「混ぜる」ボルドー、「畑で選ぶ」ブルゴーニュ
フランスの二大銘醸地は、思想が正反対です。ボルドーは複数のぶどう品種をブレンドし、造り手(シャトー)が味を組み立てます。ブルゴーニュは単一品種を使い、混ぜずに畑(クリマ)ごとの個性を映し出します。この一点を押さえるだけで、ラベルの読み方が一気に変わります。
見た目でも見分けられる
実はボトルの形でも区別できます。ボルドーは肩の張った「いかり肩」、ブルゴーニュはなだらかな「なで肩」。お店で迷ったら形もヒントになります。
味わいは、ボルドーが力強くタンニン豊か、ブルゴーニュが繊細でエレガント。それぞれの詳細はボルドー・ブルゴーニュの産地ページでどうぞ。
なぜ、正反対の流儀になったのか
この違いは好みの問題ではなく、土地の条件から生まれたものだと説明されます。
ボルドーは大西洋に近い海洋性気候で、年ごとの天候の振れが大きい土地です。そこで、熟す時期の異なる複数の品種を植えておけば、ある品種が不作の年でも別の品種が補える。早熟のメルローと晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンを併せ持つことは、保険としても機能してきました。加えて、ジロンド川の左岸は砂利の多い土壌でカベルネが、右岸は粘土石灰質でメルローがよく育つという住み分けもあります。
いっぽうブルゴーニュは内陸の大陸性気候で、東向きの斜面に沿って土壌が細かく入れ替わります。同じ村でも、斜面のどこにあるかで石灰の割合や水はけが変わる。単一品種で造ったほうが、その差がそのまま味に出る——だから混ぜない、という発想です。
格付けの「単位」がまるで違う
初めて両者を比べるとき、いちばん混乱しやすいのがこの点です。
| ボルドー | ブルゴーニュ | |
|---|---|---|
| 格付けの対象 | シャトー(生産者・所有地) | 畑(クリマ) |
| 代表的な仕組み | 1855年のメドック格付け(1〜5級)ほか、地区ごとに複数の格付けが並立 | 地方名 → 村名 → 一級(プルミエ・クリュ) → 特級(グラン・クリュ)の四段階 |
| 畑の所有 | ひとつのシャトーがまとまった畑を所有するのが基本 | ひとつの畑を多数の生産者が分割所有することが多い |
| 造り手選びの重み | シャトー名が品質の目安になりやすい | 同じ畑名でも造り手で大きく変わる |
| 格付けの更新 | 地区により異なる(更新される格付けもある) | 畑の格付けは原則として固定 |
つまりボルドーは「誰が造ったか」、ブルゴーニュは「どこの畑か+誰が造ったか」を読む必要があります。ブルゴーニュで「同じ特級畑なのに価格が十倍違う」ことが起きるのは、畑が細かく分割所有されているからです。1855年の格付けについてはメドックの格付け、ブルゴーニュの畑の考え方はヴォーヌ・ロマネで詳しく扱っています。
白ワインも、性格が分かれる
赤の印象が強い両地方ですが、白もそれぞれに代表格があります。
| ボルドーの白 | ブルゴーニュの白 | |
|---|---|---|
| 主な品種 | ソーヴィニヨン・ブラン+セミヨン(ブレンド) | シャルドネ(単一) |
| 辛口の味わい | 柑橘とハーブの香り、きりっとした酸 | 産地により幅広い。ミネラル感から樽のふくらみまで |
| 代表的な産地 | ペサック・レオニャン、アントル・ドゥ・メール | シャブリ、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェ |
| 甘口 | ソーテルヌ(貴腐ワインの代表格) | 甘口はほとんど造られない |
同じシャルドネでも、冷涼なシャブリと、より温暖なコート・ド・ボーヌの村々では印象が大きく異なります。「ブルゴーニュの白」とひとくくりにできないのも、この地方らしいところです。ボルドーの甘口についてはソーテルヌもどうぞ。
買うときの、実践的な目安
| 予算 | ボルドーで狙うなら | ブルゴーニュで狙うなら |
|---|---|---|
| 〜3,000円 | ボルドー広域や「シャトー〇〇」の中堅。ブレンドの安定感が出やすい | ブルゴーニュ広域名(地方名)や近隣の産地。造り手を頼りに選ぶ |
| 3,000〜1万円 | 格付け外でも評価の高いシャトーが充実する層 | 村名クラスが中心。産地の個性がはっきり出はじめる |
| 1万円〜 | 格付けシャトーやその下位銘柄(セカンドラベル) | 一級畑クラス。特級は流通量が少なく高価 |
もうひとつ、飲み頃の考え方も違います。ボルドーの上級品は若いうちは渋みが硬く、時間をかけて開くものが多い一方、ブルゴーニュは村名クラスなら比較的早くから楽しめるものが少なくありません。買ってすぐ飲むのか、寝かせるのか——目的によって選び分けると失敗が減ります。熟成の考え方は第29講ヴィンテージと熟成完全編、それぞれの深掘りは第4講ブルゴーニュ完全編・第5講ボルドー完全編でどうぞ。