山岳が育てる冷涼ワイン
岐阜のワインづくりは、まだ始まったばかり。けれど飛騨高山では、標高800m級の冷涼地で欧州系の白ぶどうに挑む、新しい造り手が現れました。高い山に抱かれた澄んだ空気と寒暖差が、ぶどうにきりっとした酸を与えます。大産地にはない、山岳テロワールの個性がここにあります。
欧州系白に挑む
栽培の中心は、シャルドネやピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングといった欧州系の白品種。冷涼な飛騨の地で、繊細できれいな酸の白を生み出します。乗鞍岳を望む高原の畑から生まれるワインは、土地の清冽さをそのまま映します。
飛騨の味とともに
冷涼な酸は、飛騨牛や朴葉味噌、川魚など飛騨の味の名脇役。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、同じく高標高を生かす長野とあわせて、山岳のワインの個性を味わってみてください。
気候と土地の個性
岐阜県は、飛騨と美濃で気候がはっきり分かれます。南の美濃は夏の暑さが厳しい平野部。一方、北の飛騨は標高が高く、冬は雪に閉ざされる山国です。ワインづくりの舞台は、この飛騨側。標高800m級の高地では真夏でも夜は涼しく、ぶどうはゆっくりと熟しながら酸を保ちます。乗鞍岳や北アルプスを望む高原の澄んだ空気、強い日差し、大きな昼夜の寒暖差——冷涼産地の条件がそろった、日本でも指折りの高標高テロワールです。
標高の効果は、数字で考えるとわかりやすくなります。気温は標高が100m上がるごとにおよそ0.6度下がるとされ、標高800mの畑は、平地よりざっと5度近く涼しい計算。緯度を北へ大きく動かしたのと同じ効果を、本州の真ん中で得られるわけです。しかも高地は空気が澄んで紫外線が強く、ぶどうの皮が厚くなり香りの成分が蓄えられやすいともいわれます。「南にあっても涼しい」——それが山岳産地・岐阜の面白さです。
主な品種と味わいの傾向
主役は欧州系の白品種です。シャルドネは冷涼地らしい引き締まった酸の辛口に、ピノ・グリはほのかなコクと香りを備えた白に育ちます。リースリングやソーヴィニヨン・ブランなど、香りと酸で勝負する品種も高地の気候と好相性。総じて、果実の厚みで押すのではなく清冽な酸と繊細な香りで飲ませるスタイルが岐阜の個性です。ドイツやアルザスの白がお好きな方には、特に響く味わいでしょう。楽しむときは冷やしすぎないのがコツ。よく冷えた状態から少し温度が戻るにつれて、高地育ちの白は香りがほどけ、酸の輪郭がやわらかく見えてきます。
郷土の食との合わせ方
飛騨の食卓の定番朴葉味噌には、味噌の香ばしさに寄り添うコクを持つピノ・グリを。清流の鮎の塩焼きには、ソーヴィニヨン・ブランやリースリングの張りのある酸が、ほろ苦いはらわたごと受け止めてくれます。飛騨牛は、しゃぶしゃぶなど繊細な食べ方なら、意外にも酸のきれいな白やロゼが好相性。鶏肉を味噌だれで焼く郷土の味鶏(けい)ちゃんにも、冷やしたロゼや軽めの赤がよく合います。濃い赤で押すのではなく、冷涼な白を軸に組み立てるのが、岐阜ワイン流のペアリングです。
ワイナリー巡りのコツ
岐阜のワイナリーはまだ数が少なく、飛騨高山ワインアポセカリーのある高山エリアが拠点になります。古い町並みで知られる高山観光と組み合わせやすい立地ですが、山あいの畑や施設は公共交通だけでは回りにくいことも。訪問可否や営業日は季節で変わりやすいため、必ず事前に公式情報を確認しましょう。冬は雪道になるため、雪に慣れない方は春から秋の訪問が安心です。試飲をするなら、運転しない人を決めておくことも忘れずに。
産地の歩みとこれから
岐阜は長く、日本ワインの地図では空白に近い土地でした。転機は、標高の高い冷涼地こそ欧州系品種に向く——という近年の見直しです。温暖化が進むなか、かつて「寒すぎる」とされた高地の価値はむしろ高まっており、飛騨のような山岳産地は次の時代の候補地として注目されつつあると伝えられます。長野や北海道が歩んだ道を、さらに高い標高で追いかける挑戦。生まれたばかりの産地の成長を、初期から見守れるのは今だけの楽しみです。
