甘くて、強くて、長命。発酵を途中で止めて造るポート・シェリー・マデイラ。食後の一杯を、ぐっと豊かにしてくれる「もう一つのワインの世界」へ。

通常のワインのアルコールは11〜15%ほど。これに対し蒸留酒(ブランデー)を加えて度数を高めたのが、酒精強化ワイン(フォーティファイド)です。アルコールは15〜22%前後と高く、多くは甘口。栓を開けても日持ちし、食後の一杯として世界中で愛されてきました。
主役は三つ、ポート(葡)・シェリー(西)・マデイラ(葡)。第14講スペイン完全編で名前だけ登場したシェリーも、ここで本格的に。まずは「なぜ甘く、なぜ強いのか」——その仕組みから。
鍵は「発酵を止めるタイミング」。ぶどうの糖は、酵母によってアルコールへと変わります(第1講)。その発酵の途中でブランデーを加えると、強いアルコールが酵母の働きを止め、糖が残ったまま・度数は高いままのワインができあがる——これが酒精強化の正体です。

発酵を早めに止めれば、糖が多く残って甘口に。ポートやPXシェリーがこの代表。甘口
糖をほぼ発酵させ切ってから強化すれば、辛口に。フィノやオロロソ(辛口シェリー)がこれ。辛口
「強い」から日持ちする 高いアルコールと(甘口なら)糖が天然の保存料となり、開栓後も数週間〜数か月楽しめるものが多いのが酒精強化の利点。少しずつ味わえる、家庭にやさしいワインです(保存は第14講で触れた基本に加え、保存のコツも参照)。
ドウロ渓谷の甘口が主。若々しいルビーと、樽熟成で枯れたトウニーに大別。チョコやナッツと好相性。甘口・赤
アンダルシアのヘレス。極辛口から極甘口まで振れ幅が世界一広い。産膜酵母「フロル」とソレラが個性の源。辛口〜甘口
大西洋の島の銘酒。加熱熟成で生まれる独特の香ばしさと鮮烈な酸。開栓後ほぼ劣化しない「不死のワイン」。辛口〜甘口
マデイラ「不死」の逸話 かつて船で赤道を越える際、熱と揺れを受けたワインがかえって美味しくなったことから、あえて加熱して熟成させる製法が生まれました。一度開けても何か月ももつため、料理(マデイラソース)にも重宝されます。
酒精強化の奥深さを最もよく示すのがシェリー。同じ土地・同じ品種から、極辛口から極甘口まで生まれます。鍵は、樽の表面に張る産膜酵母「フロル」の有無と、酸化熟成のかけ方。下から上へ、辛口から甘口へ並べてみましょう。
「辛口シェリー」を知ると世界が広がる シェリー=甘い、は誤解。フィノやマンサニーリャはキリッと辛口で、生ハムやナッツ、揚げ物の最高の相棒です。よく冷やした一杯は、第13講スパークリングに並ぶ「食前酒の名手」。ぜひ辛口から試してみてください。
フィノ系の辛口は白ワインのように冷やして。トウニーやオロロソは少し冷やす程度で香りを開く。適温の基本。
辛口=生ハム・ナッツ・揚げ物。甘口=チョコ・ブルーチーズ・バニラアイス。食後のデザート代わりにも。
度数が高く日持ちするが、フィノは繊細で早めに。トウニーやPX、マデイラはゆっくり楽しめる。保存。
少量を、長く 甘く強い酒精強化は、グラス半分でも満足度の高い一杯。少しずつ、何日もかけて味わえるのが魅力です。食後にチョコと一杯のPX——それだけで、ふだんの夜がちょっとした贅沢になります。
酒精強化ワインは「発酵を止めて造る・三大はポート/シェリー/マデイラ・甘辛は止めるタイミング」、この三点で見通せます。入門には、チョコとあわせる甘口のトウニー・ポートか、よく冷やした辛口のフィノ・シェリーがおすすめ。甘いか辛いか、両極から試すと違いがくっきり分かります。
さて、視野は再び新世界へ。灼熱の大地が生む、力強くスパイシーなシラーズの国——オーストラリア完全編。ちなみに豪州は、ラザグレンの極甘口など酒精強化の銘品も隠し持つ国。次回も「強くて甘い」が少しだけ顔を出します。