ワインの「欠陥」のひとつ
開けたワインから、濡れた段ボールやカビのような匂いがして、果実の香りが感じられない——それがブショネです。造りの失敗ではなく、主にコルクに由来する不具合で、誰のせいでもありません。
原因はコルク由来のTCA
ブショネの主な原因は、コルクなどに生じる**TCA(トリクロロアニソール)**という化合物です。ごく微量でも、ワインの香りを覆い隠してしまいます。コルクが原因のため、スクリューキャップのワインでは起こりません。
見分け方と対処
濡れた新聞紙・カビ・湿った段ボールのような匂いが目印です。健康への害はありませんが、本来の美味しさは失われています。数十本に1本ほどの頻度で起こるとされ、購入店によっては交換に応じてくれることもあります。
なぜ「ごく微量」で分かってしまうのか
TCAが厄介なのは、人間の鼻がこの物質にきわめて敏感だからです。検知できる濃度は一般に「1兆分の数」という桁で語られ、ワイン中にほんのわずか存在するだけで香りを壊してしまいます。
もうひとつの特徴が、**香りを「足す」のではなく「隠す」**こと。強いブショネならカビ臭としてすぐ分かりますが、軽度のものは不快臭を感じないまま、果実の香りだけがそっと消えます。「なんだか味気ない一本だった」で片づけられてしまう軽症例が少なくないのは、このためです。
発生率は下がってきている
かつては「20本に1本」といった数字が語られた時代もありましたが、コルク業界の洗浄・選別技術の進歩により、近年は発生率が大きく低下していると各所で報告されています。TCAを個別に検査した高品質コルクや、マイクロ・アグロメレートと呼ばれる技術で処理したコルク(DIAMなど)の普及も、その背景にあるとされます。
とはいえゼロにはなっておらず、天然コルクを使う以上、確率的に一定数は起こり得ます。これを構造的に避ける選択が、スクリューキャップやガラス栓、合成栓です。
ブショネと間違えやすい「別の不調」
不快な香りのすべてがブショネではありません。混同されやすいものを整理します。
- 酸化 — 香りが茶色っぽく、シェリーやナッツのようなニュアンス。色もくすみます。保管や輸送の熱・空気が原因のことが多いです(用語: 酸化)。
- 還元 — マッチの燃えかす、ゆで卵、ゴムのような香り。こちらは空気に触れさせると消えることが多い点がブショネとの決定的な違いです。デカンタや強いスワリングで改善するなら還元だった可能性が高いといえます。
- 揮発酸 — 酢やマニキュア液のようなツンとした香り。少量ならワインの複雑さの一部ですが、強すぎると欠陥とされます。
- 熱劣化(ヒート・ダメージ) — 煮詰めたジャムのような香り、コルクの押し上がり。夏場の常温配送や車内放置で起こります。
買う側にできること
ブショネは運の要素が大きいものの、リスクを下げる工夫はあります。温度管理の行き届いた店で買う、長期在庫の底値品を避ける、大切な席では予備の一本を用意しておく——このあたりが現実的です。
そして何より、遭遇したときに堂々と申し出ること。これは消費者のわがままではなく、正当な不良品の指摘です。多くの販売店・飲食店が交換に応じる姿勢を持っています。買い方の考え方は第33講 ワインの買い方完全編でも扱っています。