古城が点在する「フランスの庭」。辛口から極甘口、泡まで——あらゆる白を生む宝庫へ。主役は、石を思わせるミネラルのソーヴィニヨン・ブランと、七変化のシュナン・ブラン。

フランス最長の川ロワールに沿って広がる、古城(シャトー)の渓谷。「フランスの庭」と呼ばれるこの地は、フランス随一の多様性を誇るワイン産地です。辛口の白から極甘口、軽やかな赤、ロゼ、そして泡まで——あらゆるスタイルが、エレガントで、しかも手の届く価格で揃います。
把握のコツは二つの白から。「サンセールのソーヴィニヨン・ブラン」と「シュナン・ブランの七変化」。第17講ニュージーランドで弾けたあの品種の「故郷」が、ここにあります。まずは旧世界の本家から。
ロワール上流のサンセールと対岸のプイィ・フュメは、ソーヴィニヨン・ブランの世界的故郷。ニュージーランドが「トロピカルで陽気」なら、こちらは正反対。火打石(シレックス)を思わせるミネラル、柑橘、すっきり静かな佇まい。同じ品種なのに、土地が違えばこれほど表情が変わる——その対比こそ、ワインの醍醐味です。

果実は控えめ、土壌由来のミネラルと酸が主役。食事に静かに寄り添う端正な辛口。白・辛口
「フュメ(燻し)」の名の通り、火打石のスモーキーなニュアンス。サンセールと双子の存在。白
飲み比べのすすめ 第17講のマールボロと、このサンセール。同じソーヴィニヨン・ブランを2本並べると、「新世界=香り全開/旧世界=ミネラルと余韻」の違いが一杯で分かります。第10講ブラインドの最高の教材です。
ロワールが世界に誇るもう一つの白がシュナン・ブラン。高い酸を芯に持ち、辛口から極甘口、泡まで自在に変化する「七変化」の品種です。ヴーヴレやアンジューでは、同じぶどうから驚くほど多彩なワインが生まれます。長期熟成にも耐え、蜂蜜やカリンの香りへと優雅に育ちます。
カリンや洋梨に、引き締まった酸とミネラル。食中に万能の上質な辛口。白・辛口
カール・ド・ショームなど、貴腐の極甘口。高い酸が支え、決して重くならない。白・甘口
シュナンの泡は、りんごのような果実味と爽やかな酸。コスパに優れる本格スパークリング。泡
「酸」が変幻自在の鍵 シュナンが辛口でも甘口でも美味しいのは、第1講・第2講で学んだ高い酸が甘さを支えるから。第11講ドイツのリースリングと同じ理屈で、ロワールのシュナンも甘辛を自在に操ります。
白の印象が強いロワールですが、赤も泡も粒ぞろい。とくにカベルネ・フランの軽やかな赤は、近年世界中で人気が高まっています。
シノンやブルグイユのカベルネ・フラン。すみれや鉛筆の芯の香り、軽やかで瑞々しい。少し冷やしても旨い。赤
大西洋河口の辛口白(ムロン・ド・ブルゴーニュ種)。「シュール・リー」製法の塩気が、牡蠣の最高の相棒。白
アンジューの軽快なロゼや、瓶内二次発酵のクレマン・ド・ロワール。食前から食後まで活躍。泡
カベルネ・フランは「親」だった 第5講ボルドーで名脇役だったカベルネ・フランは、実はカベルネ・ソーヴィニヨンの親品種。ボルドーでは脇役でも、ロワールでは堂々の主役。品種の血筋をたどると、産地のつながりが見えてきます。
ロワールはサンセールのソーヴィニヨン・ブランという本家・シュナン・ブランの七変化・カベルネ・フランの軽やかな赤、この三点で見通せます。最初の一本は、ミネラル感あふれるサンセールか、上質な辛口のヴーヴレ(シュナン)。新世界のソーヴィニヨンと飲み比べれば、「土地が品種を変える」面白さがいっそう深まります。
ロワールには、貴腐が生む極甘口のシュナンもありました。次回はそこから扉を開け、貴腐ワイン・アイスワイン・遅摘み——とびきり甘い、けれど決してくどくない「甘口ワインの世界」へご案内します。デザートの時間の、主役の物語です。