ヌーヴォーだけじゃない
毎年11月の「ボージョレ・ヌーヴォー」で有名なボージョレ。けれど、その魅力は新酒だけではありません。ガメイから生まれる、フレッシュな果実味と軽い口当たりの赤は、渋みが穏やかで気軽に楽しめます。少し冷やして飲むのもおすすめです。
本格派の「クリュ・ボージョレ」
ボージョレ北部には、フルーリーやモルゴンなど10の特級村(クリュ)があります。これら「クリュ・ボージョレ」は、ヌーヴォーの軽快なイメージとは一線を画す、骨格と熟成能力を備えた本格的な赤。ガメイの奥深さを知る入口になります。
エリア・村による違い
ボージョレは南北に長い産地で、大きく三つの階層に分かれます。南部の粘土質土壌が中心の広域ボージョレは最も軽やかで早飲み向き。北部の丘陵にあるボージョレ・ヴィラージュは花崗岩質の土壌が増え、果実味に芯が通ります。そして最北の10村だけが名乗れるのがクリュ・ボージョレです。
クリュの中にも個性の幅があります。花を思わせる香りで知られるフルーリーやシルーブルは軽やか寄り。一方、最も力強いとされるムーラン・ナ・ヴァンや、凝縮感のあるモルゴン(特にコート・デュ・ピィの丘)は、数年の熟成に耐える骨格を持ちます。「聖なる愛」を意味するサンタムールは、その名前から贈り物にも選ばれる村です。
ヴィンテージと熟成の傾向
ボージョレの大半は若いうちのフレッシュさが命で、ヌーヴォーは数か月以内、広域やヴィラージュも1〜3年で飲み切るのが基本です。ただしクリュ・ボージョレは別物で、モルゴンやムーラン・ナ・ヴァンの良年は5〜10年の熟成に耐え、熟成するとピノ・ノワールに似た妖艶さが出てくると言われます。年による差は、冷涼な年は酸が際立って軽快に、温暖な年は果実が凝縮して厚みのある味わいになる傾向があります。ヌーヴォーはその年の作柄をいち早く映す「速報」でもあるので、気に入った年はクリュを買って寝かせてみる、という楽しみ方もできます。
価格帯別の選び方
- 〜2千円 — 広域ボージョレやヴィラージュの中心価格帯。フレッシュな果実味を気軽に楽しむなら、この帯で十分に満足できます。
- 2〜5千円 — クリュ・ボージョレの主戦場。村ごとの個性の違いや、自然派の造り手の個性的な一本に出会える価格帯です。
- 5千円〜 — 有名生産者の単一区画や、樹齢の高い区画(ヴィエイユ・ヴィーニュ)のもの。ボージョレの印象が変わる本格派が見つかります。
合う料理と同郷合わせ
ボージョレのすぐ南は美食の都リヨン。郷土の定番は、ソーシソン(太めのソーセージ)や鶏料理、シャルキュトリー(ハム・パテ類)で、軽く冷やしたボージョレの酸と果実味が塩気と脂をすっと流してくれます。日本の食卓なら、焼き鳥や唐揚げ、ハムサラダなどが同じ理屈で好相性。渋みが穏やかなので、醤油やみりんの甘辛い味付けともけんかしません。詳しくはシャルキュトリーとの合わせ方もどうぞ。
似ている産地との比較
同じ「軽やかでエレガントな赤」として、ブルゴーニュのピノ・ノワールとよく比較されます。違いは香りの質で、ガメイはイチゴやチェリーにバナナを思わせる愛嬌のある香り、ピノ・ノワールはラズベリーや土を思わせる複雑さが持ち味です。価格はボージョレのほうがずっと手頃なので、ブルゴーニュ入門の一歩前として楽しむのも、熟成したクリュでピノに迫る奥深さを試すのもおすすめです。
産地の物語
ボージョレの味わいを特徴づけるのが、房ごと発酵させるマセラシオン・カルボニックと呼ばれる醸造法です。タンクに満たした炭酸ガスの中でぶどうの内部から発酵が始まり、渋みを抑えたまま、バナナやキャンディを思わせるチャーミングな香りを引き出します。ヌーヴォーの軽やかな飲み口は、この技法あってのものです。新酒の解禁日は、かつて出荷競争が過熱したため法律で統一され、現在の「11月の第3木曜日」に落ち着いたと伝えられます。時差の関係で日本は本国より早く解禁を迎えるため、1980年代のバブル期には世界に先駆けて乾杯する国として一大ブームになりました。一方で近年は、モルゴンの造り手たちを中心に自然派ワインの聖地としても再評価が進み、「安くて軽いだけ」ではないボージョレの新しい物語が始まっています。