「味わう」を少し意識するだけ
テイスティングは専門家だけのものではありません。色を見て、香りを嗅ぎ、口に含む——この流れを少し意識するだけで、いつものワインがぐっと豊かに感じられます。
基本の4ステップ
- 見る — 色合いや濃さ。若さや品種のヒントになります。
- 嗅ぐ — 果実・花・スパイス・樽などの香り。
- 味わう — 甘み・酸・タンニン・ボディのバランス。
- 余韻 — 飲み込んだあとに香りや味がどれだけ続くか。
途中でスワリング(グラスを回す)と、ワインが空気に触れて香りが開きます。
上達のコツは「飲み比べ」
一番の近道は比べること。「同じ品種を産地違いで」「赤と白を並べて」飲むと、違いが浮かび上がり、感じたことを言葉にしやすくなります。第10講のブラインド実践は、その総仕上げです。
香りは「三つの層」に分けて考える
香りを言葉にできない最大の理由は、いきなり細かい名前を探そうとするからです。まずどこから来た香りかで三つに分けると、一気に整理がつきます。
| 層 | 由来 | よく使われる表現 |
|---|---|---|
| 第一の層(ぶどう由来) | 品種そのものが持つ香り | ベリー、柑橘、青草、花、ハーブ、香辛料 |
| 第二の層(発酵由来) | 酵母や乳酸発酵から生まれる香り | パン、ヨーグルト、バター、酵母 |
| 第三の層(熟成由来) | 樽と瓶の中の時間が生む香り | ヴァニラ、トースト、なめし革、キノコ、枯葉 |
若いワインは第一の層が中心で、年を重ねるほど第三の層が主役になっていきます。「果実の香りが前に出ているから若い」「土や革の香りが強いから熟成している」——この見立てができるだけで、テイスティングは急に立体的になります(第29講 ヴィンテージと熟成完全編)。
味わいは五つの物差しで測る
口に含んだときに確かめるのは、次の五つです。当てるためではなく、比べるための座標軸だと考えてください。
- 甘み — 辛口か、ほのかに甘いか、はっきり甘いか。
- 酸 — 口の中で唾液が出る感じの強さ。冷涼な産地ほど強い傾向があります。
- タンニン(赤のみ) — 口の中が乾く感覚。量だけでなく、きめの細かさも(用語: タンニン)。
- ボディ — 液体の重さの印象。水と牛乳のあいだのどこか、と考えるとつかみやすくなります。
- 余韻 — 飲み込んだあと、香りと味が何秒残るか。一般に長いほど質が高いとされます。
慣れないうちは、この五つをそれぞれ「弱い・中くらい・強い」の三段階で決めるだけで十分です。細かい形容詞は後からついてきます(第31講 テイスティングの言葉完全編)。
スワリングの、正しいやり方
グラスを宙で回そうとすると、たいてい溢れます。テーブルに置いたまま、脚を持って小さく円を描くのが確実な方法です。ボウルの底の液体が壁面に薄く広がり、香りが立ち上がれば成功。派手に振り回す必要はまったくありません。
なお、スパークリングは回しません。せっかくの炭酸が抜けてしまいます。泡のワインは、立ち上がる泡そのものが香りを運んでくれるので、静かに置いておけば十分です。
家でできる、三つの練習メニュー
- 同じ品種、違う産地 — 例えばシャルドネを、冷涼な産地と温暖な産地で一本ずつ。酸の強さと樽の使い方の差が、驚くほどはっきり出ます。
- 同じワイン、違う温度 — 一本を、よく冷やした状態と、少し置いて温度が上がった状態で。同じ液体とは思えない変化を体験できます(提供温度(適温))。
- 同じワイン、違うグラス — 万能型とコップで飲み比べる。「グラスで変わる」が実感に変わります(ワイングラス)。
いずれも、変える要素をひとつだけにするのが要点です。二つ以上変えると、何が効いたのかわからなくなります。
感じ方を邪魔しないための環境
- 香りの強いものを近くに置かない — 香水、柔軟剤、灰皿、生花。テイスティングの前は自分の手も洗っておきます。
- 明るく、白い背景で — 色を見るなら白い紙やテーブルクロスの上が理想です。
- 空腹すぎない状態で — 極端な空腹はアルコールの影響を強めます。水を並走させるのも忘れずに。
- メモを一行だけ残す — 「酸が強い、レモン、好き」。それで十分です。記録は語彙の貯金になります。
よくある誤解
- 「テイスティングは品種を当てるゲーム」 — 違います。目的は次に選ぶ一本の精度を上げること。当てられなくても、好みの輪郭がはっきりすれば成功です。
- 「高いワインほど違いがわかりやすい」 — むしろ逆のことが起こります。高価なワインは要素が複雑に溶け合っているぶん、初心者には輪郭がつかみにくいことがあります。個性のはっきりした手頃な一本のほうが、練習には向きます。
- 「音を立ててすするのが正式」 — 空気と一緒に含む方法は香りを立たせるための技術ですが、必須ではありません。食事の席では無理に真似しなくてかまいません(第35講 レストランでのワイン完全編)。