茨城の食卓が一段と豊かになります。鍋との合わせ方は鍋料理とワインでも詳しく解説しています。
ワイナリー巡りのコツ
茨城のワイナリー巡りは、東京から日帰りできる気軽さが最大の魅力です。鉄道の沿線から足を延ばせる立地が多く、車なら畑をはしごする楽しみもあります。おすすめの季節は、新緑の春と収穫期の秋。仕込みの最盛期は見学を絞るワイナリーもあるため、訪問前に各蔵の案内を確認しておくと安心です。試飲を楽しむならドライバーの確保もお忘れなく。特区第一号として知られるつくばワイナリーのように、畑と醸造所をあわせて見られる蔵から始めると、産地の全体像がつかめます。秋には収穫体験やぶどう畑のイベントを開く蔵もあり、産地の一年を肌で感じられます。
産地の歩みとこれから
茨城はもともと梨やメロンで知られる果樹づくりの盛んな土地で、ぶどう栽培の下地がありました。その土壌の上に、2019年の「つくばワイン・フルーツ酒特区」を契機として、新しい造り手が次々と参入しています。歴史の浅さは、裏を返せば型にとらわれない自由さ。土地に合う品種を一から探し、研究機関の集まる学園都市らしく理詰めで栽培に取り組む姿勢は、これからの日本ワインの一つのモデルともいえます。第9講 日本ワイン産地巡りで全国の流れとあわせて眺めると、茨城の立ち位置がより鮮明になります。観光と研究と農業が交わる土地の個性から、次の10年でどんな看板ワインが生まれるのか——新興産地ならではの楽しみです。
日帰りで楽しむ
東京から日帰りできる立地を生かし、景観や体験を楽しむ観光ワイナリーとしても人気です。ぶどう畑の眺めや試飲を求めて、多くの人が足を運びます。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、隣県栃木とあわせて、北関東のワインの広がりを味わってみてください。
