ワインガイド Vinotier
XXVIII
Region Deep Dive — Pacific Northwest

オレゴン&ワシントン完全編

山脈ひとつ隔てて、緑の雨と乾いた砂漠。オレゴンの繊細なピノ・ノワールと、ワシントンの力強いカベルネ・シラー。同じ北西部の、対照的な二つの顔。

産地深掘りシリーズ、ふたたびアメリカへ。第12講カリフォルニアとは対照的な北西部。キーワードはウィラメットのピノ・ノワール・コロンビア・ヴァレー・カスケード山脈
針葉樹の森に囲まれた、オレゴン・ウィラメット・ヴァレーの緑ゆたかなぶどう畑
ウィラメット・ヴァレー — 針葉樹の森に抱かれた、緑ゆたかな丘の畑。雨と冷涼な空気が、繊細なピノ・ノワールを育てる
— Prologue

山が分けた、二つの顔緑の雨と、乾いた砂漠

アメリカのワインはカリフォルニアだけではありません。その北に広がるオレゴンワシントン——太平洋岸北西部は、いま世界が注目する産地です。面白いのは、この二州がまるで正反対の顔を持つこと。分けているのは、南北に走るカスケード山脈です。

山の西側(オレゴンのウィラメット)は雨が多く冷涼で、繊細なピノ・ノワールの地。山の東側(ワシントンのコロンビア)は雨雲がさえぎられた乾いた砂漠で、力強いカベルネとシラーの地。第12講カリフォルニアの陽光とはまた違う、「繊細」と「力強さ」が並び立つ北西部へ。

— Oregon

アメリカのブルゴーニュウィラメットのピノ・ノワール

オレゴンの主役は、まぎれもなくピノ・ノワール。舞台はウィラメット・ヴァレーです。雨が多く冷涼で、ぶどうが完熟しきらない年もある——そんな「ぎりぎりの気候」こそ、ピノ・ノワールが繊細さを発揮する条件。カリフォルニアの豊満さとは対照的に、赤い果実の可憐さ、土や森を思わせる複雑さ、しなやかな酸が身上です。第4講ブルゴーニュと比べられるのも納得の作風です。

ピノ・ノワールPinot Noir

ラズベリーやチェリー、森の下草。エレガントで酸が美しく、料理に寄り添う。

ダンディー・ヒルズDundee Hills

火山由来の赤い土壌「ジョリー」で知られる銘醸地。ウィラメット内にも個性ある小地区が点在。

ピノ・グリPinot Gris

白ではこの品種が広く根づく。洋梨やりんごの果実味に、爽やかな酸。

年による差Vintage

冷涼で雨も多いため、ヴィンテージによる出来の差が大きい。それもまた旧世界的な魅力。

ブルゴーニュが認めた土地 1960年代、「ここならピノ・ノワールが育つ」と信じた造り手たちが開拓したのがウィラメットの始まりとされます。やがてその実力は本場ブルゴーニュの名門をも動かし、現地に拠点を構えるまでに。冷涼な気候を味方につけた、新世界の中の「旧世界的な産地」です。

— Washington

砂漠が生む力強さコロンビア・ヴァレー

カスケード山脈を東へ越えると、風景は一変します。雨雲がさえぎられたコロンビア・ヴァレーは、年間降水量のごく少ない半砂漠。畑は川からの灌漑で潤されます。ここではカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーが主役。日中は暑く、夜はぐっと冷える——この寒暖差が、熟した果実味と、引き締まった酸・骨格を両立させます。

ワシントン州レッド・マウンテンの紅葉した畑と、その背後に広がる乾いた丘
コロンビア・ヴァレー — 山脈が雨をさえぎった乾いた大地。背後の丘は草木もまばら。灌漑と大きな寒暖差が、力強い赤を生む
カベルネとメルローBordeaux

熟した黒系果実に、しっかりした骨格。ボルドー型ブレンドも高い評価を得る。

シラーSyrah

スパイスと肉感を帯びた、凝縮感のある赤。近年とくに注目される品種。

リースリングRiesling

白ではリースリングやシャルドネも。冷える夜が、鮮やかな酸を守る。

「新世界の果実、旧世界の骨格」 ワシントンの赤がよく評されるのがこの言葉。カリフォルニアほど甘やかでなく、ボルドーほど厳格でもない——熟した果実味と引き締まった酸が同居する、ちょうど中間の心地よさです。ウォラウォラやレッド・マウンテンなど、小地区ごとの個性も見どころ。

— Compare

三つのアメリカカリフォルニアと並べてみる

カリフォルニアCalifornia

陽光ゆたかで豊満。凝縮した果実味とふくよかさ。第12講カリフォルニアへ。

オレゴンOregon

冷涼で雨が多く、繊細でエレガント。酸が美しく、ピノ・ノワールが主役。

ワシントンWashington

乾いた砂漠と大きな寒暖差。熟した果実味と引き締まった骨格の力強い赤。

「アメリカワイン=濃い」ではない 同じ国でも、気候が変われば作風はまるで違います。繊細なピノを飲みたいならオレゴン、力強い赤ならワシントン、豊満さを楽しむならカリフォルニア。三つを飲み比べれば、「産地が味を決める」という本シリーズの原則が、いちばん分かりやすく体感できます。

— Recap

繊細と力強さ、並び立つ山脈が描いた地図

アメリカ北西部はウィラメットの繊細なピノ・ノワール・コロンビア・ヴァレーの力強い赤・分け隔てるカスケード山脈、この三点で見通せます。最初の一本は、エレガントなオレゴンのピノ・ノワール。ブルゴーニュ好きなら、きっと驚くはず。力強さを求めるならワシントンのカベルネやシラーを。同じ国、山ひとつ隔てただけで、これほど違う——それを味わうのが、この産地のいちばんの楽しみです。

産地を巡ったら、また実践のコツへ。「当たり年って何?」「そのワイン、いつ飲むのが正解?」——ヴィンテージと熟成完全編で、年号の読み方と、飲みごろの見極め方をご案内します。