みずみずしさの正体
レモンを想像すると唾液が出る、あの感覚が酸です。ワインにおいては、爽やかさ・きれいさ・清涼感を生む大切な要素で、欠けると味わいが平坦になります。
産地と酸
酸は冷涼な産地ほど高くなる傾向があります。ぶどうがゆっくり熟し、酸が保たれるためです。シャブリやドイツのリースリングがシャープでエレガントなのはこのためです。
バランスの鍵
酸は甘さやコク、タンニンと釣り合うことで味をまとめます。甘口ワインがくどくならないのは、高い酸が甘さを引き締めているから。料理の脂を切る働きもあり、食卓で頼れる存在です。
酸の「種類」を知ると味が読める
ひとくちに酸といっても、正体は複数の有機酸の組み合わせです。ぶどう由来の主役は酒石酸とリンゴ酸。酒石酸はワインに特徴的で、しっかりした骨格をつくります。リンゴ酸は青リンゴを思わせるシャープな酸で、マロラクティック発酵を経ると、ヨーグルトのようにまろやかな乳酸へと姿を変えます。
同じ「酸が高い」でも、リンゴ酸が残るワインは鋭く張りつめた印象に、乳酸に変わったワインはふくよかで丸い印象になります。シャブリの緊張感と、樽シャルドネのクリーミーさ——この差の一部は、酸の種類の違いから生まれています。
産地で酸はこう変わる
- 冷涼産地(シャブリ、ドイツ・モーゼル、日本の北海道、ニュージーランド) — 酸が高く、線が細く長い。食中酒として万能で、和食とも好相性です。
- 中庸な産地(ロワール、北イタリア、オレゴン) — 酸と果実味が拮抗し、バランス型。飲み飽きしにくいのが持ち味です。
- 温暖産地(南仏、カリフォルニア、豪州、スペイン南部) — 酸は穏やかで、果実の甘やかさとアルコールのボリュームが前に出ます。
近年は温暖化により、伝統的な産地でも酸の維持が課題になっていると語られます。収穫時期を早める、標高の高い畑に植える、といった対応が各地で試みられているとされます。
料理と酸——合わせ方の実践
酸は、ペアリングでもっとも頼りになる道具です。使い方は大きく二つ。
- 脂を切る — 揚げ物、天ぷら、クリームソースなど脂の多い料理に、高い酸のワインを。口の中をリセットして次の一口をおいしくします。詳しくは第27講 料理ペアリング完全編で扱っています。
- 酸に酸を合わせる — レモンを搾る料理、酢を使う料理、トマト料理には、同じくらい酸のあるワインを。ワイン側の酸が低いと、料理に負けて水っぽく感じられます。
逆に注意したいのが、甘い料理と高酸の辛口ワインの組み合わせ。料理の甘さがワインの酸をむき出しにして、酸っぱさだけが際立つことがあります。
「酸っぱい」と「酸がある」は違う
初心者がつまずきやすいのが、この区別です。酸が高いワイン=酸っぱいワイン、ではありません。糖・果実味・アルコール・(赤なら)タンニンと釣り合っていれば、高い酸は「みずみずしさ」「きれいさ」として感じられます。釣り合いを欠いたときだけ、酸は「酸っぱい」という欠点になります。
テイスティングでは、酸そのものの強さではなく、酸が全体の中でどう働いているかを見るのがコツ。この見方を身につけると、ワインの評価がぐっと立体的になります。感じ方の練習は第31講 テイスティングの言葉完全編やハウツー: テイスティングもあわせてどうぞ。