酒どころで育つワイン
兵庫といえば「灘の酒」で知られる日本酒王国。けれど神戸市西区の丘陵地では、ワイン専用ぶどうの栽培も盛んに行われてきました。温暖な瀬戸内気候と、水はけのよい丘陵土壌——酒づくりを育んだ風土が、ワインにも豊かな実りをもたらします。
市民とともに育った観光ワイナリー
兵庫ワインの中核は、1984年に神戸市の農業公園として開園した神戸ワイナリー。市民が農業とワイン文化に親しむ観光拠点として発展し、西日本有数のワイナリーに育ちました。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ、シナノリースリングなどが、瀬戸内の陽光のもとで育ちます。
日本酒メーカーとの新章
近年の大きな出来事が、灘の白鶴酒造による神戸ワイン製造の継承(2024年〜)。「日本酒メーカー×ワイン」という、酒どころ兵庫らしい新しい章が始まっています。神戸牛や明石の魚とあわせて楽しめます。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、隣接の大阪とあわせて、関西のワインの個性を味わってみてください。
気候と土地の個性
兵庫県は、日本海から瀬戸内海まで南北に広い県土を持ちますが、ワインづくりの中心は瀬戸内側です。神戸市西区の丘陵地は、晴天が多く雨の少ない瀬戸内式気候に恵まれています。豊かな日照はぶどうの熟度を、なだらかな台地の水はけのよい土壌は根の健全さを支えます。海と山が近い距離に同居する神戸らしい風土——灘の酒を育てたのも、この土地の水と気候でした。雨の多い日本でワインを造るうえで、「雨が少ない」ことがどれほどの強みかを教えてくれる産地です。
もうひとつ注目したいのは、県土の広さがもたらす多様性です。兵庫は瀬戸内の温暖な丘陵から、内陸の盆地、雪の降る日本海側まで、ひとつの県に複数の気候帯を抱えています。ワインづくりの中心は神戸の丘陵ですが、県内の各地でぶどう栽培への取り組みが芽生えており、「兵庫のワイン」の顔ぶれは今後さらに広がっていく可能性を秘めています。酒米・山田錦の名産地でもあるこの県は、そもそも「醸すための農業」に長けた土地なのです。
主な品種と味わいの傾向
温暖な気候を生かし、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンというボルドー品種が赤の柱です。日照に恵まれるぶん渋みは穏やかに熟し、中程度の骨格の、食事と歩調の合う赤になります。白はシャルドネのほか、シャルドネとリースリングを掛け合わせた日本生まれのシナノリースリングも手がけられ、ほのかに華やかな香りの白に。全体として力強さより上品なバランスを身上とする、港町・神戸の食文化に寄り添う味わいです。
郷土の食との合わせ方
神戸牛のステーキには、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローの赤を。サシの甘い脂を、熟した渋みがすっと切ってくれます。明石のタコや鯛には、シャルドネの辛口。瀬戸内の魚介の繊細な甘みに、樽の効きすぎない白がよく合います。そしてビフカツやハヤシライスといった神戸の洋食には、ミディアムボディの赤が万能。デミグラスのコクと果実味が重なる、港町ならではのペアリングです。日本酒の本場だけに、和食の席では灘の酒と神戸のワインを一品ごとに使い分けるのも一興。「醸す県」ならではの、贅沢な食卓の遊びです。
ワイナリー巡りのコツ
兵庫のワイン産地は都市近郊型。神戸の市街地から遠くない丘陵に畑が広がり、神戸ワイナリーのように公園として整備された施設もあるため、家族連れでも訪ねやすいのが特徴です。都市観光や温泉と組み合わせた旅程も立てやすい立地。イベントや施設の営業情報は変わることがあるため、訪問前に公式情報を確認しましょう。試飲をするなら公共交通の利用か、運転しない人の確保を忘れずに。
産地の歩みとこれから
兵庫の醸造の歴史は古く、「灘五郷」は江戸の昔から日本一の酒どころとして知られてきました。ワインはその長い醸造文化の上に、1980年代、神戸市の農業振興策として本格的に始まった比較的新しい取り組みです。市民に開かれた観光ワイナリーとして育ち、近年は日本酒メーカーがワイン製造を受け継ぐという、酒どころならではの展開も生まれています。日本酒の技と文化を持つ土地がワインをどう磨いていくのか——「醸す県」兵庫の次の章に注目です。
