酸の「種類」を変える発酵
ワインづくりには2つの発酵があります。ひとつは糖をアルコールに変えるアルコール発酵。もうひとつが、そのあとに起こる**マロラクティック発酵(MLF)**です。
リンゴ酸 → 乳酸
MLFは、青リンゴのようにシャープなリンゴ酸を、ヨーグルトのようにまろやかな乳酸へと変えます。乳酸菌の働きによるもので、結果としてワインの口当たりが柔らかくなり、クリーミーな風味が加わります。
行う・行わないの選択
ほぼすべての赤ワインでMLFは行われます。一方、白は造り手の狙い次第。樽シャルドネのようにふくよかさを求める場合は行い、リースリングのようにシャープな酸を残したい場合は、あえて抑えることもあります。
何が起きているのか——もう少し詳しく
MLFを担うのは酵母ではなく、乳酸菌です。ワイン用として広く知られるのが Oenococcus oeni で、培養菌として添加されることもあれば、蔵に自生する菌が自然に働くこともあります。
反応そのものは、リンゴ酸(二塩基酸)が乳酸(一塩基酸)と二酸化炭素に分解されるというもの。酸が「一段階弱いもの」に置き換わるため、総酸は下がり、pHはわずかに上がります。ここから、次の三つの効果が生まれます。
- 酸の角が取れる — 鋭さが丸みに変わる。
- 香りが加わる — ジアセチル由来のバター香、乳製品を思わせるニュアンス。
- 微生物的に安定する — リンゴ酸を先に消費してしまうことで、瓶詰め後に予期せぬMLFが起こる(=濁りや発泡の原因になる)リスクを減らせます。
三つめは地味ですが、実務的にはとても重要な理由です。
造り手はどう「制御」するのか
MLFは、放っておけば起こることもあれば、起こらないこともあります。そこで造り手は積極的に制御します。
- 促したいとき — 温度を20度前後に保つ、培養乳酸菌を添加する、亜硫酸の添加を控えめにする。
- 抑えたいとき — 低温に保つ、亜硫酸をしっかり効かせる、濾過して菌を取り除く。
「MLFをしない」という選択は、放置ではなく積極的な介入である点が見落とされがちです。ドイツやモーゼルのリースリング、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランがあのシャープさを保っているのは、意図的にMLFを止めているからです。
部分的に行う、という第三の道
近年よく採られるのが、一部の樽・タンクだけMLFを行い、あとでブレンドするという手法です。全量やれば丸くなりすぎ、まったくやらなければ硬すぎる——そのあいだを、比率で調整するわけです。
温暖化でぶどうの酸が下がりやすくなっている産地では、「あえてMLFを抑えて酸を守る」判断が増えているとも語られます。醸造の選択は、気候の変化とともに動いています。
飲み手として、どう役立てるか
「クリーミーなシャルドネが好き」「シャープな白が好き」——この好みは、実はかなりの部分がMLFの有無で説明できます。売り場やレストランで、**「樽を使っていない、酸のシャープな白を」**と伝えれば、MLFを抑えたタイプが出てくる確率が高くなります。
逆に、品種: シャルドネのようにMLFと樽の両方が効いたスタイルは、クリームソースやバターを使った料理と自然に響き合います。造りの言葉を一つ知ると、注文と選択がぐっと具体的になります。