雨と向き合う南国の産地
宮崎のワイン造りは、降りそそぐ雨との対話から始まります。年間の降水量は世界のぶどう産地と比べてもきわめて多く、収穫期にあたる夏から秋には台風も襲来します。それでも造り手たちは、水はけのよい火山灰土壌(黒ボク土)を生かし、雨よけのフィルムを張り、棚仕立てで風通しを工夫するなどして、この土地ならではのぶどうを育ててきました。代表格が、町産ぶどう100%を掲げる都農ワインです。
キャンベル・アーリーという顔
宮崎を象徴するのが、生食用としても親しまれるキャンベル・アーリー。いちごやアセロラを思わせる愛らしい香りをもち、ロゼやスパークリングに仕立てると、みずみずしくチャーミングな一杯になります。あわせてシャルドネでは台地の個性をまとった白を、マスカット・ベーリーAでは軽やかな赤を——と、温暖な気候のなかでも品種の持ち味を引き出す造りが志向されます。こうした取り組みは国産ワインコンクール(日本ワインコンクール)でもたびたび評価されてきました。
郷土の味とともに
果実味ゆたかでやさしい渋みのワインは、地鶏の炭火焼きやチキン南蛮といった宮崎の食卓の名脇役。冷えたロゼは冷や汁や南国フルーツにもよく似合います。まずは「日本ワイン」とはから背景をたどり、第9講「日本ワイン産地巡り」や、同じ九州の鹿児島とあわせて、南国のワインの個性を味わってみてください。
気候と土地の個性
宮崎は日照時間と快晴日数が全国トップクラスの「太陽の国」です。ぶどうにとってありがたい日差しに恵まれる一方、梅雨から秋にかけては大量の雨が降り、台風の通り道にもあたります。この「日差しと雨が両方たっぷり」という組み合わせこそ、宮崎のワイン造りの出発点です。頼みの綱は、火山灰に由来する黒ボク土の水はけのよさ。降った雨をすばやく逃がすこの土壌と、風通しを考えた畑の設計によって、多雨の土地でも健全なぶどうが育ちます。雨の多い土地では、畑一枚ごとの水はけと風の通り道が品質を分ける——宮崎の畑は、その教科書のような場所です。
主な品種と味わいの傾向
主役のキャンベル・アーリーが選ばれてきた理由は、味わいだけではありません。雨や病気に強く、多雨の宮崎でも安定して熟す——この強さが、生食用として県内に根づいた土台にあります。渋みのもとになる成分が穏やかで香りが華やかなため、赤よりもロゼやスパークリングに仕立てたときに魅力が花開きます。シャルドネからは台地の日差しをまとった白が、マスカット・ベーリーAからは軽やかな赤が生まれ、山ぶどう系の品種では色濃く野性味のある赤への挑戦も見られます。総じて「濃さより、みずみずしさ」。それが宮崎の答えです。飲み頃の温度は、ロゼやスパークリングなら6〜8度前後としっかり冷やして。南国の気候のなかでは、キリッと冷えた一杯のみずみずしさが何よりのごちそうになります。
郷土の食との合わせ方
宮崎の食卓は、鶏と味噌と太陽の恵みでできています。合わせ方の基本は「炭や揚げ物の香ばしさには冷えたロゼと泡、あっさりした料理にはすっきりした白」。難しく考えず、よく冷やして合わせるのが宮崎流です。
- 地鶏の炭火焼き — 炭の香ばしさと弾力のある肉には、よく冷えたキャンベル・アーリーのロゼ。いちごのような香りが炭の香りと意外なほど響き合います。
- チキン南蛮 — 甘酢とタルタルソースのコクには、スパークリング。泡と酸が油分を洗い流し、甘酢の酸味とも自然につながります。
- 冷や汁 — 麦味噌と魚のすり身の冷たい汁には、すっきりしたシャルドネの白。味噌の香ばしさを引き立てながら、夏の食卓を軽やかにします。
ワイナリー巡りのコツ
宮崎のワイナリーは各地に点在しているため、車での移動が基本になります。試飲を楽しむなら、運転は同行者に任せるかタクシーを利用しましょう。南国の日差しは強く、買い求めたワインを車内に置くとすぐに傷むため、保冷バッグがあると安心です。見学や試飲の可否・営業日は事前に公式サイトで確認を。台風シーズンの晩夏から初秋は天候が変わりやすいため、旅程には余裕を持たせると安心です。海や神話の地を巡る宮崎観光と組み合わせれば、太陽の土地のワインを丸ごと味わう旅になります。
産地の歩みとこれから
宮崎・都農町のぶどう栽培は、戦後まもなく、水はけの悪い土地を改良しながら始まったと伝えられます。「ぶどうの不適地」と呼ばれた土地で生食用ぶどうの産地が築かれ、平成に入ってその果実からワインを造る挑戦が始まりました。キャンベル・アーリーのロゼが海外の品評会でも評価されたことで、「多雨の宮崎でも世界に届くワインができる」ことが証明されたのです。日差しと雨に向き合い続けてきた宮崎の経験は、気候変動が語られるこれからの時代、日本ワイン全体の先行事例として一層価値を増していくはずです。焼酎の本場でワインを造る意外性も含めて、宮崎は「常識を疑うことから始まった産地」。その物語ごと、グラスに注いで味わってください。
